ファロー四徴症(読み)ファローシチョウショウ(その他表記)tetralogy of Fallot

デジタル大辞泉 「ファロー四徴症」の意味・読み・例文・類語

ファロー‐しちょうしょう〔‐シチヨウシヤウ〕【ファロー四徴症】

肺動脈狭窄きょうさく心室中隔欠損大動脈騎乗・右心室肥大の四つ病変を合併する先天性心奇形一種チアノーゼばち指多血症などの症状が現れ、呼吸困難・運動制限が見られる。根治手術として肺動脈狭窄を除去し、心室中隔欠損を閉鎖する。1歳前後で手術をすることが多い。TOF(tetralogy of Fallot)。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファロー四徴症」の意味・わかりやすい解説

ファロー四徴症
ふぁろーしちょうしょう
tetralogy of Fallot

心室中隔欠損、肺動脈狭窄(きょうさく)、大動脈右方転位(騎乗)、右心室肥大の四病変を伴った異常で、1888年フランスの医師ファローÉtienne Louis Arthur Fallot(1850―1911)によって詳細な記述が行われたのでこの名でよばれる。チアノーゼを伴う先天性心疾患のうちでは、もっとも普通にみられる疾患である。現在では手術によって治療できるようになったが、放置すれば予後は悪く、20歳以上の生存例は10~20%といわれ、大人になるまで生存する例は非常にまれである。

 心室のレベルで右心側から左心側へ血液が流れる短絡(シャント)があり、顕著なチアノーゼがみられる。症状としてはこのほか、太鼓の撥指(ばちゆび)や眼球結膜の充血がみられ、呼吸困難とこれによる運動制限も著明で、運動すると呼吸が苦しくなってしゃがみ込んでしまうことがある。このうずくまった姿勢(蹲踞(そんきょ))はこの疾患に特有のものとされる。また、呼吸困難とともにチアノーゼが高度となり、失神やけいれんをおこす無酸素症発作もしばしばみられる。聴診で、胸骨左縁第三肋間(ろっかん)付近に最強点を示す肺動脈狭窄による収縮期雑音が聴取され、この雑音は肺動脈弁口部で第二音が強く聴取される。X線像では肺野は明るく、左第二弓(肺動脈弓)は陥凹し、心尖(しんせん)部は挙上して鈍円となり、木靴形の心臓とよばれる。心電図は右心室肥大像を示す。血行動態的には右心室と左心室の収縮期圧は等しい。

 外科治療は根治手術と姑息(こそく)手術(待期手術)とがある。乳幼児の重症例で根治手術の危険性が高い場合には、姑息手術を行って将来の根治手術に備える。姑息手術には肺血流量の増加を図る短絡手術として、ブラロック‐タウシックBlalock-Taussig手術、ポッツPotts手術、ウォーターストンWaterston手術などがある。また、非直視下に肺動脈狭窄を解除する方法としてブロックBrock手術がある。根治手術は、直視下に右心室を開いて円錐(えんすい)狭窄を切除し、弁狭窄があれば切開する。心室中隔欠損孔に対しては、合成繊維のパッチを縫着して閉鎖する。右心室流出路や肺動脈弁輪部が狭小であったり、肺動脈形成不全のある場合には、パッチによる右心室流出路、肺動脈拡大形成術を加える。近年、ファロー四徴症の手術成績は著しく向上している。

[竹内慶治]

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改訂新版 世界大百科事典 「ファロー四徴症」の意味・わかりやすい解説

