日本大百科全書(ニッポニカ) 「良賤制」の意味・わかりやすい解説
良賤制
りょうせんせい
中国古代における国家的身分制。全人民を良民と賤民とに区分する政治的支配の制度。秦(しん)・漢期に形成され、唐代に完成した。賤民とは、国家に隷属する各種の官賤民、および私家で駆使される私賤民(部曲(ぶきょく)、客女、奴婢(ぬひ))であり、これらの者を除くすべての者(天子も含む)が良民である。賤民は日常生活におけるもろもろの「差別」と、その差別をさらに有効に規定し正当化した国法とを通して、良民と明確に区別され対比される。たとえば刑法においても、賤民の犯罪は、とりわけ良民や主人に対する加害の場合には重罪に処せられ、賤民に対する犯罪の処罰はきわめて軽い。この身分制は、君臣秩序と家族主義的秩序と並んで、皇帝支配を維持し機能せしめるための重要な役割を果たした。宋(そう)代以降には、地主制的支配の発達に反比例して、良賤制の締め付けは第一義的なものではなくなったが、賤民の公的な廃止は、清(しん)朝の崩壊を待たねばならなかった。
[尾形 勇]
『尾形勇著『中国古代の「家」と国家』(1979・岩波書店)』