天子(読み)テンシ

デジタル大辞泉 「天子」の意味・読み・例文・類語

てん‐し【天子】

天上界の人。天人。
天帝に代わって国を治める人。帝王。日本で、天皇
[類語]天皇現人神主上内裏様陛下上皇法皇

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精選版 日本国語大辞典 「天子」の意味・読み・例文・類語

てん‐し【天子】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 天の子。天上界の人。天人(てんにん)
    1. [初出の実例]「諸天の宮殿共を見せ給ふに、諸の天子、天女と共に娯楽する事无限し」(出典:今昔物語集(1120頃か)一)
  3. 天に代わって国を統治するもの。天の命により国民を統べるもの。帝王。天皇。
    1. [初出の実例]「天子。〈祭祀所称〉天皇。〈詔書所称〉」(出典令義解(718)儀制)
    2. 「あまたの中に一人こそ、天しのおやともなるめれ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)嵯峨院)
    3. [その他の文献]〔書経‐洪範〕

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改訂新版 世界大百科事典 「天子」の意味・わかりやすい解説

天子 (てんし)
tiān zǐ

中国において天帝の息子として,天帝に代わって全世界を統治する者をいう。周王朝初年,周公(旦)らが発展させたという天命思想によれば,天帝は天の命令を下して一つの王朝(それは血縁関係で継承される)に天下の統治をまかせるのであるが,その王朝が徳を失うと天帝はそれを見捨て,別に徳ある者を見つけ,その者を天の元子(あととり息子)と認知して,代わって天命を与える(天人相関説)。その子孫が代々天子として,天に見捨てられるまで,天下を統治してゆく。これが易姓革命である。天子は,天の息子として天を祭る権利と義務とをもち,他の者は直接に天を祭ることが許されない。こうした観念が,王朝支配の基礎理念として清朝末年まで保持され,皇帝の行う種々の儀礼的行動に反映している。
皇帝 →天皇
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「天子」の意味・わかりやすい解説

天子
てんし

中国、前近代の君主称号の一つ。天(至上神、上帝)の命を受けた子として国土と民を保有し、治める者の意。この観念が成立したのは周代であり、金文史料からも確認できるとおり、周王はまた天子として天の権威のもとに君臨した。秦(しん)帝国が成立すると、この号は捨てられ、これを超越する神格化された君主としての皇帝の称号が始皇帝によって創案採用された。漢代になると儒家の思想が息を吹き返し、皇帝と並ぶ正号として天子の号が復活した。「皇帝」が地上における唯一の現実的支配者を意味したのに対し、「天子」は天との関係において機能する称号であり、この号は、上帝を中心とする天地の神々を祀(まつ)る場合に用いられ、また天命を受けた者(の1人)として、外国の君主との交渉のときに採用された。また、天と君主との間は君臣関係として制度化されており、したがって天子の号は「天の子」という家族主義的関係を、すでに意味していない。こうした天子の制度と思想とは、以降の歴代の王朝に受け継がれていく。

尾形 勇]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「天子」の解説

天子(てんし)

王朝国家の君主の称。皇帝が正式の称号であるに対し,天子はより一般的呼称である。天の子として統治するという神権的観念は,古くからあったと思われるが,天子の語は西周金文(きんぶん)に初出する。のち秦漢時代に,儒教の君主観念を表現するものとしての天子の概念が固定し,天子は民の父母であり,天に代わって民を治め,また天の祭祀を行うべきものとされた。

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百科事典マイペディア 「天子」の意味・わかりやすい解説

天子【てんし】

中国の王朝国家の君主の呼称。天子の語は西周の金文に初見するが,天命を受けた万民の長子として,中国の土地人民を支配するという儒学に基づく君主観が確立するのは,秦・漢の統一帝国以後である。→易姓革命

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普及版 字通 「天子」の読み・字形・画数・意味

【天子】てんし

王。〔書、洪範〕天子は民の母と作(な)る。以て天下の王と爲る。

字通「天」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「天子」の意味・わかりやすい解説

天子
てんし
Tian-zi; T`ien-tzǔ

中国の皇帝や日本の天皇の呼称。中国では,天の命を受けて徳をもって人民を支配する王者。周の血縁的 (宗族的) 社会の支配者として,諸侯を率いて天下万民を治める神権的な君主。のち儒教の封建的な君臣論によって天子の理想像がつくられた。専制国家の成立後も家父長的な天子という称号は生き続けた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「天子」の解説

