コトバンクはYahoo!辞書と技術提携しています。

犯罪 はんざい crime; Straftat

7件 の用語解説(犯罪の意味・用語解説を検索)

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

犯罪
はんざい
crime; Straftat

通常社会的に明らかに有害または危険とみなされて禁止され,刑罰法規により有罪とされる行為のこと。社会現象としては,必ずしも有罪とされない行為も含め,より広義に用いられることもある。何が社会的に有害であり危険であるかに関しては,多様な見解が存在する。

本文は出典元の記述の一部を掲載しています。

出典|ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
Copyright (c) 2014 Britannica Japan Co., Ltd. All rights reserved.
それぞれの記述は執筆時点でのもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

デジタル大辞泉の解説

はん‐ざい【犯罪】

罪をおかすこと。また、おかした罪。「犯罪を防ぐ」「完全犯罪
刑法その他の刑罰法規に規定する犯罪構成要件に該当する有責かつ違法な行為。

出典|小学館 この辞書の凡例を見る
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:曽根脩
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

百科事典マイペディアの解説

犯罪【はんざい】

実質的意義では一般社会の生活秩序を侵害する反社会的・反文化的・反規範的行為で刑罰を科するに適する行為。形式的意義では実定法によって刑罰を科せられるべきものとされている行為をいい,刑罰法規に規定された構成要件に該当し,違法性があり,有責な行為である。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
All Rights Reserved. Copyright (C) 2015, Hitachi Solutions Create,Ltd. ご提供する『百科事典マイペディア』は2010年5月に編集・制作したものです

とっさの日本語便利帳の解説

犯罪

実質的には、刑罰を科すことによって防止する必要のある、市民の生活利益を侵害する行為。形式的には実定法により刑罰を科せられる行為。

出典|(株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」
それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

世界大百科事典 第2版の解説

はんざい【犯罪】

罪を犯す行為や,犯した罪自体をいう。狭義では法に規定された違法行為だけをいうが,最広義では罪と同義で反社会的・反権威的行為のすべてをさす。
【多様な文化と犯罪観】
 人類文化を通観してみると,当該社会の正統的権威が支持する規範に違反する行為が犯罪とされているといえる。したがって犯罪は,ある行為を犯罪と定める権威の性質,種類のいかんによっていくつかの類型に分けられる。社会とくに共同体の公共性を犯すものは社会的犯罪,特定の社会的役割に対する期待を犯すものが道義的犯罪,良心や倫理を犯すものが道徳的犯罪などと一応区別されるが,いずれも一括して罪悪・罪過などともよばれるように,明確な区別をつけにくいことが多い。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
All Rights Reserved. Copyright (C) 2015, Hitachi Solutions Create,Ltd. 収録データは1998年10月に編集製作されたものです。それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。また、本文中の図・表・イラストはご提供しておりません。

大辞林 第三版の解説

はんざい【犯罪】

罪を犯すこと。また,犯した罪。法律上は刑法その他の刑罰法規の規定により,刑罰を科される行為をいう。

出典|三省堂
(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

犯罪
はんざい

刑罰を科せられるべき行為をいう。社会生活上有害な行為には無数の種類のものがあるが、そのすべてが犯罪とされるのではなく、そのうち有害の度合いが重大で、立法により刑罰という強い手段に訴える必要があると宣言された行為だけが犯罪となる。刑法に規定された各種の行為はもちろん、軽犯罪法その他の特別法や、道路交通法などの行政取締法規に違反する行為も、これに対して刑罰が規定されている限りは犯罪である。したがって、速度制限違反や駐車違反などの道路交通法違反も、犯罪という点では、殺人や窃盗と変わりがない。[西原春夫]

