改訂新版 世界大百科事典 「氷河植物群」の意味・わかりやすい解説
氷河植物群 (ひょうがしょくぶつぐん)
glacial flora
第四紀更新世には,少なくとも4回にわたって寒冷気候が襲来し,その期間中,北半球では北アメリカ大陸ならびに中部および北部ヨーロッパの大半の地域が,大陸氷河によっておおわれた時期があった。このため,それまで北半球の広い範囲を占有していたブナ,ミズナラ,イタヤカエデなどの落葉広葉樹林に代表される第四紀起源の温帯性植物群の多くは,これらの地域では絶滅するか南部へ移住した。今日では,それらのものが温帯地域に残存し,隔離的に分布している。これらの植物群に代わって,氷河植物群または極地高山植物群と呼ばれる植物群が分化し,その分布域を寒冷気候が支配する地域を中心に拡大した。この植物群は,その代表的植物のチョウノスケソウDryas octopetala L.の名をかりてドリアス植物群Dryas floraと呼ばれることもある。ムカゴトラノオBistorta vivipara S.F.Gray,マルバギシギシOxyria digyna Hill,ヒメカンバBetula nana L.など,今日,北極圏やヨーロッパ・アルプス,ロッキー山脈に見られる植物が,この植物群を指標し,中緯度地方の高山植物群の主要な構成要素をなしている。
執筆者:河野 昭一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報