( 1 )「詠歌」はもともと歌を詠むこと、すなわち、和歌を声に出して歌うこと、また作ることを意味する。それが「御詠歌」となる背景には、特に中世期における仏教と和歌との密接な関係(和歌陀羅尼観などに代表される)があると思われる。
( 2 )その発生は、室町以後と推定され、伝承では、西国三十三番札所にのこる三十五の御詠歌の源を花山院に求めるが疑わしい。
仏教の歌謡の一種。和讃に対して,この歌謡は札打和讃ともいい,巡礼,遍路が,札所に参詣したときに詠唱するための詠歌である。和讃はすべての仏菩薩を賛嘆するのに,インドの梵讃,中国の漢讃にならって,和語の韻文をつらねる。しかし御詠歌は三十一文字の和歌で,札所の本尊への願をあらわすものである。その和歌は読人知らずで,平易通俗な歌詞なので,おそらく近世になってできたものといわれる。節も一節だけで単調であるが,その哀調をおびたメロディは日本人の心の琴線にふれるものがある。そのために巡礼,遍路以外でも,葬式や通夜,追善にも詠唱され,キリスト教の賛美歌に比較される。現在各宗派とも詠歌講をつくって,その普及につとめており,法要には僧侶の声明(しようみよう)による梵讃,漢讃とともに御詠歌奉唱が付き物となった。もっともひろく歌われるのは大和流であるが,高野山には金剛流があり,宗派によって多少ちがった節ができた。
執筆者:五来 重
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巡礼または講などで節(ふし)を付して唱える歌。一般に鈴(れい)にあわせて詠吟される。巡礼歌ともいう。本来は、神仏の徳をたたえる御詠の意である。鎌倉時代以降、和歌の霊的作用を重視する傾向が生じ、それを継承したものである。西国(さいごく)三十三所のものがもっとも古いが、出典をたどれるものは多くない。西国第33番の華厳寺(けごんじ)(岐阜県)の御詠歌が『千載(せんざい)集』巻19に、信濃(しなの)(長野県)善光寺御詠歌第19番が『風雅(ふうが)集』に、同寺の第20番が『玉葉(ぎょくよう)集』にみられる程度である。御詠歌の作者は、ほとんど無名の人と考えて大過ない。巡礼の行われている霊場にはかならずといってよいほど御詠歌が付随しており、今日もなおつくり続けられている。
[北西 弘]
『武石彰夫著『仏教歌謡の研究』(1969・桜楓社)』
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… 霊場の寺々には,仏の救いを約束するために,さまざまの霊験談が語られ,庶民の文化交流のうえでも,重要な役割を果たしている。霊場に伝わる霊験談や,仏前で歌う御詠歌(ごえいか)は,観音に寄せる庶民の期待を物語っている。ここに表れている仏教思想には,露,波などの語によって示される,きわめて達観的な無常観がまず挙げられる。…
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