日本大百科全書(ニッポニカ) 「横笛草紙」の意味・わかりやすい解説
横笛草紙
よこぶえぞうし
御伽草子(おとぎぞうし)。作者未詳。室町時代の成立。平重盛(しげもり)に仕える斎藤滝口(たきぐち)は建礼門院(けんれいもんいん)の侍女横笛を見初(みそ)め、やがて深い恋仲となったが、滝口の父は二人の結婚を許さない。世をはかなんだ滝口は嵯峨(さが)の往生院に遁世(とんせい)し、尋ねてきた横笛にもふたたび会おうとしなかった。横笛は絶望のあまり大堰(おおい)川に投身して果て、滝口は因果の身を悲しんで高野山(こうやさん)へ上り仏道修行に専念した。『平家物語』で知られる話と同材で、中世に数多い悲恋遁世談のなかでも、とくに哀れな物語として長く人口に膾炙(かいしゃ)した。
[松本隆信]
『市古貞次校注『日本古典文学大系38 御伽草子』(1958・岩波書店)』▽『大島建彦校注・訳『日本古典文学全集36 御伽草子集』(1974・小学館)』