デジタル大辞泉
「大脳基底核」の意味・読み・例文・類語
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だいのうきていかく 大脳基底核 basal ganglia
大脳の基底部に存在する一連の神経核群で,小脳とともに視床を介して大脳皮質の活動に影響を与え,随意運動 やその他の高次脳機能を制御している。
【大脳基底核 の構造】 大脳基底核は,以下の⑴から⑷の神経核から成り 立っている(図1)。⑴線条体striatum 尾状核 caudate nucleus,被殻 putamen,腹側線条体ventral striatum(側坐核nucleus accumbensを含む)から成る。⑵淡蒼球pallidum,globus pallidus 淡蒼球外節external segment of the globus pallidus,淡蒼球内節internal segment of the globus pallidus,腹側淡蒼球ventral pallidumから成る。⑶視床下核subthalamic nucleus。⑷黒質substantia nigra 黒質網様部substantia nigra pars reticulata,黒質緻密部substantia nigra pars compactaに分かれる。このうち,線条体と視床下核が大脳基底核の入力部で,大脳皮質の広い領野からグルタミン酸作動性の興奮性入力を受けている。一方,淡蒼球内節と黒質網様部は出力部で,大脳基底核で処理された情報は,一部は脳幹に投射するが,大部分は視床を介して再び大脳皮質,とくに前頭葉に戻る(大脳皮質-大脳基底核ループ cortico-basal ganglia loop)。この大脳皮質-大脳基底核ループの代表である運動ループは,一次運動野,補足運動野,運動前野などの運動領野 から始まり,大脳基底核・視床の運動関連領域を介して運動領野に戻り,四肢や体幹の運動を制御している。それ以外に眼球運動 ループ,前頭連合野ループ,辺縁ループなどがあり,それぞれ対応する大脳皮質領野と大脳基底核が相同なループを並列に形成し,眼球運動や高次脳機能,情動などを制御している(図2)。
【直接路・間接路・ハイパー直接路】 入力部である線条体の投射ニューロン は,伝達物質と投射部位によって2種類に分けられ,視床下核も入力部であるので,以下の3経路によって入力部から出力部である淡蒼球内節と黒質網様部に情報が送られる(図2)。⑴直接路direct pathway 線条体の投射ニューロンのうち,GABA (γアミノ酪酸 ),P物質,ドーパミン D1 受容体をもつニューロンが,直接,淡蒼球内節と黒質網様部に投射する経路。⑵間接路indirect pathway 線条体の投射ニューロンのうち,GABA,エンケファリン,ドーパミンD2 受容体をもつニューロンが,淡蒼球外節と視床下核を順に経由して,多シナプス性に淡蒼球内節と黒質網様部に至る経路。⑶ハイパー直接路hyperdirect pathway 大脳皮質から入力を受けた視床下核ニューロンが,淡蒼球内節と黒質網様部に投射する経路。線条体,淡蒼球外節,淡蒼球内節,黒質網様部はGABA作動性の抑制性ニューロン,視床下核はグルタミン酸作動性の興奮性ニューロンより成り立っているので,直接路は淡蒼球内節と黒質網様部に抑制性に働くのに対し,間接路は(抑制性投射を2回介しているので)興奮性に働く。ハイパー直接路は,大脳皮質からの入力を,直接路・間接路よりも速く淡蒼球内節と黒質網様部に興奮性に伝える。一方,黒質緻密部はドーパミン作動性ニューロン により構成され,線条体に投射し,直接路ニューロンに対してはD1 受容体を介して興奮性に,間接路ニューロンに対してはD2 受容体を介して抑制性に働く。
【大脳基底核の機能】 大脳基底核は,以下のように,状況に応じて最適な運動を選択すること,あるいは適切な運動を学習することに役立っていると考えられる。⑴運動の選択。大脳基底核の出力部は抑制性ニューロンより成り,高頻度 で連続して活動しているので,投射先である視床はつねに抑制された状態にある。大脳皮質からの入力によって,線条体が活動すると,直接路を介して,淡蒼球内節と黒質網様部が一時的に抑制される。その結果,出力部からの抑制が一時的に除かれ(脱抑制),投射先である視床や,その先にある大脳皮質が興奮し,必要な運動が適切なタイミング で引き起こされる。一方,ハイパー直接路や間接路は,淡蒼球内節と黒質網様部を広範囲に興奮させ,視床に対する抑制を強め,不必要な運動を抑制している。⑵運動の学習。黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンは報酬情報をコードしており,望ましい運動が遂行されると線条体にドーパミンが放出される。その結果,大脳皮質-線条体間のシナプス効率が変化し,望ましい運動のみが強化され,運動手続きとして学習される。
