神寵帝理念(読み)しんちょうていりねん

改訂新版 世界大百科事典 「神寵帝理念」の意味・わかりやすい解説

神寵帝理念 (しんちょうていりねん)

〈神の恩寵によって地上に立てられた皇帝〉(ドイツ語でKaiser von Gottesgnaden)を支配権の根底におく考え方。神帝とは区別される。用語としては4世紀のカエサレア主教エウセビオスキリスト教徒皇帝コンスタンティヌス1世の崇高性と絶対権力を支持・強化すべく主張した考え方をドイツの古代史家エンスリンW.Ensslinが名づけたもの。これは後期ローマ帝国やビザンティン帝国の皇帝理念として発展してゆく。それによれば,地上の帝国は天上の神の支配の模像であり,皇帝は王なる神の代理人であって,神の模像である。彼はもっとも完全なキリスト教徒であり,すべてのキリスト教徒の模範であるとされた。かかる理念は遠くペルシアにも見られるが,直接的には2世紀からローマ帝国に徐々に現れてきた皇帝観に連なり,教父のオリゲネスにも萌芽が見られる。実質的に神寵帝の神的権威は現身の神としての皇帝の場合と異ならず,それを推し進めたキリスト教は皇帝教皇主義に必然的に結びついてゆくことになる。
皇帝
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の神寵帝理念の言及

【ローマ理念】より

…反ゲルマン的なローマ愛国心の発揚はアンミアヌス・マルケリヌスに顕著であるが,アンブロシウスやプルデンティウス,キュレネのシュネシオスらの著作に認められるように,キリスト教徒知識層もこの反ゲルマン感情を共有していた。4世紀初頭,コンスタンティヌス1世のイデオローグともいえるカエサレアの司教エウセビオスは,メリトンの哲学を継承してローマ帝国の摂理的使命を説き,皇帝は地上における神の似像(にすがた)であるとして,キリスト教的帝国理念,神寵帝理念を打ち出していた。このようなキリスト教的帝国理念においては,帝国外の蛮族が神の恩寵にあずからぬものとして排撃されたのも当然であった。…

※「神寵帝理念」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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