直腸肛門奇形(鎖肛)

内科学 第10版 「直腸肛門奇形(鎖肛)」の解説

直腸肛門奇形(鎖肛)(先天性腸疾患)

(3)直腸肛門奇形(鎖肛)(imperforate anus)
概念
 直腸,肛門部の形態,位置の異常と泌尿生殖器系との間の瘻孔などを合併する先天奇形で,約5000出生に対して1例の発生があり,男女比は約3:2で男児が多い.
病型
・診断
 直腸盲端の高さから直腸肛門奇形は高位,中間位および低位型に分類される.それぞれ盲端が恥骨直腸筋の上にあるもの,恥骨直腸筋の高さにあるものおよびそれよりも盲端が低いもので分類される.盲端の位置を描出するために倒立位撮影(invertogram;Wangensteen-Rice法)が行われ,恥骨中央と仙骨下端を結ぶP-C線,これに平行し座骨下端を通るI線,さらにその中間に引いたm線を指標として恥骨直腸筋のレベルの座標とする.また,注腸造影と尿路造影を同時に行って,隣接臓器との間の瘻孔とその位置の診断を行う.外観の観察も鎖肛の病型診断にとっては重要で,特に瘻孔を有する低位型の診断には有用である(図8-5-7).病型分類としてはWingspread分類が広く用いられている(表8-5-1).手術アプローチの観点から,同時にCT,MRIによる外肛門括約筋,恥骨直腸筋の分布と位置や筋電図による外肛門括約筋の位置と分布の確認も行われている.
病因
 ヒトにおいては一部の病型を除き明らかな遺伝子異常は報告されていない.そのうち総排泄腔異常ではGli2,Gli3の異常が報告されており,またCurrarino症候群では仙骨奇形とともにHLXB9の異常が報告されている.
治療
1)低位鎖肛:
低位型は基本的に会陰アプローチによる治療が選択されるため,手術時期は新生児期あるいは比較的早期に根治手術が選択される.
 低位型で最も多い病型であるanocutaneous fistulaでは,瘻孔から外括約筋正中にいたる皮膚を切開するcut back法と,瘻孔を切除してその部分の皮膚を縫合閉鎖し,直腸をanal siteに新たに縫合する肛門移行術の2つの術式のいずれかが選択される.cut back法は新生児期に直ちに行われるが,肛門移行術は待機的に数カ月後に行われる.
2)中間位鎖肛:
新生児期にはまず人工肛門造設し,二期的に根治手術が行われる.アプローチとして会陰,仙骨会陰,腹仙骨会陰および腹腔鏡下アプローチが行われている.根治手術の際に人工肛門部をプルスルーする方法と,直腸盲端を利用する術式がある.根治手術後に同時に人工肛門を閉じずに三期手術が選択される場合もある.
3)高位鎖肛:
基本的には中間位と同様新生児期に人工肛門が造設され,二期的に根治手術が行われる.
 この病型に対する基本術式は現在以下の2つのアプローチが採用されている.1つはmuscle complexを正中で切開し直腸後壁に到達するPenaらのposterior sagittal anorectoplastyであり,もう1つは筋群切開を行わない(腹)仙骨会陰式プルスルー手術である.最近では腹腔鏡下根治手術が行われるようになっているが,中間位鎖肛では術後遺残瘻孔の問題が報告されている.
 cloacal malformation(直腸総排泄腔瘻)は直腸と膣が総排泄腔に開口する女児の鎖肛のなかでも最も重症型である.会陰にはこの瘻孔が1つしかみられない病型であり,症例による形態の違いが大きく,個別的な治療計画が必要である.固有尿道の長さが術後排尿機能にとっての予後決定因子である.直腸,膣,尿道をそれぞれ会陰に造設することが必要となるが,総排泄腔全体を剥離して一塊として会陰まで引き下ろすtotal urogenital mobilizationも行われている.
■文献
Filston HC, Kirks DR: Malrotation-the ubiquitous anomaly. J Pediatr Surg, 4(Suppl 1): 614-620, 1981.
Hendren WH: Cloacal malformations; experience with 105 cases. J Pediatr Surg, 27: 890-901, 1992.
Pena A: Total urogenital mobilization; an easier way to repair cloacas. J Pediatr Surg, 32: 263-268.
Pena A, de Vries PA: Posterior sagittal anorectoplasty; Important technical consideration and new applications. J Pediatr Surg, 17: 796-811, 1982.[森川康英]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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