改訂新版 世界大百科事典 「維摩居士」の意味・わかりやすい解説
維摩居士 (ゆいまこじ)
大乗仏教の一経典《維摩詰所説経》(クマーラジーバ訳,略称《維摩経》)の中で中心となって活躍する居士の名。〈維摩〉は〈維摩詰〉の略名で,サンスクリットの原名はビマラキールティVimalakīrti。同経の別訳(玄奘訳)が〈無垢(むく)称〉と訳しているように〈無垢という評判をとった(人)〉という意で,〈浄名(じようみよう)〉とも訳される。この人物は,経典中では仏在世当時,リッチャビーLicchavī(離車)族の都市国家バイシャーリーVaiśālī(毘舎離。インド,ビハール州内,パトナー北方)に住んでいた富豪の市民で,しかも仏教教理に通達していた人とされ,じつは菩薩の化身であると説かれている。いわば大乗仏教の理想的人間像として描かれた在家の信者であり,《維摩経》は,この居士が仏弟子を相手に大乗の教理を説き,空観の社会的実践による理想社会の建設を強調し,声聞(しようもん)の徒の保守的な考えを打破するという構想をもっている。
執筆者:高崎 直道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報