日本大百科全書(ニッポニカ) 「湘南亭」の意味・わかりやすい解説
湘南亭
しょうなんてい
京都市西京(にしきょう)区西芳寺(さいほうじ)(苔寺(こけでら))庭園の池畔に建てられた茶席。現存の亭は、慶長(けいちょう)年間(1596~1615)に千少庵(せんのしょうあん)によって再興されたものと伝えられるが、つまびらかでない。屋根は杮葺(こけらぶ)き、池に面して入母屋造(いりもやづくり)を形成する。先端に、床の高い吹放しで土天井の広庇(ひろびさし)を設け、二枚障子を隔てて四畳台目(だいめ)の茶室、さらに次の間六畳が続き、ここから西へ長四畳と板間の供待ちが連なっている。茶室は中柱と台目切炉(きりろ)を備え、亭主床の構えで別に書院床を設けている。開放的な庭園建築の構成のなかに巧みに茶室が組み込まれ、優れた意匠にまとめられており、作者の高い力量を示している。茶室の作風は、利休(りきゅう)流ではなく、織田有楽(おだうらく)とか古田織部(おりべ)の作風に近い。しかし少庵の作風には、千利休や千宗旦(そうたん)のそれと異なる面のあったことも事実である。茶室には「松庵」の名もある。なお、岩倉具視(ともみ)がこの亭に幽棲(ゆうせい)したことがあったと伝えられる。
[中村昌生]