沿革

何を犯罪とするか、つまりどのような行為に対して刑罰を科すかは、各時代、各民族によってかなり違っていた。もっとも、殺人・傷害・強窃盗・強姦(ごうかん)などの基本的な規範に違反する行為は、ほとんどいつの世にも、また世界のどの国でも犯罪とされ、刑罰の対象とされていたといえよう。しかし、その他の多くの犯罪は、各民族の政治・経済機構や風俗・習慣などを反映し、時代の進展とともに生々発展を続けてきたのである。しかも、18世紀の啓蒙(けいもう)期以前の国家には、いわゆる罪刑専断主義が支配し、刑罰権の行使が大幅に権力者にゆだねられていた結果、何が犯罪であり、どのような行為に対して刑罰が科されるかが、かならずしも法律によって明示されていなかった。ヨーロッパにおいてはフランス革命以降、日本においては1880年(明治13)の旧刑法以降、ようやく罪刑法定主義が確立され、国家が刑罰を科すためには、あらかじめ犯罪と刑罰とを法律に明示しなければならないとされたのである。[西原春夫]

意義

犯罪ということばには、種々の意義がある。第一は実在としての犯罪であって、甲が乙を殺したというような現実のできごとそのものをさす。第二は個別類型的な概念としての犯罪であって、殺人・傷害・窃盗などの個々の犯罪類型を意味する。第三は一般的概念としての犯罪であって、すべての犯罪類型を包括しうる最高の普遍的概念を表すものである。この第三の犯罪という一般的概念があることによって、たとえば自動車事故で甲が乙に傷害を与えたという一個の事実が、一方において民法上の不法行為として損害賠償の対象となり、他方において刑法上の犯罪として刑罰の対象となることがわかる。
 さらに、犯罪は、後述するように、刑法学上の厳密な意味では有責・違法な行為をさすのであるが、単なる違法行為を犯罪という場合がある。たとえば精神病者の犯罪というように。この場合、精神病者の行為は有責性を欠くから、厳密な意味では犯罪とはいえないが、違法行為を犯しているという意味で、俗に犯罪を犯したということがある。[西原春夫]

概念

犯罪は、内容的にいえば、有責・違法な行為である。犯罪はまず「行為」でなければならない。行為の主体は人に限られ、動物の活動や自然現象そのものは行為のなかには入らない。また、行為は意思によって支配しうるものでなければならないから、物理的な反射運動や絶対的強制下の行動は行為から除外される。さらに、行為とは人の外部的態度を意味するから、意思や思想そのものは行為でなく、犯罪にならない。
 次に、犯罪は「違法な」行為である。違法というのは刑法規範に違反することであって、どのような行為が刑法規範に違反するかは、刑法各本条の構成要件と、刑法総則の違法阻却事由とに積極・消極両面から記述されているから、規範違反性すなわち違法性は、同時に、違法阻却事由の不存在と構成要件該当性を意味する。
 刑法規範は、法益すなわち国家、公共、または国民個人の重要な利益を守るためのものであるから、「特定の法益を侵害するな」という禁令か、「特定の法益を守るような行動をとれ」という命令かのどちらかの形をとる。したがって、規範違反すなわち違法な行為の実質は、法益を侵害し、またはこれを危険に陥れる行為に限定される。
 ところで、違法な行為は種々の観点から分類することができる。作為犯と不作為犯、既遂と未遂、正犯と共犯、一罪と数罪。これらはどれも違法である点では共通するが、違法性の重さの点ではそれぞれに相違があり、したがって科せられる刑の重さも違ってくる。
 最後に、犯罪は「有責な」行為である。行為に対する違法性の評価が規範違反または義務違反、すなわち「すべきであったのにしなかった」という判断であるのに反して、有責性の評価は「しえたのにしなかった」という、可能性の面からする判断にほかならない。違法性の評価では客観的な行為が問題となるのに反して、有責性の評価では主観的な行為者が問題となってくる。したがって、たとえば犯人が14歳未満の刑事未成年者であるとか、精神病者であるとかの事情は、有責性を否定する事実ということになる。[西原春夫]

種類

犯罪は、法益すなわち法律の保護する利益の性質ごとに大別すると3種に分かれる。第一は国家の法益を害する犯罪であって、内乱罪・公務執行妨害罪・犯人蔵匿罪・偽証罪・税法違反・破壊活動防止法違反などがこれに属する。第二は公共の法益を害する犯罪であって、騒乱罪・放火罪・文書偽造罪・各種の軽犯罪法違反・道路交通法違反などがこれに含まれる。第三は個人の法益を害する犯罪であって、殺人罪・傷害罪・名誉毀損(きそん)罪・窃盗罪・横領罪・器物損壊罪などがこれに入る。[西原春夫]

