〈戦法〉の語は古くからあり,一般には〈たたかい,戦争の方法〉〈戦闘,競技,勝負事などのやり方〉〈戦術〉という意味で使用されるが,旧日本軍の軍用語としては海軍で多用された。荻生徂徠の《鈐録(けんろく)》(1855)や《幕僚参謀服務綱領》(1873)に〈戦略〉の語とともに〈戦法〉の語が使用されているが,旧日本陸軍では,そののち西洋兵学の流入にともない,strategy,Strategie,stratégieおよびtactics,Taktik,tactiqueの訳語として〈戦略〉〈戦術〉の語が兵術用語として定着し,〈戦法〉の語は明治中期以降〈戦術〉とほぼ同義,あるいは〈戦術〉から行軍,宿営等にかかわる分野を除いた〈戦闘法〉の意味で慣用されてきた。陸軍ではこの語に〈兵を使用し戦を作すの方法〉(参謀本部《日本古戦法》1924)というような説明以外,特に定義したものはない。旧日本海軍では,〈敵と離隔して我が兵力を運用する兵術〉を〈戦略〉,〈敵と接触して兵力を運用する兵術〉を〈戦術〉とし,戦術の実施,すなわち戦闘およびその前後において指揮官がとろうとする企図,方策を特に〈戦策〉と称し,〈戦術を実施する制規の方法〉を〈戦法〉と称した(海軍大学校《兵語界説》1907)。例えば,連合艦隊は《連合艦隊戦策》を定め,そのなかで昼戦,薄暮戦,夜戦等の各場面での〈戦法〉を規定し,そこで〈昼戦戦法〉の〈甲戦法〉として〈主敵の戦闘開始後速やかに機を見て全軍突撃を敢行し一挙に敵を撃滅す〉,〈乙戦法〉として〈視界極めて良好なる場合暫く戦艦戦隊は敵の射程外に在りて遠戦を行い敵を牽きつけ一気に全軍突撃を敢行し敵を撃滅す〉(《連合艦隊戦策案》1925)というように,いくつかの戦闘の型をあらかじめ部下指揮官に示し,訓練などの準拠としていた。
〈戦法〉は,直接的には戦闘用具である兵器により変化し,また戦法が兵器の進歩を招来する。基本的には,攻-防,決戦-持久,一挙撃滅-逐次撃破,先手(先制)-後手(受けて立つ),正(正攻,正規戦)-奇(奇襲,不正規戦)などの面の選択があるが,具体的な〈戦法〉は兵器の進歩のほか,戦争様相,相対戦力,軍事制度および教義等により決定される。一般に知られている海軍の〈漸減戦法〉は,《連合艦隊戦策》における〈作戦方針〉で,来攻する優勢な敵艦隊に対し各段階で各種手段を尽くしてその勢力を減殺したのち,決戦を挑もうという戦策であり,旧海軍の定義から厳密にいえば〈戦法〉といいがたい。〈アウトレンジ戦法〉は,敵の射程外,攻撃圏外から攻撃を加えようという旧海軍の戦法で,敵より長距離攻撃の可能な航空機または大砲を整備するよう施策してきた。日本海軍はマリアナ海戦(1944年6月)に際し,《第一機動艦隊戦策》で規定したこの戦法を実行したが失敗,その後の日本海軍の戦法は〈必死奇襲戦法〉〈特攻戦法〉〈体当り戦法〉といったものとなった。
→戦略・戦術
執筆者:前原 透
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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