悪性リンパ腫(読み)アクセイリンパシュ(その他表記)Malignant Lymphoma

精選版 日本国語大辞典 「悪性リンパ腫」の意味・読み・例文・類語

あくせい‐リンパしゅ【悪性リンパ腫】

  1. 〘 名詞 〙 リンパ組織を構成する細胞による悪性腫瘍の総称。頸部、縦隔、後腹膜などのリンパ節に初発することが多いが、やがて全身の組織に病変が波及する。組織学的に、リンパ肉腫、細胞肉腫、ホジキン病、濾胞(ろほう)リンパ腫とに分ける。

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家庭医学館 「悪性リンパ腫」の解説

あくせいりんぱしゅ【悪性リンパ腫 Malignant Lymphoma】

[どんな病気か]
 リンパ組織は、感染などからからだを守る、重要なはたらきをしています。
 悪性リンパ腫は、このリンパ組織を構成するリンパ節、脾臓(ひぞう)、扁桃(へんとう)などの細胞が悪性化して、無制限に増殖する病気で、白血病とならぶ代表的な血液のがんです。
●種類
 大きく分けると、ホジキン病と非ホジキンリンパ腫の2つですが、悪性化した細胞の種類によって、さらに細かく分類されます。また、種類によって、病気の経過や治療に対する反応のしかたなどがちがってきます。
 ホジキン病は、リンパ球優位型、結節硬化型(けっせつこうかがた)、混合細胞型、リンパ球減少型の4つに分類されます。
 非ホジキンリンパ腫には、濾胞性(ろほうせい)リンパ腫(しゅ)とびまん性リンパ腫に大別する分類や、予後を考慮した国際分類などの分け方があります。
 原因はまだわかっていませんが、一部のものは、ウイルスの感染が原因と考えられています。また、免疫不全(めんえきふぜん)や遺伝子の異常も深くかかわっているとみられています。
 レトロウイルスの1つであるHTLV‐Ⅰ が原因となって、リンパ球のT細胞に異常をおこすものは、成人(せいじん)T細胞白血病(さいぼうはっけつびょう)のリンパ腫(しゅ)型(「成人T細胞白血病」の④リンパ腫型)として扱われています。
●頻度
 日本でのリンパ系悪性腫瘍(あくせいしゅよう)による死亡率は、人口10万人に対し男性は4人、女性は2人程度です。
 ホジキン病の発症は、20~30歳代の若い人と高齢者に多くみられます。非ホジキンリンパ腫は、50~60歳に多い傾向があります。
 また、日本ではホジキン病は少なく、非ホジキンリンパ腫が多くなっていますが、なかでも悪性度の高いT細胞性のリンパ腫の頻度が高くなっています。
[症状]
 からだの表面近くのリンパ節が腫(は)れてきて、いわゆるぐりぐりができますが、押しても痛くなく、周囲に傷口や化膿(かのう)も見あたりません。
 ぐりぐりの発生しやすい部位は、くび、わきの下、足のつけ根などです。
 押しても痛くないぐりぐりに気づいたときは、血液専門の医師の診察を受けるべきです。
 病気が進行すると、何か所ものリンパ節が腫れてきて、発熱、体重減少、寝汗(ねあせ)なども現われてきます。
 また、からだの奥の、外からは触れることのできないリンパ節が腫れたり、扁桃や脾臓が腫れてくることもあります(図「リンパ腫が発生する部位」)。
[検査と診断]
 腫れたリンパ節の組織の一部を採取し、顕微鏡で見て細胞の種類を調べるリンパ節生検(せつせいけん)を行なわないと、確実な診断はくだせません。
 1回のリンパ節生検では診断をくだすことができず、経過をみながらくり返しリンパ節生検を行なって、初めて診断がつくこともあります。
 血液の専門医がこの検査を行なって初めて診断が可能になるのですが、ときには専門医でも診断が困難なこともあります。
 リンパ節生検で診断が確定したら、血液・骨髄検査(こつずいけんさ)、各種のX線検査、CTスキャン、MRIなどを行なって、病気の広がりを調べます。これらの検査結果は、治療の方法を選ぶのにたいせつな指標となります。
 病気の初期は、血液検査で特徴的な異常はみられませんが、病気が進行していろいろな臓器に広がってくると、病巣ができている臓器に応じて肝障害、貧血などの異常が現われてきます。
[治療]
 ある部位に病気が限局していて、進行していない場合は、放射線療法を主体にして治療します。病気が全体に広がっている場合は、いろいろな抗腫瘍剤(こうしゅようざい)を組み合わせて使用する多剤併用化学療法(たざいへいようかがくりょうほう)を主体にして治療するのが原則です。
 また、場合によって、骨髄移植(こつずいいしょく)(「骨髄移植の知識」)が行なわれることもあります。
 悪性リンパ腫が、胃や腸などの臓器に発生した場合には、手術をして切除するのがふつうです。
●予後
 ホジキン病は、多剤併用化学療法によって、10年生存率は約70%に達し、初期の段階で診断できた場合は、治る可能性もあると考えられています。
 非ホジキンリンパ腫は、ホジキン病に比べると予後が悪いのですが、型によっては、生存期間が5~7年と長い場合もあります。