犯罪対策

犯罪は社会に害悪を与え、その秩序を乱す行為であるから、当然ながら、歴史的にみてどの時代、どの社会でも、発生した犯罪に応じて種々の対策を講じてきた。このような個別具体的な措置を一般に、犯罪対策crime policyとよんでいる。これは国家発生以前から行われてきたのであり、部族内においても犯罪対策はみられた。外部の敵に対してはその侵入を防ぐために戦争を行い、内部の犯罪者に対しては秩序を乱すとして制裁が加えられてきた。しかしながら、科学的な犯罪対策が講じられるようになるのは、かなり後のことであり、19世紀における科学の発達を待たねばならなかった。よりよい対策を講じるためには、犯罪の原因を探求し、それに基づいて合理的な対策をとる必要があるからである。これと市民革命による人道主義とが相まって、犯罪原因論と刑罰論、さらには犯罪者処遇論の研究が展開してきた。
 なお、犯罪対策と類似の用語として刑事政策があるが、これは個別具体的な犯罪対策のあり方に指針を与え、その措置をくふうする国家ないし地方公共団体の政策立案・政策実施の活動である。[守山 正]
犯罪対策の対象
犯罪対策の対象となるのは、刑罰が科される行為に限らない。したがって、刑法上の概念よりも広く、刑罰の科されない社会的に有害な行為を含む。「社会的に有害」とは、行為が単に個々人に一定の被害をもたらしているというだけでなく、これらの行為に対する何らかの集団的な社会的反動(批判など)がみられ、また公的な制裁を科すことが正当化される場合をいう。
 対策の対象行為が犯罪に限らないのは、第一に、犯罪対策が将来の状況にも対応しなければならないためである。現在、刑罰が科されていない行為でも将来、社会的に問題となり、規制の対象になることは十分に考えられる。薬物対策がその典型例であり、現在規制の対象となっていない特定薬物が社会的に有害と認識されるようになると、規制対象とされることがある(たとえば、合成麻薬MDMAは、日本では1989年まで規制の対象とされていなかった)。このような現象は通常、犯罪化(後述)とよばれる。
 第二に、刑罰をもって対応していない行為も刑罰以外の手段で規制の対象とする場合がある。この例としては、少年法の措置としての少年による虞犯(ぐはん)行為、売春防止法の売春行為、刑法上の責任能力に欠ける心神喪失中の行為などがある。これらの行為はその性質上刑罰は科されないが、社会的な有害性という意味では規制が必要である。少年の虞犯行為には、成人ではまったく問題とならない喫煙、飲酒、深夜徘徊などが含まれるが、少年の健全育成という観点では補導などの対応が必要である。また、売春行為は、1956年(昭和31)の売春防止法成立当時、売春を行う女性に対しては、むしろ社会の被害者であるという認識があったため、刑罰が科されなかったが、社会における性風俗を乱す行為であることには変わりなく、犯罪対策が講じられている。さらに、責任無能力の行為で刑罰を科すことができない場合でも、現に、精神福祉保健法や心神喪失者等医療観察法などで対応されている。このほか、たとえば、イギリスでは1990年代終わりに、深夜のドンチャン騒ぎ、公共の場の飲酒・酩酊、公共物に対するバンダリズム(破壊行為)など刑法で処罰できないような反社会的行動anti-social behaviourを規制する立法措置がとられ、このような迷惑行為の規制強化が図られている。[守山 正]
刑事立法の動向と厳罰化