【大脳基底核疾患】 大脳基底核に障害が生じると,以下のような病態により随意運動の遂行が困難になる。⑴パーキンソン病 Parkinson's disease 黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンが変性・脱落すると,線条体の直接路ニューロンへのD1 受容体を介した興奮性入力と,間接路ニューロンへのD2 受容体を介した抑制性入力が消失し,その結果として視床を十分に脱抑制できなくなり,無動・寡動を示す。⑵ハンチントン病Huntington's disease 初期においては,線条体の間接路ニューロンが選択的に変性・脱落するので,不必要な運動を抑制できなくなり,不随意運動(舞踏運動)が生じる。⑶ジストニア dystonia 直接路・間接路の活動性が亢進し,不随意運動が生じる。
【定位脳手術 stereotactic surgery】 パーキンソン病などに対して,視床や淡蒼球内節の凝固,あるいは淡蒼球内節や視床下核に電極を挿入し高頻度連続刺激を加える脳深部刺激療法deep brain stimulation(DBS )などの定位脳手術を施すと,症状が改善する。ジストニアに対しては,淡蒼球内節のDBSが有効である。 →運動領野 →神経難病
〔南部 篤〕
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大脳基底核 (だいのうきていかく) basal ganglia
目次 線条体および淡蒼球を経由する伝導路 尾状核,被殻,淡蒼球,扁桃体 ,前障の総称名。大脳の灰白質は表層の大脳皮質と深部の大脳基底核とに大別される。今日では大脳は終脳と同義に使用されるが,もともと大脳は終脳,間脳,中脳の総体を指す。したがって大脳深部灰白質としての大脳基底核の内容は研究者によって異同があった。上記五つの構造物を指すのが一般的であるが,これに視床,マイネルト基底核を加えることがある。また扁桃体と前障を除外する場合がある。前障は島皮質の一部であり,扁桃体は側頭葉皮質から発達したとする見方があったからである。しかし,これらの構造物の神経結合と機能が明らかにされるにつれ,扁桃体と前障は海馬や視床下部とともに大脳辺縁系の一環として論じられ,一方,錐体外路 系としての尾状核,被殻,淡蒼球は視床下核(ルイ体),黒質,赤核などとともに論じられるようになった。しかも後者の系列を論じる際に大脳基底核の術語が用いられるため,大脳基底核は大脳における錐体外路系皮質下構造物を指す傾向が強くなった。本項ではこの用法に沿って解説したい。
尾状核,被殻,淡蒼球のうち,尾状核と被殻は個体発生的,組織学的,機能的に線条体corpus striatumとして淡蒼球globus pallidumに対置される。すなわち,線条体が大脳半球 由来であるのに対し,淡蒼球は視床下核とともに間脳由来である。そして,哺乳類 になって出現する内包 によって淡蒼球は視床下核から分断されて大脳半球内に押し込まれて被殻に接着したと説明される。同様に線条体も内包によって二次的に尾状核と被殻とに分離されたという。尾状核と被殻とが内包を直角に貫く線条の灰白質によって連結されているのは,この両者がもともと一体であったなごりとされ,線条体の名称もここに由来する。ちなみに被殻と淡蒼球はレンズ核 とよばれる。組織学的には,線条体は小型神経細胞 を主体として有髄繊維 に乏しく,淡蒼球は大型神経細胞を主体として有髄繊維に富む。機能的には臨床的に,線条体障害で運動亢進 ・筋緊張減退症候群,淡蒼球障害で運動減少・筋緊張亢進症候群を呈することが早くから知られている。また,視床下核障害でヘミバリスム,黒質障害で振戦麻痺(パーキンソン症候群 ),小細胞性赤核障害でベネディクト症候群を呈することが知られている。これらの症状はすべて錐体外路系症候群として一括される。臨床的経験から,これらの構造物が横紋筋を制御する体性運動神経系に属することは明らかであるが,これらの構造物がどのような伝導路によって最終的に脊髄運動神経細胞に接続するかは必ずしも明らかではない。
