玉茗堂四夢(読み)ぎょくめいどうしむ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「玉茗堂四夢」の意味・わかりやすい解説

玉茗堂四夢
ぎょくめいどうしむ

中国、明(みん)代の戯曲湯顕祖(とうけんそ)の作。『紫釵記(しさき)』『還魂記』『南柯記(なんかき)』『邯鄲記(かんたんき)』の4種の総称。玉茗堂とは湯顕祖の書斎の名称で、これらの戯曲は夢を重要な要素として筋が運ばれるところから、「玉茗堂四夢」とよばれる。湯顕祖は明代における傑出した劇作家であるが、夢と現実の相関を深く信じていた人で、戯曲の制作にも、それが強く作用している。若い時期の作『紫釵記』では、夢は夫婦再会の予兆として用いられているにすぎないが、晩年の『還魂記』では、夢のなかでの青年男女の出会いが、夢から覚めてのちの現実の世界で、互いにまだ見ぬ相手に恋慕の情を募らせることになり、女は恋煩いの果て、死に至る。しかしさいわい回生でき、2人はめでたく結ばれる。作者はここでは夢がいかに現実につながるかを書き、さらにその後の『南柯記』『邯鄲記』では、主人公が自分の一生の流転の姿を夢の中で見尽くして、人生は夢にすぎぬという悟りの境地に達する。ここには夢は現実の世界の鏡であるという考え方がみられる。いずれも夢を効果的に用いており、湯顕祖の名を不朽に伝える傑作である。

[岩城秀夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の玉茗堂四夢の言及

【湯顕祖】より

…詩文の上では,王世貞らが〈文は秦漢,詩は盛唐〉を最高の古典として称揚し,もっぱらこれらの模擬をとなえたのに対し,まっこうから反対して,六朝や宋の詩文をも尊重すべきことを主張し,清の銭謙益に大きな影響を与えた。劇作の上では《紫釵記》《還魂記》《南柯記》《邯鄲記》を書き,いずれも内容が夢と関係が深いので,その書斎の名を冠して《玉茗堂四夢》とよんでいる。とくに《還魂記》は夢と現実を交錯させる特異な構成の中で,青年男女の恋愛を生死をこえて成就させる筋で,天下の子女の喝采を博した。…

※「玉茗堂四夢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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