日本では、1990年代後半から2000年代にかけ、刑罰を伴うさまざまな法令が相次いで立法されている。1999年(平成11)には、児童買春処罰法、不正アクセス禁止法、組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法、通信傍受法、団体規制法、2000年にはストーカー規制法、児童虐待防止法、あっせん利得処罰法が立法化されている。2001年に配偶者暴力防止法(DV防止法)、2003年にピッキング対策法、出会い系サイト規制法、心神喪失者等医療観察法などが続き、その後、これらのほとんどが改正されている。このように、この時期、刑事立法が相次いだため、刑事立法の時代などともよばれた。これらの現象は、おおむね犯罪化とよぶことができる。従来、日本では新しい立法や改正については慎重な姿勢が保持され、刑事新法はまれであったが、状況は大きく変化している。さらに、2000年には少年法の大規模改正、2005年には監獄法から新法、すなわち受刑者処遇法、その後刑事収容施設法へと切り替わり、これらによって少年保護制度、刑事司法制度に大改革がもたらされた。
 しかしながら、これらの立法や改正の動きは厳罰化や過度の犯罪化として一部批判を受けている。基本的にこれらの動向は、被害者保護ないしは一般社会の応報化の傾向と合致するものであるが、しかし、厳罰化の趣旨は必ずしも明確ではなく、将来における犯罪の抑止を目ざすというのであれば、厳罰化が犯罪抑止の効果をもたらすことを科学的に証明しなければならない。しかし、現在のところ、犯罪学や刑事政策では世界的にみてその証明は依然なされていない。また、被害者保護ないしは社会感情への配慮というのであれば、復讐(ふくしゅう)的な意味合いがあるが、近代社会は個々の市民の復讐を禁じており、これに逆行するおそれがある。
 このように、1990年代から続いている刑事新立法の動きは市民的自由を制約し、国民の日常生活に重大な影響を及ぼすなど種々の問題をはらんでおり、今後、立法の影響に注目する必要がある。
犯罪化と非犯罪化
社会的有害性の基準は、社会によっても時代によっても変化する。これに応じて犯罪対策も改変する必要がある。たとえば、従来社会的に有害でないとされた行為が時代の経過とともに有害になる場合があり、他方、有害とされた行為が有害でなくなる場合もある。前者がいわゆる犯罪化criminalization、後者が非犯罪化de-criminalizationとよばれる現象である。現代社会では、圧倒的に前者の例が多いが、歴史的には後者の例も少なくない。とくに1970年代のアメリカでは非犯罪化の主張が強まり、同性愛や自殺など被害者のいないような行為(被害者なき犯罪)にまで国家が介入し刑罰を科すことは過剰であり、一般市民のモラルにゆだねるべきとされた。今日の同性婚を法的に承認する動きからすれば、非犯罪化の動きは自然であり、また国家介入によるコスト・ベネフィット(費用・便益分析)の観点からも、国家財政状況に照らして不適当とされたのである。日本では、第二次世界大戦直後まで刑法に姦通罪(183条)が規定されていたが、戦後の改正で廃止された。この罪は、もともと婚姻中の女性のみを処罰するという男性の家父長的支配を示し、また政策的には婚姻中の夫の戦場における士気を高めることを目的としたが、戦後の憲法改正における男女平等規定の創設と恋愛観の変化に伴い、その使命が急速に失われたことで、犯罪対策の対象から外れたのである。
 他方、犯罪化の例は上述の刑事立法のなかにみることができる。たとえば、2000年(平成12)に成立したストーカー規制法は、従来放任されてきた特定個人に対するつきまとい等の行為を犯罪化するもので、桶川女子大生殺人事件を契機に急速に社会問題化したストーカー行為を規制対象とした。しかし、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情」から生じたストーカー行為に限定され、マスコミや政治活動、労働運動などの市民的自由を保障するように配慮されている。このように、社会のニーズに応じて犯罪対策は変化しなければならないのである。[守山 正]
