代理
だいり
乙が甲代理人乙という形式で契約などの法律行為を行い、その法律行為の効果が甲に直接帰属する制度。甲を本人、乙を代理人という。たとえば、乙が甲の代理人として丙と契約を結ぶと、本人甲がその契約の当事者として権利義務を取得することになる。
[淡路剛久]
代理に似ているがこれと異なる制度として、(1)間接代理、(2)使者、(3)代表、(4)代理占有などがある。(1)は問屋・仲買人などのように、間接代理人が他人の計算において自己の名で法律行為をなす制度であり、代理人が他人(本人)の名で行為をするのと区別される。(2)の使者は、本人が決定した意思表示を相手方に伝えるものであり、代理の場合に代理人自身が意思表示をするのと区別される。(3)の代表は、代表取締役などの法人の機関が法律行為をなし、これによって法人が直接に権利義務を取得する制度であり、代理と本質を同じくするが、通説はこれら二つを区別している。(4)の代理占有は、他人が所持をなし、その効果たる占有権が本人に帰属することであるが、占有に関する制度であり、代理が意思表示に関する制度である点で区別される。
[淡路剛久]
代理には任意代理と法定代理とがある。任意代理とは本人の代理権授与によって発生した代理をいう。本人の代理権授与行為(授権行為)の性質については、契約と解する説と単独行為と解する説とがあるが、前者のほうが有力である。法定代理とは本人の代理権授与によるのでなくて発生した代理をいう(たとえば、未成年の子の父母など)。
[淡路剛久]
代理が有効に成立するためには、代理人が本人の名で行為をなし(顕名主義)、かつその者に代理権が存在しなければならない。代理権は授権行為(授権行為が書面で表示されたものを委任状という)によって与えられる場合(任意代理)と、そうでない場合(法定代理)とがある。代理権なしに行われた代理行為を無権代理という。無権代理は本人に対して効力を生じないのが原則である(その場合には無権代理人が一定の責任を負う。民法117条)が、表見(ひょうけん)代理にあたる場合および本人の追認がある場合には本人に対して効力を生じる。表見代理とは、取引の相手方の信頼を保護する制度であり、無権代理行為が行為の外観上代理権に基づくかのようにみえる場合には、代理権があったのと同じ法律効果を与えようとするものである。民法上、代理権授与の表示による表見代理(同法109条)、権限踰越(ゆえつ)による表見代理(同法110条)および代理権消滅後の表見代理(同法112条)の三つがある。なお、代理人が自分と相手方との間の契約について相手方の代理人となり、あるいは両当事者の代理人となることをそれぞれ自己契約・双方代理というが、これらは原則として禁止されており(同法108条)、違反すると無権代理となる。
[淡路剛久]
代理人の法律行為の効果が本人に及び、本人自ら法律行為をしたのと同じ結果となることである。
[淡路剛久]
任意代理・法定代理共通の消滅原因は、本人の死亡、代理人の死亡もしくは破産または代理人が後見開始の審判を受けたこと(民法111条1項)である。また、任意代理の消滅原因は、対内関係(代理関係を発生せしめた契約など)の消滅、本人の破産(同法653条)、解除(同法651条)である。
[淡路剛久]
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代理
だいり
agency
本人に代って代理人が法律行為を行い,その結果あたかも本人自身が法律行為をしたのと同様の効果を生じさせる制度をいう。取引形態が複雑かつ専門化している現代経済社会では,信頼できる他人に代りに取引してもらう意義は大きく,私的自治の拡張機能としてこの代理制度は重要な役割を果している。代理の特色は,まず,代理人が法律行為をすることであり,この点使者や代理占有人とは異なる。次いで,本人が直接効果を取得することで,この点間接代理といわれる問屋業や仲買人とは異なる。代理の法律関係は,本人と代理人との間の代理権関係,代理人と相手方との代理行為関係,相手方と本人との間の効果帰属関係の3面に分けることができる。代理権は,本人の意思で与える任意代理と法律の規定による法定代理とがある。任意代理は委任契約と結びついていることが多い。代理人が代理行為を行う場合は,本人のためにすることを示して行わなければならない。これを顕名主義というが,この顕名主義は次第に緩和されつつある (商法 504) 。代理人が正当な代理行為を行なった場合は,その効果は本人に帰属する (有権代理) 。代理権の範囲を逸脱したような場合にまで本人が責任を負う必要はないが,例外的に本人に責任が生じることもある (→表見代理 , 無権代理 ) 。
