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御伽草子 おとぎぞうし

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

御伽草子
おとぎぞうし

室町時代から江戸時代初期にかけてつくられた短編の物語草子の総称。狭義には江戸時代中期に大坂書肆が「御伽文庫」として刊行した『文正草子』『鉢かづき』『唐糸草子』『木幡狐』『物くさ太郎』『梵天国』『猫のさうし』『一寸法師』『さいき』『浦島太郎』『酒呑童子』など 23編をさす。広義の御伽草子は約 500編伝わる。 (1) 鎌倉時代の物語の流れをひく公家の恋愛物 (『忍音物語』『若草物語』) ,継子物 (『岩屋の草子』『鉢かづき』) ,(2) 僧侶に関する児物語 (『秋の夜の長物語』) ,破戒僧の失敗談 (『ささやき竹』) ,遁世・懺悔物 (『三人法師』) や本地物 (『熊野の本地』) ,(3) 武家の英雄伝説,怪物退治談 (義経関係の『御曹子島渡』『浄瑠璃物語』,頼光関係の『酒呑童子』) と地方伝説,復讐談 (『明石の三郎』『あきみち』) ,(4) 庶民の立身成功談 (『文正草子』『物くさ太郎』) ,(5) 異国物 (『楊貴妃物語』『類至長者』) ,(6) 異類物 (『鼠の草子』『雀の発心』『木幡狐』『鴉鷺合戦物語』) ,など内容は多種多様。物語の衰退を受けて登場し,近世の小説のさきがけとなった。

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デジタル大辞泉の解説

おとぎ‐ぞうし〔‐ザウシ〕【×伽草子】

室町時代から江戸初期にかけて作られた短編物語の総称。平安時代の物語文学から仮名草子に続くもので、空想的・教訓的な童話風の作品が多い。また、特に江戸中期、享保(1716~1736)のころ、大坂の渋川清右衛門がそのうちの23編を「御伽文庫」と名づけて刊行したものをいう。

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百科事典マイペディアの解説

御伽草子【おとぎそうし】

室町時代に製作・書写された物語,草子の総称。狭義には,江戸時代,〈御伽文庫〉として一括刊行された《文正草子》《鉢かづき》《物くさ太郎》《一寸法師》《浦島太郎》《酒呑童子》など23編をさすが,広義にはこれらに類似の物語群数百種をいう。
→関連項目蘆刈説話恨の介熊野の本地住吉物語七夕伝説奈良絵本二十四孝判官物本地物巡り物語

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世界大百科事典 第2版の解説

おとぎそうし【御伽草子】

狭義には,江戸時代に〈御伽文庫〉としてセットで刊行された絵入刊本23編をさす。すなわち《文正さうし》《鉢かづき》《小町草紙》《御曹子島渡》《唐糸草子》《木幡(こわた)狐》《七草草紙》《猿源氏草紙》《物くさ太郎》《さゞれいし》《蛤(はまぐり)の草紙》《敦盛》《二十四孝》《梵天国》《のせ猿さうし》《猫のさうし》《浜出草紙》《和泉式部》《一寸法師》《さいき》《浦嶋太郎》《横笛草紙》《酒呑童子》がそれで,《酒呑童子》の奥付に〈大坂心斎橋順慶町 書林 渋川清右衛門〉の刊記があることから,渋川版とも呼ばれている。

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大辞林 第三版の解説

おとぎぞうし【御伽草子】

室町時代から江戸初期にかけて成った三百余編の短編物語。ほとんど作者未詳。享保(1716~1736)頃、大坂の書肆しよし渋川清右衛門が「御伽文庫」の名で二三編を刊行してから、この類の物語の総称となった。恋愛物・稚児物・遁世物・立身出世物・本地物ほんじもの・異類物など種類は多く、教訓的・啓蒙的・空想的内容のものが多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

