船渡聟(読み)フナワタシムコ

デジタル大辞泉 「船渡聟」の意味・読み・例文・類語

ふなわたしむこ【船渡聟】

狂言船頭酒樽さかだるを持った客を脅し、酒を全部飲んでしまう。帰宅後、家をたずねてきた自分の聟が先刻の客とわかり、船頭はひげを落として対面するが見破られる。

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改訂新版 世界大百科事典 「船渡聟」の意味・わかりやすい解説

船渡聟 (ふなわたしむこ)

狂言の曲名。聟狂言。大蔵和泉両流にある。聟入りに行く聟が,途中,渡し舟に乗る。船頭は無類の酒好きで,聟がみやげに携えた酒樽に目をつけ,強引に無心する。やむをえず振る舞ううちに聟は自分も飲みたくなり,ともに謡い舞って,船が岸に着くまでに酒樽を空にしてしまう。そのまま舅(しゆうと)の家へ持参するが,盃ごとを交わす段になり,その家の太郎冠者に空樽であることを知られ,赤恥をかく。逃げる聟を舅が〈苦しうないことでござる。太郎冠者,早う留めい〉と追う。登場は聟,船頭,舅,太郎冠者の4人で,聟がシテ。以上,大蔵流の台本だが,和泉流の台本は大幅に異なる。前半の船中の場面は歌舞を伴わない。聟が空樽を携えて聟入りしたとき舅は留守である。やがて帰宅した舅は物陰から聟の顔を見てびっくりする。実は舅は船頭であったのだ。そこで舅は妻の勧めもあってひげをそり,袖で顔を隠して聟と対面するが,ついに露顕して面目を失う。聟は〈どうせ酒はあなたに進上するためだったのだ〉ととりなし,祝言の謡で留める。登場は聟,船頭(実は舅),女(姑(しゆうとめ))の3人で,聟がシテ。最古の狂言台本といわれる《天正狂言本》の《船渡聟》は和泉流の筋立てに似ている。両流とも,演者の年齢その他のケースを勘案して船頭をシテとする演出もある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「船渡聟」の意味・わかりやすい解説

船渡聟
ふなわたしむこ

狂言の曲名。『舟渡聟』とも書く。聟入り(結婚後初めて舅(しゅうと)を訪ね、盃(さかずき)を交わす儀式)する聟が川に差しかかり渡し舟に乗る。聟は、舅への土産(みやげ)の酒を船頭に所望されて断りきれず、自らも飲んで酒樽(さかだる)を空にしてしまう。舅の家に着くと、盃事(さかずきごと)にその酒が使われることになり、樽の空が露見して面目を失う。以上が大蔵(おおくら)流であるが、和泉(いずみ)流では船頭と舅が同一人物という設定。舟の上で聟に酒を強要した船頭は、帰宅してそれが自分の聟であると知り、慌てる。そこで、自慢の大髭(ひげ)を剃(そ)って相貌(そうぼう)を変え、顔を隠すようにして盃事に臨むが、結局見破られて恥をかく。ひとたび飲み始めると節度を失う酒飲みの心理と、それによる失敗のおかしさを描いた作品。船中の演技が見どころ。

[林 和利]

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