デジタル大辞泉 「横笛」の意味・読み・例文・類語
よこぶえ【横笛】[人名・書名]
源氏物語第37巻の巻名。光源氏49歳。柏木の一周忌と、柏木遺愛の横笛を夕霧から預かった源氏の複雑な心情などを描く。
おう‐てき〔ワウ‐〕【横笛】
2 雅楽に用いる笛の一。
( 1 )「随筆・綿所談‐二」にはワウテキは「王敵」に通じるので避けられたとの説もあり、「横笛」の音読みに変化形が多い。
( 2 )平安末期の「更級日記」(鎌倉時代の定家写本)には「ゐやう定(ぢゃう)」の例がある。「伊呂波字類抄」(室町時代初期写)にも「ヰャウチャウ」の読みがある。院政期の「色葉字類抄」には和訓「ヨコフエ」のほか、字音語として「クヮウチ(ャ)ク」「ワウチャク」「クヮウテキ」「ワウテキ」の四種の読みが見える。
平曲・能・長唄の曲名。
(1)平曲。平物(ひらもの)。フシ物。平維盛(これもり)は,都の妻子が気がかりでひそかに屋島の戦線を離れ,高野山に滝口入道(滝口・横笛)を訪ねた。この僧はもと館に仕えた武士で,若いころ横笛という女と恋をした。滝口の父親は出世のためにもっと身分の高い女と結婚しろと意見をする。滝口は,人生はせいぜい七,八十年,そのうち盛りは二十年ほどだから,いやな女と添うことはできないが,好きな女と添うのでは父の意志に背くことになると考えて,剃髪してしまった(〈折リ声・サシ声・中音(ちゆうおん)〉)。横笛はそれを聞き,嵯峨野に滝口の行方を尋ねた。頃は2月中旬で,春風にも,立ちこめる霞にも,朧月(おぼろづき)にもひとかたならぬ哀れさが感じられた(〈三重(さんじゆう)〉)。やっと往生院の中にそれらしい坊を尋ねあてたが,滝口は人違いだと言って横笛を帰してしまい,また訪れることがあってはと,高野山に入ってしまった。横笛もその後尼になり,2人は和歌を交わしたが,横笛はまもなく奈良の法華寺で世を去った(〈サシ声・中音等〉)。維盛が滝口を訪れたとき,まだ30にもなっていない滝口が,やせ衰えて老僧のように見え,その行い澄ました姿がうらやまれるほどだった(〈初重〉)。滝口の一徹な性格と,横笛の優しさとを対照的に描き,曲節のうえにもそれを反映させている。
(2)能。三番目物。鬘物(かつらもの)。非現行演目。作者不明。シテは横笛。出家した滝口(ワキ)の住む嵯峨野の往生院を横笛(前ジテ)が訪れるが,会ってくれないので,帰路大堰川(おおいがわ)に身投げをする。滝口の弔いに横笛の霊(後ジテ)が現れ,舞を舞うなどするうち,ついに成仏する。
執筆者:横道 万里雄(3)長唄。横笛が滝口の住む嵯峨野を訪れるくだりを叙したもので,2曲ある。一つは作詞三宅花圃。作曲3世杵屋(きねや)正治郎。明治20年代の作。他は作詞菊園主人。作曲3世杵屋六四郎。しっとりとした情趣のある作品である。
執筆者:浅川 玉兎
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横に構えて吹く楽器の総称。細長い管状の楽器で、通常、リードをもたない。「笛」という語も一般的には「横笛」とほぼ同義に用いられるが、尺八やリコーダーなど縦吹きの笛と区別する際には「横笛」という語が使われる。日本の横笛は竹製が多く、一つの吹口(ふきぐち)と複数の指孔をもつだけの単純な構造であるが、その反面、奏法上の技巧が発達している。雅楽の竜笛(りゅうてき)、高麗笛(こまぶえ)、神楽笛(かぐらぶえ)、能の能管、歌舞伎囃子(かぶきばやし)や民俗音楽の篠笛(しのぶえ)、明清楽(みんしんがく)の明笛(みんてき)などのほか、ヨーロッパのフルートも横笛にみなされる。これらの横笛は個々の音楽ジャンル内では単に「笛」とよばれることも多く、雅楽では竜笛のことをとくに「横笛」とよぶ場合もある。
[藤田隆則]
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(櫻井陽子)
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…しかし人類が道具を用いるようになって以来,木や骨による〈打ちもの〉,乾燥した木の実などによる〈がらがら〉を知っていたことは十分考えられる。旧石器時代になると,ブル・ロアラー(うなり木),法螺(ほら)貝および笛が現れ,新石器時代にはスリット・ドラム,一面太鼓,楽弓,パンの笛(パンパイプ),横笛,木琴,ジューズ・ハープ(口琴),葦笛など,豊富な種類の楽器が作られるようになった。さらに金属を用いるようになると,鐘やチター系弦楽器が現れる。…
…〈ふきえ(吹柄,吹枝)〉の意から生じたともいわれる古来の言葉で,元来は吹いて鳴らす楽器一般を指し,吹奏楽器とか管楽器など近代の用語とも範囲がほぼ重なる。しかし日本では,それらのなかでもいわゆる横笛の類が多用され,とくに親しまれてきたため,笛といえば横笛のことという観念もまた強い。 横笛とは竜笛(りゆうてき),能管,篠笛等々を指す俗称で,演奏時の構えに由来する呼び方であるが,原理的・構造的にも共通性があり,和楽器以外(たとえば洋楽のフルート)にも適用が可能である。…
…《平家物語》巻十〈横笛〉に語られる悲恋物語の主人公。屋島を脱出した平維盛が,高野山の滝口入道を訪ねて出家し,また彼を善知識として那智沖で入水するが,滝口入道が登場する初めに,その発心由来譚として語られるのが〈横笛〉の章段である。…
…渋川版の一。建礼門院の御所に使いとして参上した三条の斎藤滝口時頼は,容顔美麗な横笛という女房を一目見て恋い焦がれ,和歌に託して思いのほどを告げる。たびたび文を取り交わし,契りを結ぶ仲となるが,2人の仲を裂こうとする父に従わず,滝口は勘当を告げられる。…
…〈ふきえ(吹柄,吹枝)〉の意から生じたともいわれる古来の言葉で,元来は吹いて鳴らす楽器一般を指し,吹奏楽器とか管楽器など近代の用語とも範囲がほぼ重なる。しかし日本では,それらのなかでもいわゆる横笛の類が多用され,とくに親しまれてきたため,笛といえば横笛のことという観念もまた強い。 横笛とは竜笛(りゆうてき),能管,篠笛等々を指す俗称で,演奏時の構えに由来する呼び方であるが,原理的・構造的にも共通性があり,和楽器以外(たとえば洋楽のフルート)にも適用が可能である。…
…竹製の横笛の一種。横笛(おうてき)ともいってこれを〈やうでう(ようじょう)〉と読むことがあり,竜吟,竜鳴とも呼ばれた。…
※「横笛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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