肺静脈還流異常症

内科学 第10版 「肺静脈還流異常症」の解説

肺静脈還流異常症(その他の先天性心疾患)

(8)肺静脈還流異常症(anomalous pulmo­nary­ ven­ous drainage:APVD)
定義・頻度
 正常では左房に還流するべき肺静脈の1つあるいはそれ以上が体静脈もしくは右房に還流するのが肺静脈還流異常の定義であるが,左房への還流を残しているか否かによって,それぞれ部分肺静脈還流異常,総肺静脈還流異常とよばれる.また還流部位によって表のように分類される(表5-8-4).単独疾患として生じる場合1000出生に対し0.06~0.08人の頻度であるが,無脾多脾症候群では正常な位置に共通肺静脈が発生しないため高率に合併する.
発生機序
 前腸から発生する肺芽の静脈は最初は原腸静脈叢に還流するが,胎生28日頃には左房後壁の上皮芽として胎生期肺静脈が発生し,これに連結するようになる.共通肺静脈成分は次第に左房に吸収され4本の肺静脈が左房につながる.共通肺静脈を介する左房への流入が遮断されるか,あるいは共通肺静脈が発生しなかった場合には,近傍の体静脈との交通が生じ,交通する部位によって上記の各型に分かれる.
血行動態
 部分肺静脈還流異常が単独病変として起こる場合には三尖弁手前での左右短絡として心房中隔欠損と同様の血行動態であるが,総肺静脈還流異常では左房への流入がなくなるため生存のためには心房レベルでの右左短絡が不可欠である.短絡量が十分でないときには姑息的にカテーテル心房中隔裂開術が行われる.肺静脈から体静脈への還流部位にはしばしば狭窄が伴い,還流障害(肺うっ血)を起こす.
管理・治療
 総肺静脈還流異常では内科的治療は限界があり,基本的には可及的速やかに修復(共通肺静脈-左房吻合)を行う必要がある.肺静脈自体や体静脈への還流部位に狭窄があり,修復術が困難なときには経静脈的ステント留置が選択されることもある.[山田 修]
■文献
Fyler DC, Buckley LP, et al: Report of the New England Regional Infant Cardiac Program. Pediatrics, 65(Suppl): 376-461, 1980.
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Mitchell ME, Sander TL, et al: The Molecular Basis of Congenital Heart Disease. Semin Thorac Cardiovasc Surg, 19: 228-237, 2007.
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肺静脈還流異常症」の意味・わかりやすい解説

肺静脈還流異常症
はいじょうみゃくかんりゅういじょうしょう
anomalous pulmonary venous return

本来,左心房に還流すべき肺静脈血が右心房に入る異常で,まれな先天性心疾患。左心系には卵円孔あるいは心房中隔欠損を通って血液が流入する。総肺静脈還流異常症と部分的肺静脈還流異常症とがある。前者は3型に分類される。I型では肺静脈が肺静脈幹を形成したあと垂直静脈,左腕頭静脈,上大静脈を通って右心房に還流する。 II型では,肺静脈幹を形成したあと冠状静脈洞に還流するものと,各肺静脈が直接右心房に開くものとがある。I,II型の症状は,大きい左右短絡のある心房中隔欠損症と類似している。呼吸困難,心不全,反復する上気道感染などが幼児期に現れ,死亡率が高い。 III型では肺静脈幹が横隔膜を通って下大静脈あるいは門脈系に開く。症状は生後数週間から数ヵ月のうちに著しい呼吸困難とチアノーゼを呈し,予後は悪い。部分肺静脈還流異常症には単独性と合併性とがある。合併性は心房中隔欠損症やファロー四徴症などでみられる。単独性はまれで,卵円孔開存以外の異常を伴わない。ほとんどの場合,右肺静脈の異常で,そこから血液が上大静脈あるいは右心房に直接流入する。治療は外科的に行う。

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