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代理【だいり】
ある人(代理人)が他人(本人)に代わって第三者(相手方)に対して意思表示をし,または第三者から意思表示を受け,その法律効果がことごとく直接に他人に帰属する制度(民法99条以下)。単に他人の意思表示を伝達する使者とは異なる。代理人は本人のためにすることを示して代理行為をするのが原則であるが,商行為の代理は例外(商法504条)。代理行為は代理人自身の行為であるから,代理行為の瑕疵(かし)はすべて代理人自身について決定される。また制限能力者でも代理人になれる。本人の意思に基づかずに法律の規定や裁判所の選任による代理を法定代理(たとえば親権者・後見人などを法定代理人という),本人の意思に基づく授権行為による代理を任意代理といい,その権限の範囲は個々の授権行為の内容によって定まるのが原則である。代理人が自己の名義でさらに代理人を選任してその権限内の行為をさせることを復代理といい,代理人が復代理人を選任し得る権能を復任権という。復任権は法定代理人の場合は原則として認められるが,任意代理人については制限される。そのほか共同代理,双方代理,無権代理,表見代理等は代理の特殊な態様である。
→関連項目委任|委任状|商業使用人|親権
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だい‐り【代理】
〘名〙
① 他の人に代わって事に当たること。また、その人。代理人。名代。
代弁。〔広益熟
字典(1874)〕
※
たけくらべ(1895‐96)〈樋口一葉〉二「親父の代理
(ダイリ)をつとめしより」
② 他人が本人に代わって意思表示を行ない、または、第三者から意思表示を受けることによって、その法律効果が直接本人について生ずる制度。法定代理、任意代理など。
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だいり【代理 agency】
本人と一定の関係にある者が本人に代わって意思表示をなし,または第三者の意思表示を受けることによって,直接本人にその効力を生じさせることをいう。
[沿革]
代理制度はローマ法にはなく,17世紀以降のヨーロッパにおいて理論的・制度的に確立したものである。とくに19世紀のドイツ普通法時代には代理の本質をめぐって学説上の争いがあった。そこでは,(1)代理人は本人の意思を表示するにすぎず真の行為者は本人であるとする説(本人行為説),(2)代理人は一部は自己の意思を一部は本人の意思を表示するものであり本人も代理人も行為者であるとする説(共同行為説)もあったが,(3)代理人は自己の意思を表示するものであり本人はその効果を受けるにすぎないとする説(代理人行為説)が多数を占めた。
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世界大百科事典内の代理の言及
【行政行為】より
…たとえば,農地法の定める農地賃貸借の解約の許可は,前記の意味における許可としての性質のほか,ここにいう認可の性質をも有する。(5)〈代理〉 行政庁が,本来他者のなすべき法律行為を,その者に代わって行政行為として行うこと。租税の徴収のために行われる滞納者の財産の公売がこれにあたる。…
【代表】より
… 私法の分野では,講学上,法人の機関の行為が法律では法人の行為としてあつかわれることを指して,機関が法人を代表するという。もっとも,法令用語としては,代表と代理は明確に使い分けられておらず,日本の民法44条の代理,同824条,859条の代表は,それぞれ,講学上の用語とは反対に使われている。代表の観念をめぐる問題は,とりわけ憲法の分野で論ぜられることが多い。…
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