線条体および淡蒼球を経由する伝導路 線条体は大脳新皮質の広範囲の領野から求心性繊維を受け,淡蒼球と黒質網様部に遠心性繊維を送る。淡蒼球は視床下核と相互的神経結合をもつとともに,その遠心性繊維はレンズ核束(H2 ),視床束(H1 )として視床腹部においてループを描いて視床腹外側核に終わる。視床腹外側核に起こる神経繊維は大脳皮質運動野に終わり,ここからは錐体路 が下行する。一方,線条体からの遠心性繊維を受ける黒質網様部は視蓋に神経繊維を送り,視蓋は視蓋網様体路によって脳幹網様体と両側性に神経結合をもつ。脳幹網様体からは網様体脊髄路が下行する。黒質黒色部については,その遠心性繊維は線条体に終わるが求心性繊維については定説がない。赤核には大細胞性と小細胞性とが区別され,前者からは赤核脊髄路が下行するのに対し,後者は主オリーブ核に遠心性繊維を送る。また,大細胞性赤核は大脳皮質運動野と小脳中位核から求心性繊維を受けるのに対して,小細胞性赤核の求心性繊維については不明なことが多い。小細胞性赤核はヒトで著しく発達し,大細胞性赤核は退化してその尾端に痕跡的に残っている。ヒトでは小細胞赤核とともに主オリーブ核,小脳歯状核が著しく発達しており,これらの間の赤核→オリーブ核→対側の歯状核→赤核という閉じた三角形の神経回路が錐体外路で重要な役割を果たしているであろうとする説がある。小細胞性赤核の神経結合や機能の解明が期待される。 →脳 執筆者:金光 晟
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大脳基底核 だいのうきていかく basal ganglion
大脳核あるいは基底神経節ともいう。大脳半球の内部にある髄質中に埋もれた神経核。尾状核,被殻,淡蒼球,前障,扁桃体より成り,被殻と淡蒼球は一緒になってレンズ核と呼ばれ,このレンズ核は尾状核とともに線条体と呼ばれる。しかし,被殻と淡蒼球とは構造,機能とも異なるもので,レンズ核の外側にある被殻と尾状核は神経細胞に富み,同一の構造機能を示し新線条体と呼ばれるのに対し,レンズ核の内側にある淡蒼球は有髄神経線維に富み旧線条体と呼ばれる。これらの線条体は錐体外路系の運動神経で,骨格筋の緊張を支配し,ここが障害を受けるとパーキンソン症候群 などが起る。なお,扁桃体は辺縁系の核といわれる。
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世界大百科事典(旧版)内の 大脳基底核の言及
【神経節】より
…これに対し,中枢神経系(脳と脊髄)内における神経細胞体の集合を(神経)核nucleus(細胞の〈核〉と文字は同じであるが概念はまったく違う点に注意)という。しかし,中枢神経内の神経細胞体の集合に対しても慣用的に〈節〉が用いられている場合がある(たとえば基底神経節basal ganglia)。本来の意味での神経節,すなわち末梢神経系における神経細胞体の集合には,集合している神経細胞の性質の違いによって,感覚神経節sensory ganglionと自律神経節autonomic ganglionが区別される。…
【運動】より
…したがってα運動ニューロンを最終共通路ともいう。この場合,α運動ニューロンの活動は大脳基底核,小脳,脳幹などの働きで調節され,それによって精妙で複雑な運動が可能となっている。一見,随意運動として合目的で円滑な運動も,その背後に比較的単純な脊髄,脳幹レベルでの反射に基づいていることがしばしばある。…
【運動障害】より
… 一方,この最終共通経路に対して中枢神経の四つのおもな系統の調節系が作用を及ぼして,随意運動や不随意な自動的運動が営まれている。それは,(1)大脳皮質運動野からの系統(錐体路系),(2)脳幹網様体などに由来する系統,(3)小脳系,(4)大脳基底核系であり,これらの病変によって種々の運動障害が生じる。[錐体路系の運動障害] 大脳皮質運動野にある神経細胞であるベッツ巨大錐体細胞から出た軸索は,脳幹や脊髄の運動ニューロンに達して,[シナプス]で連絡する。…
【内包】より
…内囊ともいう。大脳半球は表層に[大脳皮質],その深部に大脳髄質と[大脳基底核]をもつ。大脳基底核は尾状核,レンズ核(被殻と淡蒼球),扁桃体,前障に区別され,このうちレンズ核は完全に大脳髄質に包まれる。…
※「大脳基底核」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」