改訂新版 世界大百科事典 「焼打」の意味・わかりやすい解説
焼打 (やきうち)
戦法の一つで焼討とも書き,城砦・在家(民家)などに放火し,敵陣を攻略すること。市街戦などではこの焼打は常套手段とされた。火攻めの一つであるが,具体的方法として,矢に可燃物を付して発射し,敵陣の防御物を破却することも多かった。多く火矢が使われたが,日本での使用例は《日本書紀》(欽明条)にも見られ古い。《平家物語》にも〈樋口次郎兼光,新熊野(いまくまの)の方より時のこゑをぞあはせたる。鏑のなかに火を入て,法住寺殿の御所に射立てたりければ,おりふし風ははげしゝ,猛火天にもえあがって……〉とあり,火矢の使用例を知ることができる。こうした火矢とは別に後世城攻めに使用された火器に石火矢がある。これは室町末期に使用された火薬力により発射するもので,船軍には敵船を焼くための炮(ほうろく)火矢とよばれるものが使用された。こうした射かけ手段による焼打とは別に放火によって敵を攪乱する方法もとられた。江戸時代の《海国兵談》には〈火攻は大風の時,風上より在家々々江火を懸て,其火気にて城を焼也,若又在家無時ハ,竹木を山ト積上て火を放スべし〉とも見えている。いずれにしても焼打は敵の攻撃力を削減するための有効な手段であったといえる。
執筆者:関 幸彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報