日本音楽の用語。歌をひきたてたり,活気づけたりするために,歌詞の本文に挿入された短いことばのこと。また,歌詞の字足らずを埋めて拍子を調節するために挿入された短いことばをも指す。囃子詞は歌う本人が唱える(あるいは歌う)こともあるが,一般には第三者(複数の場合もある)が唱えることが多い。囃子詞を加えることでもっとも効果をあげているのは民謡である。たとえば,《ソーラン節》《ヨサレ節》《ホーハイ節》《おこさ節》《よさこい節》など,囃子詞がそのまま曲名となったものも多い。なお,拍子を調節するために挿入された囃子詞には,古くは催馬楽(さいばら)の〈ヤ〉〈ハレ〉〈サキンダチャ〉など,近世では三味線組歌の〈イヨ〉〈エイ〉などがあり,これは旋律が先にあって後から歌詞をつけた場合にみられる。また,〈ヤレ〉〈ソレ〉〈ヨイ〉〈チョイ〉というような字音数の少ない,意味のない囃子詞から,〈ザイザイ〉(木挽歌(こびきうた)でのこぎりの音)や,〈ゴッションゴッション〉(粘土節,粘土をつく音)などの仕事の内容を示すものや,〈アー偉い奴ちゃ,偉い奴ちゃ〉(阿波踊)のように字音数が多く,旋律化してしまったものまで,囃子詞には種類がある。
執筆者:加納 マリ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…ただし〈陰囃子〉は,狭義に,出囃子,出語りについて黒御簾の中で演奏される鳴物を意味することが多い。〈下座音楽〉は,昭和の初めごろから〈下座の音楽〉を熟語化していわれるようになったもので,これを職分とする〈囃子方〉は,ふつう〈下座音楽〉とはいわない。〈下座〉は〈外座〉とも記し,本来,舞台上手の役者の出入口〈臆病口〉の前の一角を指し,享保(1716‐36)末期に上方も江戸もそこが囃子の演奏場所となり,そこで演奏される囃子を〈下座〉とも称するようになったところから〈下座の音楽〉〈下座音楽〉といわれるようになったもの。…
…舞を舞う人たちを,立方(たちかた)と呼ぶのに対することば。本来は唄い手,語り手(長唄の唄方,義太夫節・常磐津節・清元節・新内節など浄瑠璃の太夫)と三味線奏者(三味線方)だけであったが,現在では唄い手・語り手と三味線方と囃子方の三つをいう。唄と浄瑠璃がそれぞれ独立している場合と,それらの二つ以上が合併して行う掛合(長唄と常磐津のように)の場合とがある。…
…その他,鬼退治物の《紅葉狩》《羅生門》,天狗物の《鞍馬天狗》,祝言物の《石橋(しやつきよう)》《猩々(しようじよう)》などである。
【役籍】
能は,役に扮して舞台に立つ立方(たちかた)と,もっぱら音楽を受け持つ地謡方(じうたいかた),囃子方とで成り立つが,それぞれの中で技法がさらに分化し,室町時代末期に七つの専門が確立した。立方を勤めるシテ方,ワキ方,狂言方と,囃子方である笛方,小鼓方,大鼓方,太鼓方の7役籍がそれで,江戸時代以降,互いに他の専門を侵さない規律ができ,現在でもそれが守られている。…
※「囃子詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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