ファロー四徴症 (ファローしちょうしょう)
tetralogy of Fallot

先天性心疾患の一種で,チアノーゼを示す疾患の代表的なものである。1888年にフランスのファローÉtienne L.A.Fallot(1850-1911)がこの疾患について四つの解剖学的特徴を記載して以来,彼の名が疾患名として用いられている。四徴とは,肺動脈狭窄または閉鎖,心室中隔欠損,大動脈騎乗,右心室肥大のことであるが,これらのうち本質的病変は前2者であって,後2者は二次的な病変である。右心室流出路が狭窄または閉鎖しており,大きな心室中隔欠損があるために,右心室圧が高くなり,静脈血の一部が右心室から心室中隔欠損を通って大動脈に出ていく。そのためチアノーゼを生じ,一方,肺の血流量は減少する。チアノーゼの程度は非常に軽いものから高度なものまでさまざまで,出現時期も,生まれたときすでにみられるものから,乳児期に現れるもの,幼児期になって現れるものもある。チアノーゼとともに手足の指先が丸く太くなって,太鼓ばち指と呼ばれる。また疲れやすく,息切れしやすい。運動している途中で急にしゃがみ込み,しばらくしてまた立ち上がって運動を続ける症状が特徴的で,このしゃがみこんだ姿勢を蹲踞(そんきよ)という。乳幼児期には,無酸素発作といって,眠りから覚めたときなどに,啼泣,哺乳,排便などがきっかけになって,チアノーゼが増強し,呼吸が苦しくなり,ぐったりする発作を起こすことがある。発作は数分から数時間も続き,重い発作の場合には,意識消失,痙攣(けいれん)をきたし,ときに死に至ることもある。ファロー四徴症を治すためには手術が必要である。手術には2種類あって,チアノーゼが高度な乳児,とくに無酸素発作をくり返す場合には,肺血流量を増やして一時的に症状を軽くする手術(短絡手術と呼ばれる)が行われる。人工心肺を用いて,肺動脈狭窄を除去し,心室中隔欠損を閉鎖する根治手術は,通常乳児期を過ぎてから行われる。手術をしない場合は,徐々に進行し,20歳前後で低酸素症,中枢神経合併症,細菌性心内膜炎,肺出血などで死亡する。
心臓外科
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百科事典マイペディア 「ファロー四徴症」の意味・わかりやすい解説

ファロー四徴症【ファローしちょうしょう】

先天性心臓病の一種。肺動脈狭窄(きょうさく),心室中隔欠損症,大動脈騎乗,右心室肥大の四つの奇形が共存。チアノーゼ,呼吸困難,発育障害などを呈する。手術が唯一の治療法。名称はフランスの医師ファローA.Fallotにちなむ。
→関連項目大動脈騎乗

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ファロー四徴症」の意味・わかりやすい解説

ファロー四徴症
ファローしちょうしょう
tetralogy of Fallot

肺動脈狭窄,高位心室中隔欠損,大動脈の右方転移 (騎乗) ,右心室肥大を合併する先天性心疾患をいう。症状としては,チアノーゼや太鼓ばち指,呼吸困難などがみられ,無酸素発作もしばしば起きる。このうち,重症度と最も関連をもつのが肺動脈狭窄で,新生児期からチアノーゼを呈する先天性心疾患のうち,最も高率にみられる。乳幼児に対しては数年後の根治手術を前提とした短絡手術やブロック手術が行われ,3~4歳以上には最初から根治手術が行われることが多い。手術の方法は,心室中隔欠損を補綴物で閉鎖し,右心室流出路の心筋切除,肺動脈弁癒合部の切開,切開部への補綴物の縫合などを行なって肺動脈狭窄を除去する。

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世界大百科事典(旧版)内のファロー四徴症の言及

【先天性心疾患】より

…それらはさまざまな立場から分類されているが,従来よく行われているのは,チアノーゼを示す群(チアノーゼ性先天性心疾患)と示さない群(非チアノーゼ性先天性心疾患)に分けるものである。前者にはファロー四徴症,完全大血管転位,総肺静脈還流異常,三尖弁閉鎖,右胸心などがあり,後者には心室中隔欠損,心房中隔欠損,心内膜床欠損,動脈管開存,肺動脈狭窄,大動脈狭窄,大動脈縮窄などが含まれる。ただしチアノーゼの有無は決定的な違いではなく,前者に分類される疾患においても,ほとんどチアノーゼのみられない例もあり,また後者に分類される心室中隔欠損などにおいても病気が進行した状態においてはチアノーゼが現れることもある。…

※「ファロー四徴症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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