田植に,苗を本田に植える仕事をする女性をいう。ウエメ(植女),ソウトメ,ショトメなどともいう。本来は,田植に際して田の神を祭る特定の女性を指したものと考えられる。かつては田主(たあるじ)の家族の若い女性を家早乙女,内早乙女などと呼びこれにあてたらしい。相互扶助を目的としたゆい組の女性だけを早乙女と呼ぶ例もある。いずれも敬称として用いられている。田植に女性の労働が重んじられたこともあり,しだいに田植に参加する女性すべてを早乙女と呼ぶようになったと思われる。早乙女の服装は晴着の一つで,土地によっても異なるが普段着とは別に紺の単衣(ひとえ)に赤だすき,白手拭に新しい菅笠を着けるなどの例が一般的である。早乙女の服装は田の神を祭る一種の祭装束でもある。ゆいや田植組の機能が衰えるなど作業組織が変化してくると新たに日雇いや村外からの出稼ぎ労働に頼ることが余儀なくされる。田植の賃金は他の仕事と異なり男女とも同額とされ,自分の村の田植の前後に出稼ぎをする風習が生まれた。山梨県南都留郡には村の娘は早乙女にならず,毎年静岡県から入ってくるのを待ち,そのための早乙女宿もあった。瀬戸内海の島々からは,中国,四国の各地に出かけ,新潟県からは長野,山形県下へも雇われて出かけた。また山形県庄内地方から秋田県由利地方へ出かけるものは〈しょとめしょとめ〉と触れて歩いたという。
→田植
執筆者:大島 暁雄
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若い女、とくに田植働きの女をいう。植女(うえめ)と並ぶ古い用語で、ソウトメ、サツキ女、ハナムスメ、シヨトメなどともよぶ。田植(苗の移植)は稲作の要(かなめ)で、多数の働きで一挙に仕上げる必要があり、古くから女手が主力にもなっていた。また田植には田の神を迎えての予祝の祭りが古くは随伴したようで、花田植・大田植の行事や神田の田植神事にいまもその名残(なごり)をとどめる。早乙女はそこでも主役をつとめ、また田遊や田植踊の芸能でも同じ役割を演ずる。早乙女の「サ」はサオリ(田植初(はじ)め)、サナブリ(田植終(じま)い)、サナエ、サツキの「サ」と同じく「田の神」にかかわる語で、それに奉仕する「聖なる乙女」が早乙女の原義ともみられる。田植の際「田主(たあるじ)」の若い妻女をウチサオトメと称してヒルマモチ(田植の食事運び)の役をつとめたという伝承はとくに注目され、こうした奉仕役のヒルマモチ、オナリ(養い女)が早乙女の古い形で、やがて田植働きの女の呼び名にそれが広がったのであろう。少なくとも早乙女の「サ」は単なる接頭語ではない。田植女は紺絣(こんがすり)の着物、赤襷(あかだすき)、白手拭(しろてぬぐい)に菅笠(すげがさ)という晴れ姿で、田植唄(うた)もにぎやかに集団作業にあたり、ユイ、テツダイで仲間をつくり、家々の田植を順次済ませる形が以前は通例であった。一方、集団的な田植女の出稼ぎも古くからあって、旅早乙女(たびそうとめ)などとよばれ、田植時期の異なる地方の間に多く行われた。そしてその周旋にあたるソウトメ宿、ソウトメ廻(まわ)しなどの仲介業者も各地に生じていた。
[竹内利美]
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出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…シロは植田,ミテは完了の意味で,神事としての意識が薄れてからの呼称と思われる。田の水口や屋内の荒神(こうじん),竈神に残り苗を供えて祭り,とくに,早乙女(さおとめ)を上席にして宴を催す風習もある。この日は休み日で,かつては忌籠(いみごもり)の日であった。…
…まず田の神を迎える朝のサンバイおろしの朝歌から始まり,昼の田の神への供食に歌う昼歌,夕方田植を終わって神送りをする晩歌まで,時刻により朝歌,昼歌,晩歌と決まった歌が歌われる。たとえば朝歌は,(音頭)〈エーうたいはじめはまずサンバイに参らしょう〉,(早乙女)〈ヤハーレヤレまずサンバイに参らしょう〉(中略),(音頭)〈イヤサンバイは,ヤーレ今こそおりゃる宮の方から〉,(早乙女)〈宮の方からヤーレ葦毛の駒に手綱よりかけ〉というように,音頭をとるサンバイと,田植をする早乙女の唱和の形をとって歌われる。昼歌は〈京へ上るが連れはないかいの,われが元のさいたのも連れて上れかし〉,晩歌は〈今日の早乙女は名残惜しい早乙女,洗い川の葦(よし)の根で文(ふみ)を参らしょう,名残惜しやというては袖をひかれた〉というものである。…
…男児の節供のごとくいわれるこの日の夜を,女の天下,女の家,女の夜,女の屋根などといって女性がいばる日とすることが,かつては全国に分布していた。これらの伝承は,後に控えた田植のときに早乙女としての重い役割を担う女性が,特定の家に忌みこもって精進の生活をし,田の神を迎えようとしたなごりではないかとされている。 武家時代の印地打は,近代になっても各地で行われていた。…
…東北に分布する田植踊は歌と群舞で表現するもので,前者は中世ごろから寺院の初春行事であるオコナイと習合しながら普及し,後者は農家の小正月行事として近世に広く行われた。田植どきの芸能で著名なのは中国山地付近に残る囃子田(はやしだ)で,おおぜいの早乙女が田の神役のサンバイと,恋歌を掛け合いながら苗を植える。畦には太鼓,笛,ささら(簓)などの囃子方がいて伴奏役を勤めるが,この風俗は古く平安中期の《栄華物語》などにも見えて,当時すでに鑑賞芸能として貴族たちにもてはやされていたようである。…
※「早乙女」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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