真菌性髄膜炎(読み)しんきんせいずいまくえん(その他表記)Fungal meningitis

六訂版 家庭医学大全科 「真菌性髄膜炎」の解説

真菌性髄膜炎
しんきんせいずいまくえん
Fungal meningitis
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 亜急性(あきゅうせい)髄膜炎として発症するのが特徴です。エイズ副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬の長期大量投与は本症の誘発因子であり、その発生頻度は増えています。

原因は何か

 病原菌にはクリプトコッカス、カンジダ、ムコール、アスペルギルスなどがあげられますが、クリプトコッカス髄膜炎の頻度が最も高いとされています。クリプトコッカスは、鳥類の排泄物、とくにハトの糞で増殖することが知られています。多くの場合、肺で初感染巣がつくられ、血液により運ばれ(血行性)、髄膜腔(ずいまくくう)に広がります。30~50%の頻度で、白血病ホジキン病糖尿病膠原病(こうげんびょう)エイズなどの基礎疾患がみられます。

症状の現れ方

 クリプトコッカス髄膜炎は亜急性、慢性髄膜炎として起こることが知られています。脳実質内に肉芽腫(にくげしゅ)を形成する場合は、髄膜刺激症状とともに片麻痺(かたまひ)やパーキンソン症状などの脳局在症状も示し、髄膜脳炎としてみられます。

検査と診断

 髄液圧が上昇し、細胞数増加、蛋白増加、糖の減少(20~35㎎/㎗)など結核性髄膜炎に類似した所見を示します。頭部CT、MRIでは、時に水頭症の所見や肉芽腫を反映した低吸収域・異常信号病変がみられます。

 髄液中の菌の検出が重要で、クリプトコッカス莢膜(きょうまく)の証明には墨汁染色による検出が最適とされています。同時に、培養を繰り返し行う必要があります。抗原抗体を検出するラテックス凝集反応も実用化しています。

治療の方法

 アムホテリシンBの点滴静注が有効で、5~10㎎/日から始め、0.5~1㎎/㎏/日まで徐々に増やしてゆきます。5­フルシトシン8g/日(経口)との併用も行われます。また、フルコナゾール(200~400㎎/日)の点滴静注(経口も可能)は副作用も少なく、第二選択薬として用いられます。アムホテリシンBの副作用には局所の静脈炎、全身反応(発熱嘔吐悪心(おしん)など)、経過中の貧血、腎障害などがあります。

病気に気づいたらどうする

 亜急性の発症で、発熱、頭痛、嘔吐などがみられた場合は、神経内科、内科、小児科の医師に相談してください。

庄司 紘史


真菌性髄膜炎
しんきんせいずいまくえん
Fungal meningitis
(感染症)

どんな感染症か

 主に、クリプトコックス・ネオフォルマンスという真菌が感染して起こります。この菌は、土壌や鳥類の排泄物のなかに棲息(せいそく)しています。

 ちりやほこりとともに空気中に浮遊した菌を吸い込むと、ヒトの肺に感染することがあります。健康な人は、肺に感染しても無症状のままで発症することはありません(不顕性(ふけんせい)感染)が、生体の感染防御能に障害のある人は、肺から血液を通して髄膜に侵入し、クリプトコックス髄膜炎を発症しやすくなります。

 このような感染の様式日和見(ひよりみ)真菌感染と呼びます。エイズに感染した人をはじめ、ステロイド療法や臓器移植を受けた人、あるいは白血病、サルコイドーシス、悪性腫瘍など基礎疾患をもっている人はリスクの高いグループに入ります。

 そのほかの真菌による髄膜炎はまれですが、コクシジオイデスという真菌が原因で起こることもあります。この菌による感染は、北米アリゾナの砂漠地帯など特定の地域に限られますが、健康な人でも肺に感染し、髄膜炎を発症する可能性があり、実際に渡航者が発症したというケースもあります。

症状の現れ方

 真菌性髄膜炎になると、細菌やウイルスによる髄膜炎と同様に頭痛、吐き気・嘔吐、項部(こうぶ)(うなじ)硬直などの髄膜刺激症状と発熱、全身倦怠感(けんたいかん)などの症状が現れます。抗細菌薬を使用しても熱が下がらず、症状が続く場合に真菌性髄膜炎が疑われます。

 真菌が肺にも合併して感染している場合には、(せき)喀痰(かくたん)、呼吸困難などの呼吸器症状を伴うことがあります。その他、胸部X線の画像診断で、胸膜直下の結節影もしくは、空洞を伴う陰影所見によって見いだされる例があります。

治療の方法

 抗真菌薬のアムホテリシンB、フルシトシン、ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾールが用いられます。アムホテリシンBの単独投与またはフルシトシンとの併用、あるいはフルコナゾールの使用が一般的です。クリプトコックスが原因の髄膜炎には、ミカファンギンは有効ではありません。

病気に気づいたらどうする

 特別な予防法はありませんが、特有の髄膜刺激症状に気がついたら、すみやかに専門医で精密検査をしてもらいましょう。前述したように、基礎疾患をもつリスクの高い人は、持続的に様子をみながら真菌症の早期診断に努めることが大切です。

新見 昌一

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「真菌性髄膜炎」の解説

しんきんせいずいまくえん【真菌性髄膜炎 Mycotic Meningitis】

[どんな病気か]
 がん、白血病(はっけつびょう)、エイズ、悪性リンパ腫(しゅ)、重症糖尿病(じゅうしょうとうにょうびょう)、臓器移植後などで免疫機能(めんえききのう)が低下している人に、クリプトコッカス、カンジダ、アスペルギルスなどの真菌(かび)が感染しておこる髄膜炎です。まれに健康な人にもおこることがあります。クリプトコッカスによる髄膜炎が全体の80%を占めます。
[治療]
 抗真菌薬で治療しますが、基礎疾患(髄膜炎をおこす原因となった病気)によって予後が左右されます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内の真菌性髄膜炎の言及

【髄液】より

…髄液の外見や細胞成分も重要で,脳内出血では血性となるが,乏血性梗塞(こうそく)ではならない。また化膿性髄膜炎では好中球がより増加し,ウイルス性あるいは真菌性髄膜炎ではリンパ球がより増加する。またこれらの病原体を同定できることもあり,脳腫瘍や髄膜癌腫症などでは腫瘍細胞が検出されることがある。…

※「真菌性髄膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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