日本大百科全書(ニッポニカ) 「木遣唄」の意味・わかりやすい解説
木遣唄
きやりうた
日本民謡分類上、仕事唄のなかの一種目。重い物を移動させるおりの唄の総称で、また曲目分類上の一種目にもなっている。「木遣」とは、文字どおり木、すなわち材木を大ぜいで力をあわせて移動させることであるが、それから転じて、重い物を人力を結集して動かすときの唄はすべて「木遣唄」とよばれるようになった。その発生は古く、日本民謡の仕事唄の原点と思われるが、古くは掛け声とか囃子詞(はやしことば)とよばれるだけのものであったと推測される。ところが社寺建立などのおり、建築用材を氏子や檀家(だんか)の人々が曳(ひ)く場合、全員の力を結集するため、神官や僧侶(そうりょ)が社寺の縁起を唄にして、綱を曳く人々に説いて聞かせ、掛け声の部分で綱を曳かせる方法をとり始めた。これが「木遣口説(くどき)」である。この唄は、和讃(わさん)の七五調12韻や御詠歌の七七調14韻を必要なだけ繰り返していく形式と曲調を母体にしたものらしく、発生は室町時代前後ではないかと思われる。しかし、社寺の縁起だけでは綱曳き連中は飽きてくるし、音頭取りも社寺の人にとどまらず、美声であるためにまかされて代理を務める人まで現れると、歌詞の内容も世話物的なものにしだいに変わっていった。さらに江戸時代に入ると、七七七五調26韻の詞型が大流行したため、ついにはこれへ移行していった。しかし、音頭取りが存在し、囃子詞の部分をその他大ぜいが受け持つという音頭形式だけは踏襲され、のちには盆踊り唄の中心をなすまでになった。木遣唄に無常観のような哀調が漂っているのは、和讃や御詠歌を母体にして派生してきたためと思われる。
[竹内 勉]