改訂新版 世界大百科事典 「竺道生」の意味・わかりやすい解説
竺道生 (じくどうしょう)
Zhú dào shēng
生没年:355?-434
道生でも知られる。中国思想史の根本的な転換期である東晋末期から劉宋期において中心的役割を果たした仏教哲学者。本姓は魏,鉅鹿(河北省)の人。釈道安の同門竺法汰(320-387)の弟子で,廬山にあった慧遠(えおん),僧伽提婆,長安のクマーラジーバ(鳩摩羅什)などのもとで勉学した。クマーラジーバ門下の僧肇(そうちよう)らや謝霊運との深い学問的交流があった。当時の中国思想界が問題にした〈あらゆる人間が聖人になることができるか〉という根本問題に対し,クマーラジーバ哲学の真俗二諦の区別を導入して〈頓悟成仏説〉などを提出し,また法顕伝来の《泥洹経》の仏性論をただちに受け入れて〈闡提(せんだい)成仏説〉を提出して肯定的に答えた。こうして魏晋老荘思想を深遠な大乗仏教哲学によって究極にまで徹底させ,大乗仏教哲学を老荘思想の述語・概念によって表現することに成功した。しかしその思想の革新性のゆえに首都建康の仏教界から擯斥(ひんせき)された。晩年は廬山に隠棲して過ごし,西方の荆州仏教に影響を与えた。
執筆者:荒牧 典俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報