中国,前秦の僧。常山扶柳(河北省正定県)の人。12歳で出家し,のち鄴(ぎよう)(河北省磁県)に至って仏図澄に師事した。ついで各地に遊学し,太行の恒山に入り寺塔を創建した。この地で廬山の慧遠(えおん)ら500人の弟子を得た。349年(太寧1),後趙の石遵に請われて長安に至り,華林園で説法した。後趙末の混乱期には,慧遠ら弟子数百人を率いて襄陽(湖北省襄樊市)に難を避け,檀渓寺を建て仏像を鋳た。習鑿歯(しゆうさくし)との会見で〈弥天(そらにあまねき)釈道安〉〈四安(天下に聞えし)習鑿歯〉というやりとりは有名である。379年(建元15)前秦の苻堅は襄陽を攻め,道安と習鑿歯を得て長安に帰り,顧問とした。〈10万の師をもって一人半を得た〉という,このときの苻堅の言は古今の名言とされる。長安での道安は五重寺に住し,僧衆数千人に対して大いに弘法し,訳経事業にも参与した。旧来の誤訳や意義不明なところに注釈を施すこと22巻に及んだ。当時,老荘思想を借りて仏教を解釈する〈格義仏教〉が盛んであったが,道安の注釈態度は経文の系統的検討に基づくもので,中国仏教史上で最初の〈格義仏教〉からの解放者と目せられる。また後漢から東晋に至る間の漢訳経典の総目録である《綜理衆経目録》を撰したことも重要である。クマーラジーバ(鳩摩羅什)以後の国家保護下での訳経事業と異なり,それ以前の訳経は,訳経者の名すら不明のものが少なくなく,訳経数がしだいに増えるとともに混乱が生じてきていた。このような現状に対し,訳経者を定めて整理したのが《綜理衆経目録》であり,経典目録の最初のものと言える。前秦は384年に西域のクチャ(亀茲)を占領する。道安はそのクチャの地にクマーラジーバがいることを知り,秦主苻堅に対して中国に招くことを熱心に説いた。クマーラジーバもまた長安の道安をはるかに敬慕した。しかし,クマーラジーバの中国入りが実現するのは道安没後の401年のことで,両者が相会する機会はついになかった。仏僧が釈尊の弟子として釈氏を姓とするのは道安に始まる。
執筆者:愛宕 元
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中国、東晋(とうしん)代の僧。普通、釈(しゃく)道安という。鳩摩羅什(くまらじゅう)以前の初期中国仏教の基礎を確立した代表的学僧。俗姓は衛氏。常山扶柳(ふりゅう)(河北省)に生まれたが幼くして両親を失い、義兄に育てられた。12歳で出家し、のち西域(せいいき)の僧仏図澄(ぶっとちょう)の弟子となり、大いに感化された。華北は五胡(ごこ)が覇を争う乱世の時代で、道安は戦乱を避けながら講説を続けた。のち襄陽(じょうよう)(湖北省)に至ったが、前秦(ぜんしん)王の苻堅(ふけん)は道安の名声を聞いて、襄陽を攻め、道安を長安に連れていった。長安時代の道安は比較的落ち着いた研究教化の生活を送った。道安は大小乗の経典を研究・注解したが、とりわけ『般若経(はんにゃきょう)』の研究に心血を注いだ。初めて経典の目録(『綜理衆経目録(そうりしゅきょうもくろく)』)を編み、翻訳のあり方に基準(五失本(ごしっぽん)・三不易(さんふえき))をたてた。しかし単なる学解に満足せず、戒律や出家者の行儀についても真摯(しんし)な探究をやめなかった。数百人の門弟がいたが、慧遠(えおん)(廬山(ろざん))がもっとも有名。
また道安の没後16年目に長安にきた鳩摩羅什は、かつて西方(さいほう)において、東方の菩薩(ぼさつ)として道安の名声を聞いていたという。
[岡部和雄 2017年3月21日]
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…号は可休斎,のち眠翁。義弟の少庵と同年であり,その茶風は〈柔の少庵〉と比して〈剛の道安〉と評された。茶法を父利休に学び,その技量は利休を感嘆させるほどであったが,ついに利休のあと千家第2世を継ぐこともなく,先妻の子であった関係もあってか,晩年は特に不遇であった。…
…神屋寿禎は大陸から先進的な銀の精錬技術を輸入し,石見銀山の開発に利用したといわれている。また朝鮮貿易においても,1419年(応永26)の応永の外寇の直後,真相究明のため室町幕府から副使として朝鮮に派遣された平方吉久,日朝・日明貿易に活躍し〈富商石城府代官〉と称された宗金とその一族,博多を本拠として朝鮮と琉球の間で活躍した道安など,多数の博多商人が活躍した。戦国期に博多は自治都市化するが,それを担ったのが博多の有力商人であったと考えられる。…
…30余年の宣教活動で,仏寺の建立893所,弟子は1万人近くに及んだ。弟子のなかでは,中国仏教の基礎を築いた道安が最も著名である。彼には訳経や著述がないにもかかわらず,外来の仏教が中国に根づき発展したのは,彼の広範な宣教に負うところが大きい。…
※「道安」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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