刑罰と犯罪者処遇
犯罪対策は従来刑罰に大きく依存し、その執行を中心に展開してきた。18世紀以降、ヨーロッパでは刑罰論が盛んになり、この議論に基づいて刑法典が各国で制定された。その根拠の一つが社会契約説であり、これによれば、国民は生まれながらにして暗黙のうちに国家と契約しており、犯罪を行えば国家による刑罰を受けることを承認しているとされ、このようにして国家刑罰権と国民の刑罰受認義務が確立した。刑罰の内容としては、当時死刑や身体刑が中心であったが、産業革命の発展とともに犯罪者の労働力が注目され、次第に、死刑から強制労働を伴う拘禁刑へと転化した。その後、人道主義の深化により身体刑も回避され、ヨーロッパ諸国が海外に植民地をもつようになると追放刑、流刑が発達した。しかしながら、犯罪原因として貧困などの社会的要因が着目されるようになると、犯罪者を施設に拘禁して改善し社会復帰を図る思想が芽生え、犯罪者の処遇は犯罪対策や刑事政策の中心となり、少なくとも欧米では1970年ごろまでこの考え方は続いた。
 しかしながら、そのころ、アメリカでは刑罰の機能に対する懐疑論が生まれ、「ナッシング・ワークス(何も機能していない)」というスローガンのもとに、社会復帰思想をやめる動きが盛んになり、現在では、刑務所などの施設では、労働などを通じた社会復帰プログラムを行わず、応報原理に基づいて単に拘禁だけ行う方式が主流となっている。しかし、この結果、拘禁刑の長期化が進み、全米で収容者が200万人を超えるなど刑務所・拘置所の過剰拘禁が続いている。
 もっとも、日本では、依然社会復帰思想が根強く、新しい刑事収容施設法においても処遇の原則が盛り込まれた。ただし、実際の刑罰適用では、罰金刑の適用数が圧倒的に多く、刑罰全体の9割を占める。
被害者対策
上記からも理解されるように、従来の犯罪対策は、犯罪ないしは犯罪者に対するものであった。これによって将来の犯罪を防止できると考えられたからである。犯罪対策において被害や被害者にも関心が寄せられるようになるには、第二次世界大戦後を待たねばならなかった。この時期、被害者学が誕生し、被害者に対する学問的アプローチが開始されたが、当初は、被害者が犯罪発生にどのように関与し、どのような役割を演じたのかが議論された。いわゆる被害者の有責性、落ち度をめぐる議論である。その後、1960年代には、世界的に被害者の救済の必要性が主張されるようになり、被害者救済運動が活発になった。これは、犯罪対策において、一方で犯罪者の処遇思想やその人権保障が進展しているのに対して、被害者は保護や救済の対象外におかれ、長く無視されてきた状況に対する社会的理解が進んだためである。日本でも、1970年代から1980年代にかけて、被害者救済の機運が高まり、1980年(昭和55)にはその象徴として犯罪被害者等給付金支給法が成立した。その後も、犯罪者処遇との均衡から、被害者に関連するさまざまな法令が設けられ、今日に至っている。
 もっとも、犯罪対策の対象に被害者を含める意義は、単に救済や保護にとどまらず、被害予防の領域でも重要になっており、特定個人・集団が被害に遭(あ)いやすい傾向、つまり被害者特性に鑑(かんが)み、被害を未然に防ぐことも犯罪を防止する点で現代的意義が認められる。たとえば、「振り込め詐欺」の例をみればわかるように、犯人側への対応と同時に、潜在的な被害者側に対する助言などの対応が犯罪対策上、いかに重要であるかを物語っている。[守山 正]
