和讃(読み)ワサン

デジタル大辞泉 「和讃」の意味・読み・例文・類語

わ‐さん【和×讃】

仏教の教義菩薩ぼさつあるいは高僧の徳などを、梵讃漢讃にならって、和語でたたえるもの。七五調の4句またはそれ以上を一節とし、曲調をつけて詠じる歌。平安中期から流行した。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「和讃」の意味・わかりやすい解説

和讃 (わさん)

仏教歌謡の一種で,仏・菩薩の教えやその功徳,あるいは高僧の行績をほめたたえる讃歌。梵語による梵讃,漢語による漢讃に対して,日本語で詠われるためこの名がある。その嚆矢(こうし)としては,平安中期に現れた《註本覚讃》があげられる。天台の本覚論を七五調で詠ったもので,良源の作といわれる。その後,天台浄土教の人々によって盛んに和讃が制作されはじめる。当時の作品として明証のあるものは少なく,詳細は判明していないが,法会の中で,声明(しようみよう)の旋律に乗せて諷誦したのが人々の共感を得たらしい。《今昔物語集》は,空也の弟子千観(918-983)が〈阿弥陀ノ和讃ヲ造ル事,廿余行也,京・田舎ノ老小・貴賤ノ僧,比ノ讃ヲ見テ,興ジ翫テ,常ニ誦スル〉と伝えている。平安末期になると,和讃はさらに発達する。その背後には,法会の音楽化の進展があったとみられるが,法会以外の場にまで広く普及していたとみられ,当時の流行歌謡〈今様(いまよう)〉にも取り入れられた。《梁塵秘抄》には,和讃から出たと思われる今様がいくつか収載されており,それが和讃へ逆輸入されて,和讃に今様調が現れはじめる。鎌倉時代以後和讃の主流となった4句1首形式は,今様の影響下に成立したものといわれ,和讃作者として高く評価されている親鸞の和讃も,すべてこの4句1首形式で,七五調によっている。親鸞の代表作は,浄土和讃・浄土高僧和讃・正像末法和讃のいわゆる《三帖和讃》で,親鸞自身の豊かな宗教感動を軸として,抒情に流されることなく,理智的な構成美と高い格調を持っている。しかも親鸞自筆の草稿本や加点本が伝えられ,古い資料の少ない和讃史の中にあって貴重である。しかし,親鸞の教えがそれを受け継いだ人々によって発展したのに対して,和讃の制作を継承する人はその門下から現れなかった。和讃制作は,むしろ時宗教団に盛んであった。その作品は,親鸞と同じく4句1首形式であったが,親鸞とは対照的に感傷的な情緒表現が多用されている。その他,中世には浄土教以外でも民衆教化のために和讃を作る傾向が強く,旧仏教系の作品とみられる《地蔵和讃》や《賽の河原和讃》などは,広く民間に流布した。異色の和讃としては,江戸時代に白隠の作った《坐禅和讃》がある。
執筆者: 現在,法要で和讃をもっとも多用するのは浄土真宗系の諸宗で,《三帖和讃》から数首を抜き出し,念仏と組み合わせて法要の核とするが,その曲節は,どの宗派でも簡単なものから複雑なものまで数形式を使い分ける。ほかに,真言系諸宗の《四座講和讃》,聖徳宗の《太子講和讃》などがある。これらは寺事(てらごと)に用いる和讃だが,別に,在家の信者が随時唱える仏教歌謡の和讃は,短歌形式の御詠歌と合わせて近年は宗派ごとに統一指導する傾向にある。高野山真言宗の金剛流,真言宗御室(おむろ)派の御室流,天台宗の叡山流,臨済宗妙心寺派の花園流,浄土宗の善光寺流など,それぞれに流名を称している。なお,七五調4句を1首とする形式以外のもの,たとえば讃嘆(さんだん)などは,和文の讃嘆歌であっても和讃とは称さない。
声明
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「和讃」の意味・わかりやすい解説

