熱帯・亜熱帯の海岸のマングローブ林をつくるヒルギ科植物(メヒルギ、オヒルギなど)にみられる。種子とよばれるが、実際には中に種子を1個もつ果実である。一般の植物の種子は母体から脱落したのち発芽するが、胎生種子は次のように独特の成長を行う。受精した胚珠(はいしゅ)の中で胚が成長を続け、その主根の先は珠皮を突き破り、さらに外側の子房壁も突き破って外に出る。胚はさらに成長を続け、とくにその胚軸の部分が長大となり(長さ20~40センチメートル、太さ約2センチメートル)、表面は緑色となる。この状態でも、子葉と茎頂の部分は子房の中に入ったままで、胚軸は枝先から垂れ下がるようになる。子房の外側は、たとえばオヒルギでは鮮紅色の萼(がく)で包まれる。完熟すると花柄が切れて、果実は上端に萼をつけたまま垂直に落下する。干潮などで水が浅い場合は、とがった主根の先が底の砂泥に突き刺さり、そこで側根を出して根づき始める。満潮などの場合は、胚は水で別の場所に運ばれ、そこで定着する。
[山下貴司]
…マングローブ植物であるヒルギは休眠期がなく,親植物から栄養分を吸収しながら発根し,数cmにもなる。このように樹上で発芽するものを胎生種子という。 種子の寿命は普通1~数年であるが,ヤナギは短命で数日から数十日という。…
※「胎生種子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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