甲状腺腫瘍(読み)こうじょうせんしゅよう(その他表記)Thyroid tumor

六訂版 家庭医学大全科 「甲状腺腫瘍」の解説

甲状腺腫瘍
こうじょうせんしゅよう
Thyroid tumor
(内分泌系とビタミンの病気)

どんな病気か

 甲状腺腫瘍には良性腫瘍とがんがあります。良性腫瘍のほとんどは濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)です。甲状腺がんには乳頭(にゅうとう)がん、濾胞がん、未分化がん、髄様(ずいよう)がんがあり、そのほか悪性リンパ腫甲状腺にできることがあります。

 甲状腺腫瘍は、甲状腺の細胞が自律的に増殖してできるものですが、外部から甲状腺が刺激されると過形成を起こして、やはり甲状腺がはれます。しかし、これは腫瘍ではないので、腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)として区別しています。

 乳頭がんは甲状腺がんのなかで最も多いがんです。非常にゆっくりと増殖するがんで、頸部(けいぶ)リンパ節転移しやすいという性質があるにもかかわらず、命に関わることの少ない予後のよいがんです。リンパ節への転移から乳頭がんに気づくこともあります。

 濾胞がんも予後は比較的よいがんですが、これは血流に乗って肺や骨に転移しやすいという性質をもっています。良性の濾胞腺腫との区別が難しいのが問題です。

 一方、未分化がんの予後は非常に悪く、1~1.5年で95%は死亡しますが、甲状腺がんのなかではまれながんです。

 髄様がんは傍濾胞細胞(ぼうろほうさいぼう)(C細胞)から発生するがんで、カルシトニンというホルモンを分泌します。同一家系内の多くの人が髄様がんになることがあり、その場合はRETという遺伝子に異常のあることがわかっています。

 悪性リンパ腫は、甲状腺のなかに入っているリンパ球から発生する腫瘍で、放射線や化学療法(抗がん薬療法)によく反応するので、比較的予後のよい腫瘍です。

原因は何か

 甲状腺髄様がんの一部を除いて、原因はまだわかっていません。

症状の現れ方

 予後のよい乳頭がんや濾胞がんでは甲状腺のはれ以外には自覚症状がなく、健康診断やかぜなどで医師にかかった時に偶然に指摘されることがほとんどです。また最近は、頸動脈超音波検査やPET検診の普及によって、偶然甲状腺内に腫瘍が発見されるケースが増えており、この場合は、まったく気がついていなかったということもよくあります。

 一方、悪性度の高い未分化がんでは、甲状腺のはれが急速に大きくなり、痛みや発熱が起こります。さらに進行すると、周囲を圧迫して物が飲み込みにくくなったり、呼吸困難が起こったりします。

検査と診断

 甲状腺がんは、しこり気管癒着(ゆちゃく)していて動きが悪いので、甲状腺疾患の専門家なら触るだけでわかることもあります。一般には、超音波断層検査と腫瘍の細胞を注射器で取って調べる穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)という検査で診断されます。

 甲状腺のCTMRI、核医学検査は、さらに腫瘍の性質や転移の有無を知りたい時に行われます。また、家族性甲状腺髄様がんでは血液の腫瘍マーカーを測定したり、がん遺伝子を調べたりすることで、がんが外から触れるようになる前に保因者を発見することができます。

治療の方法

 甲状腺腫瘍を薬で治す方法はありません。甲状腺ホルモンを服用して甲状腺刺激ホルモン(TSH)を抑えておくと腫瘍が小さくなるという考えもありましたが、甲状腺ホルモンが過剰になるために骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が起こるなどの副作用もあり、症例を選んで行われています。

 良性で、とくに甲状腺腫が気にならなければ、そのまま放置しておいてもかまいませんが、時に大きくなったり、濾胞腺腫だと思っていたら濾胞がんであったということもあるので、年に1回は検査を受けてください。

 乳頭がん、濾胞がんの治療は手術が基本で、日本では甲状腺がんのある側の甲状腺と周囲のリンパ節を取り除く手術が行われます。通常は化学療法や放射線療法は行いませんが、肺や骨に転移がある時は甲状腺を全部取り、大量の放射性ヨードを投与すると、がん細胞を破壊することができます。

 未分化がんでは手術や放射線治療、抗がん薬などを組み合わせた集学的治療が行われますが、まだ確実な治療法はありません。

病気に気づいたらどうする

 首のはれが甲状腺に関係するかどうかは一般の医師でもわかるので、まずかかりつけ医に診てもらって、甲状腺腫瘍とわかったら、甲状腺を専門にする外科医の診察を受けてください。

阿部 好文

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「甲状腺腫瘍」の意味・わかりやすい解説

甲状腺腫瘍
こうじょうせんしゅよう

甲状腺の腫瘍には、腺腫と癌(がん)と悪性リンパ腫がある。腺腫(甲状腺腫)は、甲状腺にある「こぶ」として偶然の機会にみつけられることが多い。よく調べると、女性では4%くらいにみられるという。発育は緩慢で、治療はとくに大きいか、硬いものに限り、ほかは放置して経過をみればよい。ただ実際には癌との鑑別が困難な場合が少なくない。癌(甲状腺癌)には分化癌と未分化癌があるが、大部分(95%以上)は分化癌である。分化癌は比較的若い人に発症するが、初期には甲状腺に硬いこぶが触れるだけで、ほかには症状がない。のちには頸部(けいぶ)リンパ腺をはじめ、肺、骨、脳などに転移する。悪性度は低く、早期に手術すれば再発することはまれである。また、頸部のリンパ腺や肺に転移しても、その状態で20年以上生存することが珍しくない。一方、未分化癌は通常50歳以上で発症するが、悪性度が高く、どんどん進行して発熱や頸部の圧迫症状を呈する。治療には放射線照射か抗癌剤療法を行う。悪性リンパ腫にも放射線療法が有効である。

[鎮目和夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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