天子
てんし

中国で統一王朝の皇帝をさす言葉
秦・漢時代に儒学の君主観によって形成されたもので,天帝の命を受けて地上の主権者となる皇帝は,天の子であるという思想にもとづいている。

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世界大百科事典(旧版)内の天子の言及

【王】より

…殷王は〈帝〉という至上神を祭り,農作,狩猟,戦争などの結果の吉凶を亀甲や獣骨を焼いて生ずるひび割れの形によって占い,政治を指導し,政治の主宰であるとともに国家祭祀の司祭者として,華北を中心に散在する部族的国家に君臨していた。殷を滅ぼした周の〈王〉は封建された諸侯の宗家(総本家)の位置を占めたが,〈王〉は正上を支配する〈帝〉の命をうけ,その子すなわち天子として地上を支配するものと観念され,王が天に対して責務を怠ると,天帝は改めて有徳の他の者に命を与えて王とし,王朝の革命がおこると考えられ,その天命は人民の総意によって表されるとする易姓革命の考えがあらわれ,易姓革命を肯定する〈王道〉思想は,戦国時代の儒家の間で理論化されて旧中国の政治思想の骨格となった。西周の王権が衰退して春秋時代になると,南方の蛮夷である楚,呉,越などは王と称するようになり,ついで戦国時代に入ると七つの強国はいずれも王の称号を用い,もはや王は司祭者ではなく,政治的君主になった。…

【黄】より

…また《広韻》は黄を中央の色とするが,これは五行思想から東西南北と中央の五方を青白赤黒および黄で象徴したものである。このように黄は地の中央を支配する天子を象徴する色となり,たとえば天子の車を黄屋,天子の鉞(まさかり)を黄鉞,宮城の門を黄門または黄闥と呼んだ。インドでは人民の4階級(カースト)を表す4色(白赤黄黒)のうち黄はクシャトリヤ(王侯・武士階級)の色である。…

【皇帝】より

…帝は上帝ともいって在天の最高神,皇は祖先神や上帝の美称として用いられていたが,先秦の文献には,黄帝,帝尭,帝舜,帝嚳(こく)など,伝説上の帝王に帝という称号を用いる例があり,また戦国時代の半ば,前288年に,秦の昭襄王と斉の湣王が互いに約束して西帝,東帝と称したことがあり,王を超えるものとして帝の号が意識されていたことが認められる。なお,天子という称号は,宇宙を主宰する至上神である天の命をうけて,民の父母としてこれを治め,祖先である天を祭るものという儒学的な君主観念からの称号で,皇帝というのが正式の称号である。【大庭 脩】
[ヨーロッパ]
 明らかに王国の規模を超えた古代オリエント〈帝国〉の支配者の名称には,たとえば,古代ペルシア語の,xšāyaoiya xšāyaoiyānam(諸王のなかの王。…

【中国】より

…ある研究によると,1750年までに中国で出版された書物の総数は,その年までに世界中で中国語以外で印刷された書物の総数を上回っていたといわれるが,そのうちで最も数量的に多いのは歴史書であった。 文献によると,漢民族の最初の天子,五帝の筆頭たる黄帝の即位は前2674年というから,今日まででほぼ4700年になる。もっとも,黄帝以前に神農,さらにその前に伏羲がいたが,伏羲の即位は前3308年にあたる(もちろん書物によって数値はいろいろであるが今は董作賓による)。…

【天下】より

…古代中国に由来し,文字どおりには全世界を意味し,〈天子〉の統治対象を指す語。〈天子,民の父母作(た)り,以て天下の主と為る〉(《書経》),すなわち〈天〉から〈命〉を受けた〈天〉の〈子〉が,〈天〉の〈下〉全体の最高支配者となると考えるのである。…

【廟号】より

…中国で天子の霊をまつるとき,追尊して贈る宗廟の称号。太祖,太宗など祖・宗の前に1字がつく。…

【竜】より

…仙人となった黄帝が竜に乗って升天したり,死者が竜あるいは竜船に乗って崑崙山に至るとされるのも,竜のそうした霊性を基礎にした観念である。天子の象徴として竜が用いられるのもその超越性によるものであり,竜の出現が新帝の即位をあらわす祥瑞とされ,また天子が儀礼に用いる衣服の文様,十二章の中でも竜が最も重要なものである。また竜の隠れるもの,変化きわまりないもの(たとえば竜は大きくも小さくもなれる)という特質から,大きな才能をもちながら世に現れぬ人物の比喩にも用いられる。…

※「天子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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