精選版 日本国語大辞典 「痛・甚」の意味・読み・例文・類語
いた・い【痛・甚】
〘形口〙 いた・し 〘形ク〙
[一]
※万葉(8C後)五・八九七「いとのきて 痛伎(いたキ)傷には 鹹塩(からしほ)を そそくちふがごとく」
② 精神的に苦痛である。また、困ることをされて閉口する。とりかえしがつかないほどひどい。つらい。情けない。
※万葉(8C後)二〇・四三〇七「秋といへば心そ伊多伎(イタキ)うたてけに花になそへて見まくほりかも」
※蜻蛉(974頃)上「いと胸いたきわざかな。世に道しもこそはあれ」
④ すぐれたさま。気に入ったさま。ほめてよい。すばらしい。
※源氏(1001‐14頃)若紫「新発意(しぼち)の娘かしづきたる家、いといたしかし」
[語誌](1)「痛む」と同根の、程度のはなはだしさを意味するイタから派生した形容詞で、上代では肉体的・精神的な苦痛をいうのに用いられた。
(2)連用形「いたく」は、上代では胸中に苦痛を伴う哀切感を表わす。それが平安時代になると、苦痛を伴わない精神的な驚愕や感動をも表わすようになっていった。また、単に程度が甚だしい意でも用いられるようになって、程度を表わす副詞「いたく」が誕生した。→「いたく(痛)」の語誌。
(2)連用形「いたく」は、上代では胸中に苦痛を伴う哀切感を表わす。それが平安時代になると、苦痛を伴わない精神的な驚愕や感動をも表わすようになっていった。また、単に程度が甚だしい意でも用いられるようになって、程度を表わす副詞「いたく」が誕生した。→「いたく(痛)」の語誌。
いた‐が・る
〘自ラ五(四)〙
いた‐げ
〘形動〙
いた‐さ
〘名〙
いた‐み
〘名〙
いた【痛・甚】
(形容詞「いたい」の語幹)
※万葉(8C後)一五・三七八五「ほととぎす間しまし置け汝が鳴けば吾が思(も)ふこころ伊多(イタ)もすべなし」
② 世話のやける相手を見下げあざける感情を表わす。ひどいこと。やっかいなこと。
※宇治拾遺(1221頃)三「あな、いたのやつばらや。まだしらぬか」
③ 肉体的または精神的に苦痛なさま。いたいこと。
※たまきはる(1219)「あないたとよ、これもててはかなしがりてか」
いとう いたう【痛・甚】
〘副〙 (形容詞「いたし」の連用形「いたく」の変化した語)
① 程度のはなはだしいさまを表わす語。ひどく。たいそう。
※伊勢物語(10C前)五「とよめりければ、いといたう心やみけり」
※徒然草(1331頃)一九「晦日(つごもり)の夜、いたう闇きに、松どもともして」
② 精神的、肉体的に苦痛を感ずるさまを表わす語。つらく。つらい思いで。
※今昔(1120頃か)二九「然(さ)るは痛う云たる奴なれば」
[語誌](1)②は「いたう」と音便化していても、形容詞「いたし」の連用形であり、なお副詞化は十分でない。それに対して、①は十分に副詞化していて、「いと」とほとんど同義である。
(2)「いと」が主として形容詞を修飾するのに対して、「いたう」は主として動詞を修飾する傾向が強い。なお、韻文では「いたう」を使わず、音便化する前の「いたく」の形を使う傾向が顕著である。
(2)「いと」が主として形容詞を修飾するのに対して、「いたう」は主として動詞を修飾する傾向が強い。なお、韻文では「いたう」を使わず、音便化する前の「いたく」の形を使う傾向が顕著である。
いたく【痛・甚】
〘副〙 (形容詞「いたい」の連用形から) 程度のはなはだしいさま。ひどく。はなはだしく。ずいぶん。→いとう。
※古事記(712)上「豊葦原之千秋長五百秋之水穂国は、伊多久(イタク)さやぎてありなり」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「大弐の乳母の、いたく煩ひて尼になりにける」
[語誌](1)「いたし」は極度である意も表わすが、上代では肉体的・精神的苦痛を表わす例がめだつ。中古に入ると程度のはなはだしさを示す用法は連用形「いたく」にかたよるようになり、これが上代の「いた」の副詞的用法にも通じる副詞となった。
(2)音便化して「いたう」となるが、韻文では後まで「いたく」の形が好んで使われ、特に「いたくな…そ」の禁止表現は、一つの定まった表現のように用いられた。
(3)「いたく」は動作・作用の程度のはなはだしさを表わす語としてもっぱら動詞の修飾に用いられ、形容詞についてその状態のはなはだしさをいう場合は「いと」が使用された。
(2)音便化して「いたう」となるが、韻文では後まで「いたく」の形が好んで使われ、特に「いたくな…そ」の禁止表現は、一つの定まった表現のように用いられた。
(3)「いたく」は動作・作用の程度のはなはだしさを表わす語としてもっぱら動詞の修飾に用いられ、形容詞についてその状態のはなはだしさをいう場合は「いと」が使用された。
いた・し【痛・甚】
〘形ク〙 ⇒いたい(痛・甚)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報