( 1 )「万葉集」で、鶴を表わすのに「つる」を用いず、もっぱら「たづ」を用いていること、「土左日記‐承平五年二月一日」に日常語を使った和歌に対する「なぞ、ただごとなる」という批判があることなどから、古くから、散文など日常に用いられる語と和歌に用いられる語とを分ける意識があったことが知られる。
( 2 )「歌詞」についての意識がより明確になったのは中世以降であり、「歌詞」は優雅なことば、その対立概念である「ただ詞」は優雅でない日常的なことばという考え方が、歌人の間では共通認識となっていったと見られる。しかし、藤原定家は「毎月抄」において、「ただ続けがらにて歌詞の勝劣侍るべし」といっており、一首の歌の中で調和することばであるならば、すべて歌詞と認める立場も生まれてくる。
声楽に使われる言葉もしくはそれに準ずる言語的部分は,歌詞,文句,詩,詞章,テキスト,台本(リブレット)などと呼ばれ,民族により,さらに種目によりパターン化した特色が見られる。その基礎となっている発音されるべき言語は本来二つの重要な側面をもっていて,それらの組合せによって会話や音楽が成立している。第1に,言葉がもつ〈響き〉としての分節的特徴は母音と子音の違いに端的に現れているし,第2に音が連なったときに形成される韻律的特徴は音節(シラブル)の数や長短関係の操作によってリズムや形式といった音楽構造に大きくかかわる。主として分節的特徴を生かした歌詞は,具体的意味内容を表現するよりもむしろ音の効果が意図され,たとえば楽器音を模倣した口三味線などの口唱歌(くちしようが),ソルミゼーションsolmization(西洋のドレミファ,インドのサ・リ・ガ・マ・パ・ダ・ニなど音階の各音にそれぞれ1音節をあてはめ,声による読譜を行う方法),母音唱法,ハミング,スキャット,掛声,はやしことばのように音楽の成立を支えている。韻律的特徴を前面に出す場合には,七五調(和歌,謡曲,浄瑠璃など)や八六調(琉歌)のように規則的に音節群を組み合わせたり,西洋の詩のように強弱や長短の韻律パターンを重視したり,頭韻,脚韻,母韻といった押韻技法を使って対句や連句さらに節(スタンザ)が形成され,それに応じた形で音楽構造が決定されることが多い。こうした韻文ばかりでなく散文的要素も加味しながら,諸民族の歌詞には感情を表現する抒情性,歴史や物語をうたいこむ叙事性,呪術や典礼にかかわる宗教性,習慣や知識を盛り込んだ実用性などの性格が備わっている。したがって歌詞はうたわれることによって個人やグループの間の伝達の機能を果たすばかりでなく,世代から世代への文化継承にも役立てられる。換言すれば,歌詞を集大成したものを分析すると,ある文化の価値体系や生活様式が読み取れるほどであり,歌詞は文化の一指標といえよう。なお,朝鮮半島には伝統声楽のジャンルとして大笒(だいきん)(横笛)と杖鼓(じようこ)の伴奏による歌詞(カサ)(別称,歌辞(かじ),十二歌詞)というものがある。
執筆者:山口 修
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…声楽に使われる言葉もしくはそれに準ずる言語的部分は,歌詞,文句,詩,詞章,テキスト,台本(リブレット)などと呼ばれ,民族により,さらに種目によりパターン化した特色が見られる。その基礎となっている発音されるべき言語は本来二つの重要な側面をもっていて,それらの組合せによって会話や音楽が成立している。…
…朝鮮の伝統的な歌謡形式の一つ。歌詞Kasa(朝鮮語では歌辞も同音)とも書き,長歌ともいう。郷歌における第1・第2句,6・6(3・3,3・3)を作者の好みによってほとんど無制限に延ばして歌い(句は3・4,4・4などにもなりえる),終末に至っては郷歌の第3句,3・5~9・6を添尾して完結させる歌形である。…
…わずかに雅楽だけが,1921年に李王職雅楽部として日本の宮内省管轄のもとに保存された。しかし,日本に対する民衆の抵抗の歌として,民謡の歌詞を変えたり,新しい歌謡曲(例えば《鳳仙花》)が生まれた時代でもある。(7)1945年以後 朝鮮は二分され,それぞれ独自の民族音楽の確立と発展の道を歩んでいる。…
※「歌詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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