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内科学 第10版 「悪性リンパ腫」の解説

悪性リンパ腫(血液疾患に伴う神経系障害)

(4)悪性リンパ腫(malignant lymphoma)
 悪性リンパ腫による神経障害は,リンパ腫そのものによる浸潤・圧迫,血管内増殖による虚血,遠隔効果による障害,惹起される免疫不全に伴う神経感染症のほかに,治療に関連する障害も少なくない.リンパ腫そのものによる神経障害には,中枢神経系では中枢神経原発リンパ腫,血管内リンパ腫症,末梢神経系では神経リンパ腫症などがある.
a.中枢神経原発リンパ腫(primary CNS lymphoma)
 非Hodgkinリンパ腫が中枢神経系から発生し留まっているもので,頭蓋内だけでなく脊髄,眼にも起こる.高齢者に多いが,AIDSなどの免疫不全状態の若年者にもみられる.中枢神経原発リンパ腫は発育が速く,症状が急性に進行することが多い.神経症状は脳腫瘍に類似し,頭痛のほか腫瘍の局在による局所神経徴候や痙攣発作などもみられる.前頭葉が障害されることが多いため,高次脳機能障害も出現しやすく,また髄膜への浸潤もしばしばみられる.診断は造影CT,MRIでなされ,腫瘍が均一に造影されることが多い.1/4は多発性であり,周囲に浮腫を伴わないことが多い.最終的な診断は生検による組織診断であるが,術前のステロイドの使用は避けるべきである.治療は化学療法と放射線療法の併用である.
b.血管内リンパ腫(intravascular lymphoma)
 血管内リンパ腫は,おもに血管内で腫瘍細胞が増殖し,神経症状を含め多彩な症状を示す疾患である.神経症状は全経過中85%にみられ,最も頻度が高いのは多発性脳梗塞を主体とする脳血管障害であり,脊髄・神経根障害,亜急性脳症,脳神経障害,眼科的障害,単神経障害・多発単神経障害などが続く.腫瘍細胞の大部分が大型B細胞リンパ球である.検査では血清LDH上昇,sIL-2受容体上昇,頭部MRI異常,髄液蛋白の上昇などがみられるが,最終的診断は小血管の血管腔内に充満する腫瘍細胞を生検で組織学的に確認することであり,最近は皮下組織まで至るランダム皮膚生検が有用とされている.しばしば診断が困難であり,かつ致死的経過をとるため,神経症状,検査所見より本症が疑われた場合,繰り返し検査を実施する必要がある.治療はCHOP療法とリツキシマブ併用療法が有効である.[有村公良]
■文献
水谷智彦:血管内リンパ腫による神経障害.神経研究の進歩,63: 443-450, 2011.

悪性リンパ腫(血液疾患と腎障害)

(2)悪性リンパ腫
 腫瘍細胞の浸潤が直接腎障害を引き起こす.90%は血行性に浸潤する.一方,傍腹部大動脈周囲のリンパ組織に浸潤して尿路系を圧迫し水腎症や腎後性急性腎不全を呈することもある.腎不全を初発症状とした腎原発のリンパ腫の報告もある.悪性リンパ腫に由来するさまざまな免疫異常が糸球体の上皮細胞障害や透過性亢進に関与して糸球体病変を惹起することがある.Hodgkinリンパ腫では,微小変化型ネフローゼ症候群の合併が知られている.Hodgkinリンパ腫と比較し,非Hodgkinリンパ腫に合併する糸球体病変の頻度は少ないが,微小変化型ネフローゼ症候群のほか,膜性腎症,膜性増殖性糸球体腎炎,クリオグロブリン腎症などが報告されている.[前嶋明人・野島美久]

悪性リンパ腫(血液疾患)

(3)悪性リンパ腫
 消化管悪性リンパ腫は節外性リンパ腫の約30%を占め,そのうち60〜80%は胃原発で,20~30%が小腸・大腸で,食道は1%以下ときわめてまれである.消化管リンパ腫ではmucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫とdiffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)が最もよくみられる.胃原発ではMALTリンパ腫が多くそのほとんどがHelicobacter pylori感染が関与しており,除菌治療が有効なものがある.腸管原発ではDLBCLの頻度が多く治療は外科手術と化学療法になる.[安藤貴文・後藤秀実]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「悪性リンパ腫」の意味・わかりやすい解説

