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尾状核,被殻,淡蒼球,扁桃体,前障の総称名。大脳の灰白質は表層の大脳皮質と深部の大脳基底核とに大別される。今日では大脳は終脳と同義に使用されるが,もともと大脳は終脳,間脳,中脳の総体を指す。したがって大脳深部灰白質としての大脳基底核の内容は研究者によって異同があった。上記五つの構造物を指すのが一般的であるが,これに視床,マイネルト基底核を加えることがある。また扁桃体と前障を除外する場合がある。前障は島皮質の一部であり,扁桃体は側頭葉皮質から発達したとする見方があったからである。しかし,これらの構造物の神経結合と機能が明らかにされるにつれ,扁桃体と前障は海馬や視床下部とともに大脳辺縁系の一環として論じられ,一方,錐体外路系としての尾状核,被殻,淡蒼球は視床下核(ルイ体),黒質,赤核などとともに論じられるようになった。しかも後者の系列を論じる際に大脳基底核の術語が用いられるため,大脳基底核は大脳における錐体外路系皮質下構造物を指す傾向が強くなった。本項ではこの用法に沿って解説したい。
尾状核,被殻,淡蒼球のうち,尾状核と被殻は個体発生的,組織学的,機能的に線条体corpus striatumとして淡蒼球globus pallidumに対置される。すなわち,線条体が大脳半球由来であるのに対し,淡蒼球は視床下核とともに間脳由来である。そして,哺乳類になって出現する内包によって淡蒼球は視床下核から分断されて大脳半球内に押し込まれて被殻に接着したと説明される。同様に線条体も内包によって二次的に尾状核と被殻とに分離されたという。尾状核と被殻とが内包を直角に貫く線条の灰白質によって連結されているのは,この両者がもともと一体であったなごりとされ,線条体の名称もここに由来する。ちなみに被殻と淡蒼球はレンズ核とよばれる。組織学的には,線条体は小型神経細胞を主体として有髄繊維に乏しく,淡蒼球は大型神経細胞を主体として有髄繊維に富む。機能的には臨床的に,線条体障害で運動亢進・筋緊張減退症候群,淡蒼球障害で運動減少・筋緊張亢進症候群を呈することが早くから知られている。また,視床下核障害でヘミバリスム,黒質障害で振戦麻痺(パーキンソン症候群),小細胞性赤核障害でベネディクト症候群を呈することが知られている。これらの症状はすべて錐体外路系症候群として一括される。臨床的経験から,これらの構造物が横紋筋を制御する体性運動神経系に属することは明らかであるが,これらの構造物がどのような伝導路によって最終的に脊髄運動神経細胞に接続するかは必ずしも明らかではない。
線条体は大脳新皮質の広範囲の領野から求心性繊維を受け,淡蒼球と黒質網様部に遠心性繊維を送る。淡蒼球は視床下核と相互的神経結合をもつとともに,その遠心性繊維はレンズ核束(H2),視床束(H1)として視床腹部においてループを描いて視床腹外側核に終わる。視床腹外側核に起こる神経繊維は大脳皮質運動野に終わり,ここからは錐体路が下行する。一方,線条体からの遠心性繊維を受ける黒質網様部は視蓋に神経繊維を送り,視蓋は視蓋網様体路によって脳幹網様体と両側性に神経結合をもつ。脳幹網様体からは網様体脊髄路が下行する。黒質黒色部については,その遠心性繊維は線条体に終わるが求心性繊維については定説がない。赤核には大細胞性と小細胞性とが区別され,前者からは赤核脊髄路が下行するのに対し,後者は主オリーブ核に遠心性繊維を送る。また,大細胞性赤核は大脳皮質運動野と小脳中位核から求心性繊維を受けるのに対して,小細胞性赤核の求心性繊維については不明なことが多い。小細胞性赤核はヒトで著しく発達し,大細胞性赤核は退化してその尾端に痕跡的に残っている。ヒトでは小細胞赤核とともに主オリーブ核,小脳歯状核が著しく発達しており,これらの間の赤核→オリーブ核→対側の歯状核→赤核という閉じた三角形の神経回路が錐体外路で重要な役割を果たしているであろうとする説がある。小細胞性赤核の神経結合や機能の解明が期待される。
→脳
執筆者:金光 晟
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…これに対し,中枢神経系(脳と脊髄)内における神経細胞体の集合を(神経)核nucleus(細胞の〈核〉と文字は同じであるが概念はまったく違う点に注意)という。しかし,中枢神経内の神経細胞体の集合に対しても慣用的に〈節〉が用いられている場合がある(たとえば基底神経節basal ganglia)。本来の意味での神経節,すなわち末梢神経系における神経細胞体の集合には,集合している神経細胞の性質の違いによって,感覚神経節sensory ganglionと自律神経節autonomic ganglionが区別される。…
…したがってα運動ニューロンを最終共通路ともいう。この場合,α運動ニューロンの活動は大脳基底核,小脳,脳幹などの働きで調節され,それによって精妙で複雑な運動が可能となっている。一見,随意運動として合目的で円滑な運動も,その背後に比較的単純な脊髄,脳幹レベルでの反射に基づいていることがしばしばある。…
… 一方,この最終共通経路に対して中枢神経の四つのおもな系統の調節系が作用を及ぼして,随意運動や不随意な自動的運動が営まれている。それは,(1)大脳皮質運動野からの系統(錐体路系),(2)脳幹網様体などに由来する系統,(3)小脳系,(4)大脳基底核系であり,これらの病変によって種々の運動障害が生じる。
[錐体路系の運動障害]
大脳皮質運動野にある神経細胞であるベッツ巨大錐体細胞から出た軸索は,脳幹や脊髄の運動ニューロンに達して,シナプスで連絡する。…
…内囊ともいう。大脳半球は表層に大脳皮質,その深部に大脳髄質と大脳基底核をもつ。大脳基底核は尾状核,レンズ核(被殻と淡蒼球),扁桃体,前障に区別され,このうちレンズ核は完全に大脳髄質に包まれる。…
※「大脳基底核」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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