御伽草子
おとぎぞうし

およそ14世紀から16世紀の間(南北朝・室町時代)に現れた短編の物語小説。最初は、江戸時代に入って叢書(そうしょ)として出版された『文正草子(ぶんしょうぞうし)』以下23編の作品をさす名称であったが、現在では同類の作品を広く包括して、文学史上の一ジャンルを意味する術語として用いられる。現存する作品は300編を超えるが、大部分は作者も正確な成立年代も不明である。鎌倉時代以後、地方豪族である武家が台頭するに及んで、文化もまた社会的、地域的に拡散することになったが、全国的規模の南北朝の動乱はそれに拍車をかけた。文芸の世界にあっても作者と享受者層の裾野(すその)が広がったことによって、質の変化と多様化を招来した。そのような文学の大衆化の一現象として輩出したのが御伽草子である。
 御伽草子の多くは絵巻や、それを簡便化した奈良絵本に仕立てられ、絵と文とが相補って読者を楽しませる方式をとっているが、これも、対象とする享受者が女性や若年層を主にしていたことを示しているのであろう。したがって、平安時代以来の貴族社会の物語に比べると、登場人物や扱われた世界は変化に富んでいるが、創作手法は類型化し、主題の似通った作品も多い。分類としては、国文学者である市古貞次(いちこていじ)による、公家(くげ)物、武家物、宗教物、庶民物、異類(いるい)物、異国物の6種に分ける方法が一般的である。公家物には『しぐれ』『伏屋(ふせや)の物語』『岩屋(いわや)の草子』など、鎌倉時代の貴族社会の物語を改作した作品が多い。それらは、才色に優れながら不遇な境遇にある姫君と、時の貴公子との恋を主題にした物語である。武家物には『小敦盛(こあつもり)』『横笛草紙(よこぶえぞうし)』など源平時代の哀話に取材したものや、『俵藤太(たわらとうだ)物語』『酒呑童子(しゅてんどうじ)』など高名な武人の怪物退治談のほか、『明石(あかし)物語』のように地方豪族の家に起こった事件を語る創作的な物語もあり、御伽草子によって開けた新しい文学の世界をみることができる。宗教物は僧侶(そうりょ)を主人公にした作品に、高僧の伝記物、『秋の夜(よ)の長(なが)物語』のような児(ちご)物語、『三人法師』を代表作とする懺悔(さんげ)談、破戒僧を揶揄(やゆ)した『ささやき竹』『おようの尼』など、多様な作品を含む。また、中世の農山村にまで広まっていた民衆的な物語に、『熊野(くまの)の本地(ほんじ)』『諏訪(すわ)の本地』『阿弥陀(あみだ)の本地』など、神仏の前生、寺社の縁起(えんぎ)を語る本地物がある。それらは、人間界でさまざまな苦難を味わった男女が末に神仏と顕(あらわ)れたことを説く物語で、とくに中世的な色彩の濃い作品である。庶民物には『文正草子』や『物くさ太郎』で知られる立身出世談が多い。名もない民が才知によって富を得たり、高貴の女性への恋を成就するといった内容は、戦国時代の下剋上(げこくじょう)の世相を映し、開放的な明るさを漂わせている。人間以外の動物や植物を擬人化した異類物も御伽草子の特徴的な作品である。これには、知識人の戯作と、民間説話に多い異類婚姻談と関係の深い作品とがある。異国物は仏教説話や中国の説話を種に、天竺(てんじく)や唐土(とうど)を舞台に構えた作で、多くは超現実的な話である。そのほか、御伽草子には竜宮や蓬莱(ほうらい)、天界といった、この世に対する他界もしばしば描かれている。
 以上のように御伽草子の内容は種々雑多であるが、共通した特徴としては、文章が平易単純であること、人間の内面描写が乏しく、筋書き的な短編であること、筋立てや、また人物の容姿や情景の表現が類型的であること、教訓的、啓蒙(けいもう)的な姿勢が顕著なこと、仏教思想が濃厚で、とくに神仏の霊験利生(れいげんりしょう)を強調する作品の多いことなどがあげられる。したがって作者の個性のみられる作品が少なく、文学としては幼稚素朴の評を免れないが、これも、上層階級の独占であった文芸が大衆化する過渡期にあっては、やむをえない現象であろう。御伽草子のうち、比較的創作性の濃い作品は仮名草子(かなぞうし)に影響を与え、武家物や、宗教物のなかの本地物のように、民衆に迎えられた物語は、江戸時代に入ると、操(あやつ)りを伴う語物芸能の浄瑠璃(じょうるり)に流入して、長く生命を保っていた。[松本隆信]
『市古貞次校注『日本古典文学大系38 御伽草子』(1958・岩波書店) ▽大島建彦校注・訳『日本古典文学全集36 御伽草子集』(1974・小学館) ▽市古貞次他著『図説日本の古典13 御伽草子』(1980・集英社) ▽市古貞次著『中世小説の研究』(1955・東京大学出版会)』

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世界大百科事典内の御伽草子の言及

【絵巻】より

…しかし14世紀後半以後,絵巻は一般に多量生産,民衆化の傾向を強め,絵画としての創造力もしだいに稀薄となり,類型化が進んで芸術的には衰退の一途をたどり始める。このような中世後半期にあって絵巻の制作は,通俗的な物語に手を加えた《福富草紙》などの御伽草子に受け継がれてゆく。また《道成寺縁起》にみられるように,絵解き,すなわち口唱による画面の説明が宗教的な説話絵巻において広く行われた。…

【奈良絵本】より

…縦約16cm,横約22cmほどの横本(よこほん)の体裁をなし,紺紙に霞または雲形(くもがた)をあしらい,金泥で草花などを描いた表紙で,その中央上部か左肩上に書名を記した題簽(だいせん)を貼り,見返しは金か銀の箔を置くものが多い。本文は間似合(まにあい)紙を用い,絵と詞とはそれぞれ別の書き手で,内容は《舞の本》から採ったものや謡曲,説経をうつしたものもあるが,ほとんどが御伽草子である。例を挙げると,天理図書館蔵《天神由来》(2冊),《海女物語》(2冊),《小男のさうし》(1冊),《蛤》(2冊),京都大学図書館蔵《阿国歌舞伎》(1冊),慶応義塾大学図書館蔵《六代》(3冊),竜門文庫蔵《しゆてん童子》(3冊),岩瀬文庫蔵《一本菊》(3冊),国会図書館蔵《小敦盛》(1冊),京都府立総合資料館蔵《敦盛》(2冊),大阪中之島図書館蔵《鉢かづき》(2冊)などが,量産されたと考えられる横本の奈良絵本である。…

【読み書きそろばん(読み書き算盤)】より

…戦国時代に日本にきて,主として都市部で布教活動をしたキリシタン宣教師も,日本における児童の読み書きの能力を高く評価している。またこの時代,町人層に広く読まれた《御伽草子》には九九を使った表現が多くみられ,九九の計算能力が普及していたことが知られる。当時の計算は,一般的には九九のような暗算が広く行われ,むずかしい計算には算木やそろばんが使用されていた。…

※「御伽草子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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