田植歌(読み)たうえうた

精選版 日本国語大辞典 「田植歌」の意味・読み・例文・類語

たうえ‐うたたうゑ‥【田植歌】

  1. 〘 名詞 〙 田植をしながらうたう民謡青森茨城福島広島島根など全国的に存在する。田植。《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「田植うたへうたはば田うへ田植哥〈重方〉」(出典:俳諧・毛吹草(1638)六)

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改訂新版 世界大百科事典 「田植歌」の意味・わかりやすい解説

田植歌 (たうえうた)

田植の作業に歌われる労作歌。実際の田植のほか,田遊(たあそび)や御田植神事囃子田はやしだ),田植踊などで歌われる。かつて田植作業は単なる労働だけでなく,大事な神事儀礼的な民俗行事でもあったから,かならず歌を伴っていた。たとえばそれは現在も広島県や島根県の山間部で行われる〈囃子田〉にみることができる。囃子田では,田植のリーダーでもあり,田の神とも思われるサンバイと称する音頭取りを中心に,田植歌が歌われる。まず田の神を迎える朝のサンバイおろしの朝歌から始まり,昼の田の神への供食に歌う昼歌,夕方田植を終わって神送りをする晩歌まで,時刻により朝歌,昼歌,晩歌と決まった歌が歌われる。たとえば朝歌は,(音頭)〈エーうたいはじめはまずサンバイに参らしょう〉,(早乙女)〈ヤハーレヤレまずサンバイに参らしょう〉(中略),(音頭)〈イヤサンバイは,ヤーレ今こそおりゃる宮の方から〉,(早乙女)〈宮の方からヤーレ葦毛の駒に手綱よりかけ〉というように,音頭をとるサンバイと,田植をする早乙女唱和の形をとって歌われる。昼歌は〈京へ上るが連れはないかいの,われが元のさいたのも連れて上れかし〉,晩歌は〈今日の早乙女は名残惜しい早乙女,洗い川の葦(よし)の根で文(ふみ)を参らしょう,名残惜しやというては袖をひかれた〉というものである。

 このほか,全国各地に分布する田植歌には,田の神や田主(たあるじ)をほめる歌,また,田主をうらむ歌,腰をかがめての労働のつらさをうたった歌,早乙女をほめる歌など数多く伝承されている。しかし現在は田植技術の改良や機械化の進展に伴い,実際の田植に田植歌が歌われることは少ない。なお,〈囃子田〉や京都府亀岡の田植歌の中には,古風な中世歌謡の名残をみせるものがあり,《田植草紙》に残されている。
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百科事典マイペディア 「田植歌」の意味・わかりやすい解説

田植歌【たうえうた】

田植の作業時に歌われる労作歌。田の神褒め,田主(たあるじ)を賞したり恨んだりし,労働の辛さを嘆くなど多彩。儀式性・芸能性に富む。《田植草紙》は室町末期の成立で,中国地方の伝承歌謡を伝え,その系統の歌謡は,三河花祭歌謡,伊勢神楽歌と並んで三大農耕神事歌謡群と評されている。
→関連項目山家鳥虫歌

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世界大百科事典(旧版)内の田植歌の言及

【民俗芸能】より

…田の土ならしから稲の収穫にいたる稲作の模様を,歌としぐさ,踊りなどで表現し,このとおりの無事収穫をお願いすると祈るのである。また夏の田植どきになると,女たちが田に降り,田の神を迎えて美しい田植歌を神に聞かせながら稲よ実れと祈る。またこの季節には,天災や疫病の鎮圧を祈って,太鼓や鉦(かね)を打ち鳴らして道中をしたり,激しく踊ったりする。…

【労作歌】より

… 労作歌には一般に作業を進める刺激として歌うものと,作業の休養の際に歌うものと2種ある。たとえば田植歌や麦搗歌(むぎつきうた),木挽歌(こびきうた),地搗歌(じつきうた),茶摘歌(ちやつみうた),山歌等は前者に,牛追歌,長持歌,駕籠舁歌(かごかきうた)の類は後者に属する。労作歌の中には酒造歌,木挽歌,油絞り歌,漆搔歌(うるしかきうた)等のように,ある一定の期間だけ雇われる季節労働者が歌う〈季節労作歌〉があり,これは比較的共通する歌が多いが,中には〈酒造歌〉のように作業の工程に従って数種の歌があるものもある。…

※「田植歌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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