環内に窒素原子を含む複素環式芳香族化合物の一つ。コールタールから得られるアントラセン油中に少量存在する。実験室ではアクリドンの還元やジフェニルアミン-2-カルバルデヒドの環化により調製できるが、工業的にはアントラニル酸カルシウムを加熱したのち水素気流中で亜鉛末を作用させて製造する。淡黄色の結晶で、蒸気は皮膚や粘膜を刺激し、吸入すると咳(せき)、くしゃみが出る。また、発癌性(はつがんせい)が疑われている。水にはわずかしか溶けないが、多くの有機溶媒にはよく溶ける。水溶液は青色の蛍光を発する。弱い塩基性をもつ。化学的に安定な物質で、強い酸や強いアルカリと高温で処理しても変化しない。
アクリジンイエローやアクリジンオレンジなどの染料、アクリノールなどの殺菌剤、医薬品はこの化合物の誘導体である。
[廣田 穰]
ジベンゾピリジンまたは10-アゾアントラセンに相当する化合物。コールタール中に存在し,昇華性(100℃以上)のある結晶性のよい淡黄色の固体で,融点111℃,沸点345~346℃。水には溶けにくいが,アルコール,エーテル,炭化水素,二硫化炭素などによく溶け,溶液は紫または緑色の強い蛍光を発する。蒸気は皮膚,鼻やのどなどの粘膜に強い刺激性をもつ。かなり安定な化合物で熱硫酸,水酸化カリウムとは反応しないが,紫外線照射による二量化や,酸化・還元反応,付加反応,ニトロ化や臭素化などの置換反応が知られている。合成法としては,ジフェニルアミン-2-カルボン酸類に硫酸またはオキシ塩化リンを作用させて橋架けしたのち還元するのが一般的である。誘導体には,各種のアクリジン系染料や,殺菌剤(アクリフラビン),抗マラリア剤(アクリナミン),抗結核剤(アミノアクリジン)などがある。
執筆者:松本 澄+内田 高峰
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C13H9N(179.22).コールタールから得られるアントラセン油に少量含まれる.ジフェニルアミンとギ酸を塩化亜鉛とともに加熱するか,ジフェニルアミン-2-カルボン酸に硫酸または塩化ホスホリルを作用させたのち,還元すると得られる.無色の針状結晶.融点109~110 ℃,沸点346 ℃.pKa 5.6(20 ℃).100 ℃ で昇華しはじめる.水蒸気蒸留ができる.熱水にわずかに溶け,アルカリ性を示す.アルコール類,エーテル,炭化水素に易溶.希薄溶液は紫色の蛍光を出すが,アクリジンと酸から得られる黄色の塩は緑色の蛍光を出す.ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化アリールと反応して,アクリジニウム塩をつくる.光の照射により二量化する.硫酸または水酸化カリウムと処理しても変化しない.二クロム酸カリウムで酸化するとアクリドンとなる.ニッケル触媒で還元するとアクリダン(9,10-ジヒドロアクリジン)となる.合成染料・殺菌剤(トリパフラピン)の原料,金属分析試薬として用いられる.皮膚や粘膜を強く刺激する性質がある.[CAS 260-94-6]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…(9)色素類その他 色素が殺菌効果を有することは早くから知られていた。P.エールリヒはアクリジンの抗トリパノソーマ作用を発見したが,アクリジンはアクリノールの母体であって,これがアクリノール発見の端緒となった。アクリノールは水に溶けないため乳酸塩にしてから,創傷殺菌剤としてガーゼなどに浸して使用する。…
※「アクリジン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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