死を忘れるな(読み)しをわすれるな(その他表記)Memento Mori

日本大百科全書(ニッポニカ) 「死を忘れるな」の意味・わかりやすい解説

死を忘れるな
しをわすれるな
Memento Mori

イギリス女流作家、M・スパーク長編小説。1959年刊。70歳以上のかつての名士才媛(さいえん)たちばかりが住んでいる老人ホームを舞台に、「死ぬことをお忘れなく(メメント・モリ)」という無気味な脅迫電話がかかってくるところから始まる。この中世以来の死の省察を促すことばが犯罪と結び付くことにより、老年静穏栄光とは逆の生臭い人間模様が展開される。滑稽(こっけい)で残酷な場面を乾いた文体で描きながら、笑いのうちに日常の次元を超えた世界に導き入れ、こうした無気味さこそ信仰への誘いであることを読者に悟らせる。彼女一流の技法がもっともみごとに開花した作品である。

[出淵 博]

『永川玲二訳『死を忘れるな』(1964・白水社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の死を忘れるなの言及

【スパーク】より

…第2次大戦中は外務省政治情報部に勤務,51年商業主義的クリスマスを諷した短編で文壇に登場したが,貧窮と神経症とに苦しみ,53年ローマ・カトリックに改宗。長編《慰める人々》(1957)でようやく認められ,70歳以上の老人ばかりの孤独な世界を描いた《死を忘れるな》(1959),ロンドンの独身者たちのグロテスクな世界を描いた《独身者たち》(1960),故郷エジンバラの女学校を舞台に,生徒に生きがいを授けるのに夢中な老嬢を描いた《ミス・ブローディの青春》(1961。1969年映画化,1978年テレビ・ドラマ化)など,一見残酷とも思われる笑いと洞察を生かした秀作をやつぎばやに発表して文壇的地位を確立した。…

※「死を忘れるな」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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