化学辞典 第2版 「硫化バナジウム」の解説
硫化バナジウム
リュウカバナジウム
vanadium sulfide
多くの化合物が知られている.不定比化合物が多く組成が確定できないものもある.【Ⅰ】硫化バナジウム(Ⅱ)(vanadium(Ⅱ) sulfide):VS(83.01).一硫化バナジウム(vanadium monosulfide)ともいう.バナジウムと硫黄の計算量を混合したものを,真空中で850~900 ℃ に強熱するか,硫化バナジウム(Ⅲ)を水素気流中で加熱すると得られる.黒色の六方晶系結晶.ヒ化ニッケル型構造.密度4.2 g cm-3.低温では斜方晶系の結晶で,常磁性.水,塩酸,アルカリに不溶,熱濃硫酸や硝酸に可溶.酸素を吸収しやすい.空気中で加熱すると,二酸化硫黄を放出して酸化バナジウム(Ⅴ)となる.[CAS 12166-27-7]【Ⅱ】硫化バナジウム(Ⅷ):VS4(179.20).四硫化バナジウム(vanadium tetrasulfide)ともいう.天然にはパトロナイト(patronite)として産出する.硫化バナジウム(Ⅲ)と硫黄の1:5混合物を石英管中で長時間加熱したのち,ゆっくり冷却すると得られる.黒色の単斜晶系結晶.反磁性.密度2.8 g cm-3.酸化性のない酸に不溶,アルカリに溶けて赤色溶液となる.VS4は多硫化物と考えられている.[CAS 12166-34-6]【Ⅲ】硫化バナジウム(Ⅲ):V2S3(198.07).三硫化二バナジウムともいう.V2O3,VO2とH2Sの反応で得られる.緑黒色の粉末.常磁性の単斜晶系.密度4.7 g cm-3.850 ℃ 以上でVSとSに分解する.水に不溶.[CAS 1315-03-3]
そのほか,V3S4,V2S5などが知られている.いずれもバナジウムと計算量の硫黄の混合物を加熱するか,バナジウム(Ⅲ)化合物の硫化水素中での加熱または硫黄との加熱により得られる.いずれもおおむね黒色の固体で,電気伝導性のあるものが多い.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報