内科学 第10版 「有棘赤血球舞踏病」の解説
有棘赤血球舞踏病(錐体外路系の変性疾患)
神経有棘赤血球症(neuroacanthocytosis)は,おもに常染色体劣性有棘赤血球舞踏病(autosomal recessive chorea acanthocytosis:ChAc)と伴性劣性遺伝性を示すMcLeod症候群を指して使われる用語であるが,そのほかにもHuntington disease-like 2(HDL2)やパントテン酸キナーゼ関連神経変性疾患(pantothenate kinase-associated neurodegeneration:PKAN)のように有棘赤血球症と不随意運動をきたす疾患が存在する.また,血清リポ蛋白質異常疾患の中には,β-リポ蛋白質欠損症のように有棘赤血球症と脊髄小脳変性,末梢神経障害や網膜の変性をきたすものがあるが,舞踏運動をもたらす大脳基底核の変性はみられない.これらの疾患群は,いずれも疾患原因遺伝子が同定されており,遺伝子診断が可能である.(表15-6-13)
a.有棘赤血球舞踏病
常染色体劣性遺伝性を示し,国際的にもまれな疾患で,わが国からの報告例が比較的多い.成人期早期の発症例が多く,舞踏運動を主とした不随意運動,てんかん,強迫~常同症状や人格変化および皮質下認知症などの精神症状,軽度の筋力低下,深部腱反射低下などの神経筋症候を多彩に示し,Huntington病の症状と類似する.不随意運動の性状としては,口腔舌のジスキネジア/ジストニア運動が激しく,症例の多くが自咬症を伴う(図15-6-21).瞬間性の顔面のしかめ眉などの不随意運動からチック性障害と診断されている例も存在する.末梢血には種々の程度の有棘赤血球症を呈する(図15-6-22)が,貧血には至らない程度であることが多い.まれではあるが,拡張型心筋症を合併した報告例もある.血液生化学的には血清CK値の軽度上昇が認められる.神経病理学的には,Huntington病に類似して尾状核および被殻の神経細胞脱落とグリオーシスが認められ,まれではあるが症例によっては黒質の変性も認め,症状としてパーキンソニズムを伴う.画像診断的には,MRIでは尾状核の萎縮が顕著に認められ(図15-6-23),Huntington病症例のそれと酷似する.疾患原因遺伝子として9番染色体長腕9q21に存在するVPS13Aが同定された(Rampoldiら,2001;Uenoら,2001)が,遺伝子産物蛋白質choreinの機能はいまだ詳細不明である.患者症例のVPS13A遺伝子には機能喪失型の変異がホモ接合性もしくは複合ヘテロ接合性に見つかることが多い(Tomiyasuら,2011).治療的には,舞踏運動に対してはドパミンD2受容体阻害作用のある抗精神病薬が有効であり用いられることが多い.その他,てんかんに対しては抗てんかん薬,ジストニア症状にはボツリヌス毒素療法などで対症的に対処される.舞踏運動に対して機能外科的に深部脳刺激を用いた方法の報告もある.予後は不良で,緩徐に慢性進行性に経過し,筋力低下や認知症症状から臥床傾向となり,口腔舌の不随意運動に基づく摂食嚥下障害などから感染症を引き起こして死亡する例が多い.[佐野 輝]
■文献
Rampoldi L, Dobson-Stone C, et al: A conserved sorting-associated protein is mutant in chorea-acanthocytosis. Nat Genet, 28: 119-120, 2001.
Ueno S, Maruki Y, et al: The gene encoding a newly discovered protein, chorein, is mutated in chorea-acanthocytosis. Nat Genet, 28: 121-122, 2001.
Tomiyasu A, Nakamura M, et al: Novel pathogenic mutations and copy number variations in the VPS13A gene in patients with chorea-acanthocytosis: Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet, 156B: 620-631, 2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報