還魂記(読み)カンコンキ

デジタル大辞泉 「還魂記」の意味・読み・例文・類語

かんこんき〔クワンコンキ〕【還魂記】

中国、明代の戯曲。55幕。湯顕祖とうけんそ作。1598年刊。青年の柳夢梅と美女杜麗娘とれいじょう恋愛成就を、現世冥界とを舞台に描いたもの。恋愛至上主義をうたった、明曲代表作牡丹亭ぼたんてい

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精選版 日本国語大辞典 「還魂記」の意味・読み・例文・類語

かんごんきクヮンゴンキ【還魂記】

  1. 中国、明代の戯曲。五五齣(せき)湯顕祖の作。一五九八年刊。正しくは「牡丹亭還魂記」といい、また「牡丹亭」とも略称する。南安太守の娘が、夢にみた書生面影を慕って悶死。書生が三年後、娘の魂のささやきを聞いて墓を開くと、娘は生き返って二人は結ばれるという筋。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「還魂記」の意味・わかりやすい解説

還魂記
かんこんき

中国、明(みん)代の戯曲。55齣(せき)(幕)。湯顕祖(とうけんそ)の作。一名「牡丹亭(ぼたんてい)」。杜麗娘(とれいじょう)が夢のなかで青年柳夢梅(りゅうむばい)と出会い、花園の牡丹亭で契りを交わす。また柳夢梅も麗娘を夢にみて、慕わしく思うが、現実には会えないままに、麗娘は恋煩いのあげく他界する。しかし思慕の情は変わらず、亡魂が夢梅のもとに通い続け、ついに墓中より回生することができて、現世でめでたく夫婦になる、というのが大筋。湯顕祖は羅汝芳(らじょほう)や李贄(りし)から強い影響を受け、人間の真実の姿、男女の愛情を強調しようとしたが、未婚の男女の私通を正当化するのは、社会の倫理道徳の通念に反することであるので、まず夢のなかの場面を設定し、2人の幸福が現世で実現することを観客が期待するよう巧みに筋を運ぶ。夢と現実、幽界と明界との交錯した構成をとり、これを典雅で美麗な文字で綴(つづ)った。恋愛至上主義の文学というべく、青年男女の喝采(かっさい)を浴び、明代戯曲の最高傑作に推されている。

[岩城秀夫]

『岩城秀夫訳『還魂記』(『中国古典文学大系53 戯曲集 下』所収・1971・平凡社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「還魂記」の意味・わかりやすい解説

還魂記
かんこんき
Huan-hun-ji

中国,明の戯曲。湯顕祖の作。正しくは『牡丹亭還魂記』。万暦 26 (1598) 年完成。南安太守の娘の杜麗娘が花園でまどろむうちに,夢で柳の枝を手に持つ青年と契り,さめてのち恋の病にかかって,その青年の面影を宿す梅の大樹のもとに葬るように遺言して死ぬ。一方,科挙におもむく途中,病気で南安に滞在する柳夢梅は,夢に現れた麗娘の願いでその墓をあばき,愛の力によってよみがえった麗娘と出会い,その後麗娘の両親の反対を乗越えて結ばれる。洗練された表現と緊密な構成をもつ明代戯曲の代表作。偽善的な礼教のきびしい束縛を,死をかけた愛によって打ち破った麗娘の積極的な生き方は,当時の女性層に大きな衝撃を与えたといわれる。

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百科事典マイペディア 「還魂記」の意味・わかりやすい解説

還魂記【かんこんき】

中国,明代の戯曲。正称は《牡丹亭還魂記》。湯顕祖(とうけんそ)の作。南宋の一地方太守の娘が夢に青年と契り,恋い焦がれて死ぬが,青年の愛の力で再生し結ばれる。封建的礼教を信じる父親の監視のもとに,娘の心理がリアルに追求され,明代伝奇の代表作とされる。
→関連項目戯文

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世界大百科事典(旧版)内の還魂記の言及

【戯文】より

…これに続く万暦年間(1573‐1619)は文化の爛熟期といわれるが,数多くの劇作家が輩出した。最も著名なのは江西臨川の湯顕祖で,《紫釵記》《還魂記》《南柯記》《邯鄲記》の作があり,中でも《還魂記》は文辞構成ともにすぐれ,かつ恋愛の自由な姿を謳歌したので,天下の子女の喝采を博した。 ところで,歌辞をうたうには土地によって流派を異にし,発祥の地名を冠して海塩腔・弋陽腔(よくようこう)・余姚腔などと称していたが,嘉靖年間に崑山の魏良輔がはじめた崑曲の調べが好評で,急速に各地に伝播した。…

【中国演劇】より

… 嘉靖年間(1522‐66)の初め,蘇州崑山地方の〈崑腔(崑曲)〉が魏良輔によって大改良されるや,その清柔優美なメロディは文人の好尚にすこぶるかない,従来の海塩腔,弋陽(よくよう)腔,余姚(よよう)腔等をおさえてはやり出し,これを用いて作られた梁辰魚の《浣紗記》により,決定的な流行をみるようになった。続く万暦年間(1573‐1619)にもっとも傑出した作家が湯顕祖で,彼の代表作《還魂記》は南戯の最高傑作とされ,典雅艶麗な文辞と巧みな構成とを得て,曲折波瀾にとんだ甘美な才子佳人劇の一極致を描いた。また同時期には音律にくわしい沈璟(しんえい)ほか多くの作者が輩出し,南戯の全盛期をむかえるにいたった。…

【湯顕祖】より

…詩文の上では,王世貞らが〈文は秦漢,詩は盛唐〉を最高の古典として称揚し,もっぱらこれらの模擬をとなえたのに対し,まっこうから反対して,六朝や宋の詩文をも尊重すべきことを主張し,清の銭謙益に大きな影響を与えた。劇作の上では《紫釵記》《還魂記》《南柯記》《邯鄲記》を書き,いずれも内容が夢と関係が深いので,その書斎の名を冠して《玉茗堂四夢》とよんでいる。とくに《還魂記》は夢と現実を交錯させる特異な構成の中で,青年男女の恋愛を生死をこえて成就させる筋で,天下の子女の喝采を博した。…

※「還魂記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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