和讃
わさん

仏・菩薩(ぼさつ)・祖師の教法、行実を、和語で讃嘆した仏教の讃歌。梵(ぼん)(語)讃、漢(語)讃に対することば。七五調で、四句ないしそれ以上を一首とする。法会(ほうえ)や教化(きょうげ)にあたって、曲調をつけて詠じ、一般的には平安時代から流行した。日本における仏教の普及、大衆の教法理解に、和讃は大きな役割を果たした。『扶桑略記(ふそうりゃっき)』抜粋に、行基(ぎょうき)の仏法讃嘆を記しているが、それによって和讃の機能が理解できる。

 古い和讃として、行基作と伝える『法華讃歎(ほっけさんたん)』、光明(こうみょう)皇后作と伝える『百石讃歎』、円仁(えんにん)作と伝える『舎利(しゃり)讃歎』があるが、真偽のほどはわからない。その後、千観(せんかん)の『弥陀(みだ)和讃』、良源(りょうげん)の『本覚讃』、源信(げんしん)の『極楽(ごくらく)六時讃』がつくられ、鎌倉時代以降、撰者(せんじゃ)名を仮託した和讃をも含めると、実に多くの和讃がつくられ流布した。そのうち、親鸞(しんらん)作の浄土・高僧・正像末(しょうぞうまつ)の『三帖(さんじょう)和讃』と『太子和讃』、一遍(いっぺん)作の『別願和讃』は有名。和讃は宗教的な意味だけでなく、今様(いまよう)との関係も深く、文学史上重要な内容をもつ。

[北西 弘]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「和讃」の意味・わかりやすい解説

和讃【わさん】

仮名まじりの平易な言葉で,仏・菩薩(ぼさつ),経典,祖師などをたたえた歌。七五調4句を1章とする今様(いまよう)風が鎌倉時代以後の主流となった。平安末〜江戸期に盛行し,御詠歌としても歌われた。親鸞(しんらん)の《三帖和讃》,一遍の《別願和讃》などが有名。
→関連項目声明

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「和讃」の意味・わかりやすい解説

和讃
わさん

仏教歌謡の一種。日本語の仏教賛歌 (和語賛歌) の一つで,讃仏,讃法の教義讃と,讃僧の伝記讃とがある。仏の功徳や仏法をたたえ,祖師,高僧の行跡を述べた叙事歌謡である。詩形は七五調連句で,四句一章形式が多いが,二句一章を混用する場合もあり,句数は不定。いわゆる今様 (いまよう) 歌体は,この和讃体の影響により成立。声明 (しょうみょう) とは異なった音楽様式で,一字一拍を基本とし詩形に応じて定まった旋律の反復あるいは数種の旋律の組合せによる。天台宗では千観 (?~983) の『極乗国弥陀和讃』,良源の『本覚讃』,源信の『極乗六時讃』『天台大師和讃』など,真言宗では四座講式中の『涅槃和讃』『舎利和讃』などが著名。鎌倉時代以後の新仏教では重視され,浄土真宗の親鸞の『三帖和讃』や,時宗の『浄業和讃』などをはじめ,数多くの和讃が作られて,中世仏教歌謡を代表するにいたった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「和讃」の解説

和讃
わさん

梵讃・漢讃に対する語で,国語を用い,仏・菩薩・高僧の徳を讃嘆する今様 (いまよう) 体の歌
一般に七五調の4句を一連とし,その唱誦は経典の読誦に準じる効験が信じられ広く行われた。源信の『極楽六時讃』,親鸞の『三帖和讃』などが有名。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の和讃の言及

【日本音楽】より

…しかし,田楽,猿楽が真に流行しその芸質を高めるのは次の第4期においてである。一方,雅楽と同じころ輸入された仏教音楽の声明も,雅楽と同じようにこの期において日本化され,日本声明ともいうべき講式和讃(わさん)が生まれた。
[第4期]
 民族音楽興隆時代(13~16世紀) 鎌倉時代の実権を握った武士の間では,平家琵琶(平曲)という琵琶の伴奏で《平家物語》という長編の叙事詩を語る音楽が流行した。…

※「和讃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

部分連合

与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

部分連合の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android