日本大百科全書(ニッポニカ) 「美しい水車屋の娘」の意味・わかりやすい解説
美しい水車屋の娘
うつくしいすいしゃやのむすめ
Die schöne Müllerin
シューベルトがウィルヘルム・ミュラーの詩に基づき1823年に作曲した連作歌曲集。作品25。D(ドイッチュ番号)795。数多いシューベルトの歌曲のなかでも『冬の旅』と並んでもっとも親しまれているもので、ドイツ・ロマン派歌曲の象徴的存在とされている。粉ひき徒弟の年季奉公を終えて旅に出た若者が、とある水車小屋で美しい娘に出会って思いを寄せるが、恋敵(こいがたき)の狩人(かりゅうど)が出現して失恋、小川に身を投げてしまう、という筋書きを背景として、若者の心情の変化が20曲の歌によってつづられる。緊密に結び合わされた各曲に共通する特徴は、詩と音楽それぞれにロマン派特有の「素朴さへのあこがれ」が強く打ち出されていることであろう。第1曲『さすらい』にみられるように、全体の半数近くが民謡風の有節歌曲形式(詩の各節を同じ旋律で歌う)をとっていることも、その現れである。しかし、素朴な表現を志向しているとはいえ、第18曲『しぼめる花』における葬送行進曲のリズムのように、情景描写や心理描写に重要な役割を果たすピアノ伴奏は、明らかにこの歌曲集が複雑高度な作曲技法を駆使する芸術歌曲の領域に属していることを証明している。
[三宅幸夫]