犯罪予防対策
従来の犯罪対策は事後予防であり、犯罪・非行の発生を待って、警察をはじめとする法執行機関、刑事司法機関が善後措置を講じてきた。しかし、このような対応はいうまでもなく、現実に発生した犯罪がもたらす社会的混乱、とくに被害の発生を前提にしており、犯罪者への対応を含めて、膨大な人的物的資源の消費、国家財政の支出を余儀なくする。そこで誕生したのがアメリカを中心とする環境犯罪学ないしイギリスを中心とする状況的犯罪予防論とよばれる考え方である。1970年代アメリカでは犯罪者処遇への懐疑論が広まり、社会復帰プログラムによって将来の再犯を防止するという考えが衰退したのと前後して、これらの考え方が台頭した。すなわち、従来の犯罪対策とまったく異なり、現場の犯罪発生メカニズムを解明することによって物理的な改善を図る方法であり、未然予防を基本とする。この手法は、膨大な予算を使うことなく、また国民ひとりひとりの日常的努力も大きな勢力になる点が特色である。その根底にある思想は、「犯罪は機会によって発生する」というものである。確かに、犯罪発生地点は特定場所に集中することが知られる。したがって、犯罪対策は犯罪者にアプローチするのではなく、犯罪発生を誘発する種々の機会、現場の物理的環境に対してアプローチするのである。たとえば、ひったくりは夜間照明が乏しい人通りの少ない地点に多発する傾向があるが、これに対し夜間照明の改善を行うことによって一定程度ひったくりを予防することができる。また、多くの鉄道駅に設置されている自動改札機も不正乗車(キセル乗車)を減らす環境犯罪学の手法である。
 このような手法は、1970年代アメリカの犯罪学者ジェフリーClarence R. Jefferyや建築学者ニューマンOscar Newmanの提唱する「環境設計による犯罪予防Crime Prevention Through Environmental Design(今日では、略してCPTEDともよばれる)」で注目され、その後、イギリス内務省の研究官であったクラークRonald Clarkeが状況的犯罪予防論を展開して、当時犯罪が激増したアメリカ、イギリスの犯罪対策の主流となったのである。現に、各地でこの考え方が導入され、住宅・ビルの構造(防犯住宅)、駐車場の配置、植裁の方法、照明や防犯機器の設置などが、犯罪予防の観点から再検討された。
 日本でこの考えが注目されるようになったのは、犯罪が増加した1990年代後半であり、今日、ほとんどの自治体で施行されている「安全・安心まちづくり条例」には、環境犯罪学ないしは状況的犯罪予防の視点が含まれている。
 もっとも、この考え方が過度に進むと、街全体を要塞化し、外部からの侵入者を集団で防御し、他の地域との隔絶を図るゲーテッド・コミュニティ論に至るおそれがあり、現に欧米諸国でこの種の新興住宅街が各地に広がる傾向にある。[守山 正]
民間の犯罪対策
犯罪対策は国や地方自治体で行われるのが一般的であるが、現実には地域住民の自発的な活動も含まれる。とくにピッキング被害などの住宅侵入盗や通学路の子どもねらいの性犯罪が多発した1990年代に、この種の活動が全国的に組織され、町内会やPTAなどが主導して、日々の地域安全活動が展開された。他方、このような状況に応じて、民間の警備産業も飛躍的に成長しており、個人の住宅や商業施設、企業では、警備会社と契約し、セキュリティを確保している。
 このように、犯罪対策は国や地方自治体の活動だけでは限界があり、これを補充するものとして民間活動の重要性の認識が高まっており、いわば犯罪対策の民営化が進んでいる。[守山 正]

