化学辞典 第2版 「突然変異誘起因子」の解説
突然変異誘起因子
トツゼンヘンイユウキインシ
mutagen
遺伝子内部に構造変化を起こさせることにより,突然変異を起こさせる物質または要因をいう.遺伝的な形質変換因子がDNAであるところから,DNAに変化を与えることにより突然変異を起こさせる.突然変異を起こさせる因子としては,種々の物理的因子と化学的因子とがある.物理的因子としては,紫外線,X線,γ線などの放射線照射があげられる.紫外線照射ではチミン二量体が形成され,これが突然変異のおもな要因と考えられている.化学的因子は表のようにいくつかに分類される.
(1)DNA中の正常塩基のかわりに取り込まれ,塩基対異常化を起こさせるような塩基類似体,
(2)DNAのリン酸や塩基をアルキル化してDNA複製時に誤りを起こさせるアルキル化剤,
(3)DNAの二本鎖のなかに入り込み,その形状に変化を起こさせてDNAの正常な組換えを乱すアクリジン色素類,
(4)核酸前駆物質の正常な合成を阻害して変異を起こさせる物質.
(5)塩基の脱アミノ化,ヒドロキシル化などによりA-T,G-Cの塩基対特異性を変化させる薬剤,
などがある.人工的に変異を起こさせて得られる変異体を使って,分子遺伝学的な研究が進められている.[別用語参照]化学発がん剤,発がん物質
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報