日本大百科全書(ニッポニカ) 「自然貨幣」の意味・わかりやすい解説
自然貨幣
しぜんかへい
natural money 英語
natürliches Geld ドイツ語
原始交換社会において生産物の交換のなかから自然に貨幣としての役割を果たすようになったものをいう。つまり、生産物の交換が頻繁となり、その分量や種類も増加してくれば、物々交換にかわって、だれもが受け取りを快諾する特定の物品が、一般的等価物として商品交換を媒介するようになる。このような過程のなかで自然に貨幣の位置についたものを自然貨幣といい、家畜、奴隷、毛皮、亀甲(きっこう)、貝殻、穀物、オリーブ油、武器、茶、塩、綿布、たばこ、金銀(貴金属)などがそうであったとされている。これらは一面において貨幣であると同時に、他面において商品としても本来の用途に用いられたことから、自然貨幣は商品貨幣、物品貨幣、貨物貨幣などともいわれる。また、自然貨幣は、近代的貨幣と区分する意味で、原始的貨幣(秤量(ひょうりょう)貨幣など)と本位制度確立以前の鋳造貨幣とをあわせて総称する際に用いられることもある。自然貨幣は、貨幣が本来交換社会の産物であることを示している。
[齊藤 正]