悪性リンパ腫
あくせいりんぱしゅ

リンパ組織に発生した進行性悪性の腫瘍(しゅよう)で、癌(がん)と同じ性質をもっている。原因は不明の点が多いが、なかにはウイルスが原因と確定されつつあるものもある(バーキットリンパ腫)。発生部位は、リンパ球がつくられるところならどこにでもできるが、もっとも多いところは、頸(けい)部、わきの下、鼠径(そけい)部のリンパ節であり、進行すると全身のリンパ節からさらに骨髄内にも拡大し、血液中にも多数の病的リンパ球が出現する。白血性悪性リンパ腫といわれ、リンパ性白血病と同じ症状を示すことが多い。顕微鏡所見からホジキン病と非ホジキンリンパ腫に大別され、さらに非ホジキンリンパ腫はリンパ肉腫、細網肉腫、濾胞(ろほう)性リンパ腫およびバーキットリンパ腫に細別される。また最近になって、増加しているリンパ球の形からの分類が行われている。病巣の広がり方からI期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期に分けられるが、I、Ⅱ期では、はれたリンパ節が横隔膜のいずれか一方にあり、Ⅲ、Ⅳ期になると両側に広がり、Ⅳ期では全身的にびまん性に広がる。外科手術、放射線照射、抗癌剤(エンドキサン、ビンクリスチン、アドリアマイシン、ブレオマイシンなど)、副腎(ふくじん)皮質ホルモンがそれぞれの病期にあわせて用いられるが、Ⅲ、Ⅳ期は予後が悪くなり、I、Ⅱ期では完全に治る例もある。

 また、免疫をその役目としているリンパ組織が侵されるために、細菌感染とかウイルス感染に対する抵抗力が低下して、感染症にかかりやすくなったり、自己免疫性疾患が合併しやすくなる。最近は、免疫力を強くするためにBCG、CWSその他の免疫賦活剤が併用されて効果を高めている。

[伊藤健次郎]

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百科事典マイペディア 「悪性リンパ腫」の意味・わかりやすい解説

悪性リンパ腫【あくせいリンパしゅ】

リンパ節,脾臓,扁桃などリンパ組織の細胞が悪性化して,増殖する進行性の病気で,と同じ性質をもつ。病因としてウイルスや微生物があげられるが不明の点が多い。ホジキン病と非ホジキン病に大別される。放置すると全身のリンパ組織に広がり,免疫力の低下を伴うことが多く,血液中に腫瘍細胞が出現することもあり(白血病),胃や腸,肝臓などの臓器に転移する。治療は放射線照射や抗癌薬投与など。
→関連項目塩酸イリノテカン骨髄移植小児癌造血幹細胞移植日和見感染症

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改訂新版 世界大百科事典 「悪性リンパ腫」の意味・わかりやすい解説

悪性リンパ腫 (あくせいリンパしゅ)
malignant lymphoma

リンパ節や脾臓等のリンパ組織を構成するリンパ網内系細胞の腫瘍性変化によって,これら組織の腫張を起こす疾患。病因として種々の微生物やウイルスの感染があげられるが,その多くは確かでない。リード=スターンバーグ細胞Reed-Sternberg cellと呼ばれる巨細胞の存在を特徴とし若年層に多いホジキン病と,非ホジキン病に大別される。さらに,増殖形態(濾胞性か瀰漫(びまん)性か),増殖細胞の性状あるいは予後などによって,種々の病型に分類される。他のリンパ節腫張をきたす疾患との鑑別や病型診断は腫瘍の一部を切り出して確定する。放置すると全身のリンパ組織に広がり,腫瘤による圧迫症状や他臓器への浸潤をおこし患者は死亡する。種々の免疫学的異常を伴うことが多く,また体内を流れる血液中に腫瘍細胞が出現(白血病化)することもある。治療として放射線照射や種々の抗癌剤の投与が行われるが,ホジキン病の一部を除いて予後は悪い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「悪性リンパ腫」の意味・わかりやすい解説

悪性リンパ腫
あくせいリンパしゅ
malignant lymphoma

リンパ節の腫脹をおもな症状とする腫瘍性疾患の総称。リンパ球 (免疫に関係する白血球) にTとBの2種類あることが発見されるなど,免疫細胞学の発達に伴って,悪性リンパ腫の分類の再検討が行われ,現在では,顕微鏡による組織像によって,(1) ホジキンリンパ腫,(2) 非ホジキンリンパ腫の2つに分類される。日本では (2) が全体の 80%近くを占めている。 (2) はさらにBリンパ腫とTリンパ腫に分類される。このTリンパ腫細胞の中にウイルス粒子が発見され,これが原因の一つと考えられるようになった。男性に多い病気で,リンパ節腫脹のほか,発熱,倦怠感,食欲不振などの全身症状を伴い,皮膚の発疹が出ることもある。悪性リンパ腫が全身に広がると,10年ぐらい前までは生存期間は1年未満であったが,最近は放射線治療と化学療法の発達に伴い3~4倍に延び,治癒する症例もふえている。

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世界大百科事典(旧版)内の悪性リンパ腫の言及

【血液】より

…どの系統の血球が腫瘍になったかにより,顆粒球性,リンパ球性,単球性に分け,また白血病の細胞が成熟する傾向を示さず,急激な経過をとる急性白血病と,成熟傾向があり,ゆっくりした経過をたどる慢性白血病に分類される。リンパ節でリンパ球が腫瘍化したものは悪性リンパ腫といい,特徴ある大型の細胞が出現するホジキン病と,そうでない非ホジキンリンパ腫に大別される。白血病と悪性リンパ腫は代表的な血液の癌である。…

※「悪性リンパ腫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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