初期キリスト教神学者,聖書注解学者。エジプトのアレクサンドリア生れとされる。キリスト教の教育のほか,異教の哲学,文学の素養を身につけた。202年の迫害で父を失い,アレクサンドリア主教デメトリオスDēmētriosによって同地の教理学校の仕事をまかされた。清貧,禁欲の生活をおくり,キリストのことば(《マタイによる福音書》19:12)を文字どおりとってみずから去勢した。学者としての名声が高まり,215年にはパレスティナで俗人の身で説教を試み,教会規律違反としてエジプトに召喚された。その後著述に専念。230年にパレスティナで司祭に叙任されたが,それが教会管轄上の問題となり,アレクサンドリアの教理学校の職を追われた。そこで231年にパレスティナのカエサレアに逃れた。250年にデキウス帝の迫害で投獄され,拷問のため衰弱し,まもなく没した。
オリゲネスはギリシア教父のなかでも有数の多作家で,伝承によれば2000点の著述があったというが,後代のオリゲネス主義弾劾のため断片かラテン語訳が現存するにすぎない。聖書のくわしい注解を行ったが,聖書の解釈には逐語的,道徳的,比喩的の三つの方法があるとして,オリゲネス自身は比喩的な解釈を重視した。これがアレクサンドリア学派神学の伝統となった。《ヘクサプラ》において旧約のヘブライ語原本と4種のギリシア語訳を並べ,本文校訂の試みを始めた。ルフィヌスのラテン語訳で伝わる《原理論》が主著で,神,人間,自由意志,聖書について系統的な記述を行い,組織神学のはしりとなった。現在,オリゲネス神学の全体像をつかむのは困難であるが,正統神学では認められない大胆な理論を哲学的思弁から導き出したことも事実である。それは霊魂の先在説と輪廻説,父なる神に対する子なるキリストのやや従属主義的なとらえ方などである。オリゲネス神学の一面のみを強調したさまざまの説をオリゲネス主義と呼び,古代および中世の教会で異端として弾劾された。4世紀の後半,サラミス主教エピファニオスEpiphaniosがオリゲネスを異端と決めつけ,ヒエロニムスもそれに荷担,結果としてオリゲネスを奉じていたエジプトの修道士が迫害された。6世紀中葉にはパレスティナの聖サバス修道院のオリゲネス主義が問題となった。このようなオリゲネス主義論争の結果,オリゲネスは教会内でも黙殺されてきたが,現代ではいわゆるオリゲネス主義はほとんど誤解の産物であったと考えられている。
執筆者:森安 達也
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ギリシア教父。古代キリスト教の代表的神学者。アレクサンドリアに生まれ、若くしてアレクサンドリアのクレメンスの後継者としてキリスト教を教えた。のちパレスチナのカエサレアに移って学塾を開き、古代キリスト教の一つの重要な学統の祖となった。デキウス帝の大迫害(250~251)のとき投獄され、しばらくのちに没した。
教会的信仰の基本に立脚するとともに、ギリシア哲学に通暁していた彼は、プラトン主義、グノーシス主義、マルキオンなどと折衝しながら、聖書の信仰と思想を体系的に把握し弁証することに努めた。最初の組織神学といわれる『原理論』、キリスト教弁証論『ケルソス駁論(ばくろん)』の両大著のほか、膨大な聖書注解・講解がある。とくに彼が組織化した聖書の比喩(ひゆ)的解釈法は、後代に大きな影響を及ぼした。しかし彼がヘブライ思想とギリシア思想とのはざまで、ときとして大胆な思弁的解釈を提出したことは、多くの論争を巻き起こし、異端の嫌疑を被る原因ともなった。他方、彼の厳格な禁欲的生活は、その思想とともに後の修道思想にも大きな刺激を与えた。
[水垣 渉 2015年1月20日]
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185?~254?
アレクサンドリアの神学者。アレクサンドリアのクレメンスに学び,ギリシア哲学を援用してキリスト教神学の基礎をすえた。デキウス帝の迫害の際,投獄,拷問(ごうもん)を受け,釈放後テュロスで没した。主著は『諸原理について』。
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…(2)180年ころ,パンタイノスによりアレクサンドリアに設立された一種の私塾(アレクサンドリア教校)に形成された学派。この教校はアレクサンドリアのクレメンス,オリゲネスへと継承され,新入信者へのキリスト教教理の問答による教授が行われた。その学風は聖書を比喩的に解釈し,〈旧約〉を〈新約〉の予型とみなすところに特色があり,聖書の文献学的研究を重視するアンティオキア学派に対する。…
…このため,初期キリスト教徒は1月1日,1月6日,3月27日などにキリストの降誕を祝したが,教会としてクリスマスを祝うことはなかった。3世紀の神学者オリゲネスはクリスマスを定めることは異教的であると非難している。クリスマスが12月25日に固定され,本格的に祝われるようになるのは教皇ユリウス1世(在位337‐352)のときであり,同世紀末にはキリスト教国全体でこの日にクリスマスを祝うようになった。…
… 古代東方神学はギリシア的なテオロギアの名称と思惟方法を取り入れてキリスト教を弁証しようとする2世紀のユスティノスらの弁証論者にはじまる。アレクサンドリアのクレメンスのあとをうけてこの方向で最初に体系的な神学を生み出したのは3世紀のオリゲネスである。その著《原理論》は教会的信仰を土台としつつ,解釈学的意図を明確にした聖書釈義を駆使して思弁的にも高度に展開された教義学である。…
…後2世紀のユダヤ教徒訳としてはアクイラ訳,シュンマコス訳がある。これらとその他のギリシア語訳などを集大成したのがオリゲネスの《ヘクサプラ(六欄聖書)》である(後3世紀)。これらはその後諸地方本によって流布され,後4~5世紀の〈大文字写本〉に結実した。…
… 書物の形態が巻物から冊子本(コデックス)に変わるのは3世紀ころであるが,すでに1世紀ごろキリスト教徒は,この冊子本を採用していた。またアレクサンドリアの教理学校の長オリゲネスは,その地に図書館を建てている。3世紀になるとアレクサンドリアはキリスト教神学研究のメッカとなった。…
※「オリゲネス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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