船の長。日本の船の長は,古くは一般に梶取であって,船頭の現れるのは,ようやく鎌倉末以降である。それまでの船頭の称呼は,もっぱら中国貿易船に限られていた。この梶取から船頭への称呼の変化の背景には,荘園制の衰退と商品流通の発展とがあるものと解される。すなわち荘園の荘官・名主であった梶取が荘園の従属関係から解放されて,多分に独立的な交通業者に成長しつつあったものが船頭であったといわれる。しかしじっさいには船主に従属している船頭も少なくなかった。室町時代,遣明船のような大船になると船頭は必ずしも1人ではなく,船頭と惣船頭,船頭と脇船頭のように船頭の分化が見られた。近世では船主に雇われた雇船頭(沖船頭)のほか,船頭が船主である居船頭(いせんどう)があり,前者が後者に成長するものが多かった。さらに北前船のごとく船頭は運送業務のみならず,より以上に商業業務によって利潤を獲得し,富裕化するものが少なくなかった。しかし漁船などの小舟を操る船頭も一般的で,今日の船頭のイメージはむしろこの種の船頭であろう。
執筆者:新城 常三
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船の長(おさ)、船乗りの頭(かしら)、今日いう船長のことであるが、現在の一般通念としては、小さい漕(こ)ぎ船の漕ぎ手や船乗りをさす。歴史的にみると、古くは梶取(かじと)りとよばれており、南北朝時代からしだいに船頭の語が並称され始めた。室町時代には、船頭といえばもっぱら商船の長をさし、船の運航の指揮をとる一方で自ら積み荷の荷さばきや売買も行う、船主であり商人でもあった。近世期には、しだいに梶取りの名称は用いられなくなり、廻船(かいせん)業でも漁業でも、上は千石船から下は小型の「はしけ」に至るまで、すべて船の長を船頭とよぶようになった。そして船頭のなかでも、船持ちの者を船主船頭とか直(じき)船頭とよんだが、経営規模や商取引の機構が拡大・複雑化するとともに1人の船頭が海上作業と商売とを兼ねることが困難となり、役割の分化がおこった。その結果、船主は陸上で経営の指揮をとり、船頭は船主に雇われて航海や海上作業の指揮を専門とするようになった。一方漁船でも、漁労の規模が拡大すると、漁労作業と航海の責任者に分化が生まれ、船頭は航海の責任者をさすようになった。しかし、近代の大型漁船において、漁労長を船頭とよんで船長とは区別し、配当も船長より高いという場合もある。明治期以降は、大型船から小型漁船まで船の長は一般に船長とよび、船頭といえば渡し船やその他の小舟を操作する人に限られるようになってきた。
[野口武徳]
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