無文字社会の犯罪

文字のない社会で犯された非行を処理する態様からみた場合に、(1)ある社会自体が当該社会によって公認された処理方法で対応する非行と、(2)被害を受けた個人が自分の力によって加害者との間で私的に処理する非行の二つがある。
 文明社会で、公的な手続を通して死刑、身体刑、罰金刑などの刑罰が科せられる非行をもって犯罪というのであれば、そのような犯罪行為は、文字のない社会では、(1)だけでなく、(2)も含まれる。そこで、文字のない社会の非行について、文明社会の法概念でもって理解するのは不適当であることが多くの法人類学者によって指摘されている。(1)に入る非行は、その社会の秩序や平穏を損なう危険があるために、長老会議、裁判集会、首長(しゅちょう)などの公認された機関で責任者に処罰を加え、当該社会の憤りを表すと同時に、加害者に制裁を加えるものである。このような非行に数えられる行為は部族によって異なるが、近親相姦禁忌(インセスト・タブー)を破る行為、他の社会成員にまじないによって害を与える邪術sorceryを行使する行為、また、超自然力を借りて害をもたらす妖術(ようじゅつ)witchcraftを行使する行為、部族慣行を反復して犯す行為、その社会の政治的・行政的権威を担う人を侮辱する行為、そのような人の命令に服従しない行為などが、概して含まれる。
 (2)に含まれるのは、被害者が奪われた物を実力で取り返す行為、あるいは被害者の側が自分たちの手で加害者を処罰する行為である。この自力救済の仕方は部族によって異なるが、文字のない社会から文明社会に移るに応じて、(2)はしだいに抑制され、個人は公の手続を通して、受けた損害の賠償を請求できる民事法が形成される。これに対して、社会秩序を乱す行為は犯罪として刑罰が科せられる刑事法が構成され、法が二つに分化する現象が生じる。[有地 亨]
『江守五夫著『法と道徳』(『人間の社会 現代文化人類学4』所収・1960・中山書店) ▽ラドクリフ・ブラウン他著、千葉正士編訳『法人類学入門』(1974・弘文堂) ▽小川太郎著『刑事政策論講義 第2分冊』(1978・法政大学出版局) ▽団藤重光著『刑法綱要総論』改訂版(1979・創文社) ▽吉岡一男著『刑事学』(1980・青林書院新社) ▽西原春夫著『犯罪各論』(1983・筑摩書房) ▽井田良著『犯罪論の現在と目的的行為論』(1995・成文堂) ▽高橋良彰著『新犯罪社会心理学』(1999・学文社) ▽山中敬一著『刑法総論』全2巻(1999・成文堂) ▽守山正・西村春夫著『犯罪学への招待』(1999・日本評論社) ▽大谷実著『刑法講義総論』(2000・成文堂) ▽岡本勝著『犯罪論と刑法思想』(2000・信山社出版) ▽鈴木茂嗣著『刑法総論――犯罪論』(成文堂・2001) ▽大谷実著『刑法講義各論』新版(2002・成文堂) ▽法務省法務総合研究所編『犯罪白書』各年版(財務省印刷局)』

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ) この辞書の凡例を見る
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの解説は執筆時点のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

世界大百科事典内の犯罪の言及

【刑事政策】より

…広い意味での犯罪対策,あるいはそれに関する経験科学的ないし政策論的研究をいう。刑事政策は,犯罪に対してどのような制裁を用いて対処するか,とりわけ犯罪者にどのような処遇を施すか,という問題を軸として展開してきた。…

【刑法理論】より


[前期旧派]
 前期旧派(前期古典派)は,18世紀末から19世紀初頭にかけて,市民社会の成立期にイタリアのベッカリーア,ドイツのP.J.A.vonフォイエルバハらによって形成・展開された。その特色は,国家刑罰の根拠と限界を社会契約説によって基礎づけることから出発して,罪刑法定主義の確立,刑法と宗教・道徳の峻別,一般予防的目的刑論,犯罪と刑罰との均衡が必要であるという意味での相対的応報刑論,客観主義の犯罪論を主張したことにあった。アンシャン・レジームの刑事法制度が,王権神授説に結びつく贖罪応報思想と絶対王政の権威を示す威嚇刑思想を基礎に,罪刑専断主義,刑法と宗教・道徳との不可分性,身分による処罰の不平等性,死刑と身体刑を中心とする刑罰の過酷さを特色としていたのに対して,前期旧派は,それを根本的に改革するために,刑事法制度を宗教と王権の権威から解放し,人間の合理的理性と功利主義的思考によって基礎づけようとしたのであった。…

【罪】より

…罪という言葉には大別して法律に違反する〈犯罪〉,道徳的規範に反する〈罪悪〉,宗教的戒律にそむく〈罪業(ざいごう)〉の三つの意味がある。犯罪は社会の法的秩序を破る行為であり,法にもとづいて刑罪を加えられる。…

※「犯罪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
All Rights Reserved. Copyright (C) 2015, Hitachi Solutions Create,Ltd. 収録データは1998年10月に編集製作されたものです。それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。また、本文中の図・表・イラストはご提供しておりません。

犯罪の関連キーワード虞犯少年犯し国つ罪重犯小人罪無し玉を懐いて罪有り初犯島替え罪を憎んで人を憎まず権力犯罪犯罪を犯す

今日のキーワード

パラリンピック

障害者スポーツ最高峰の大会。国際パラリンピック委員会(IPC : International Paralympic Committee)が主催している。もう1つのオリンピックという意味を表すparal...

続きを読む

コトバンク for iPhone

犯罪の関連情報