荒振神(読み)あらぶるかみ

改訂新版 世界大百科事典 「荒振神」の意味・わかりやすい解説

荒振神 (あらぶるかみ)

邪神暴神悪神とも書く。高天原の神々に従わず,また高天原に帰属しない神々のこと。《古事記》〈神代巻〉の天孫降臨の条には〈この国に道速振(ちはやぶる)荒振る国つ神等の多在(さわな)りと以為(おも)ほす〉とある。《日本書紀》〈神代巻〉の〈多(さわ)に蛍火の光(かがや)く神〉とある邪神,日本武(やまとたける)尊が征服した近江の胆吹(いぶき)山(伊吹山)の神などもこの類である。また,邪悪のため,人々の生活に災いを及ぼしたり苦しめたりするとみなされる暴悪の神をもいう。《延喜式》〈祝詞式〉の〈遷却祟神祭(たたりがみをうつしやるまつり)〉は,人々に災いを及ぼす神を生活圏外に移し出して和らげ鎮めるために行われた祭りである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「荒振神」の意味・わかりやすい解説

荒振神
あらぶるかみ

神威が激烈なあまり、人々に災いをもたらす邪悪な神の意。高天原(たかまがはら)で素戔嗚尊(すさのおのみこと)が暴れたことによって狭蠅(さばえ)なすごとくわき出た悪神、『日本書紀』神代巻に「蛍火(ほたるび)のように輝く」と描かれている邪神、また近江(おうみ)国(滋賀県)膽吹山(いぶきのやま)で日本武尊(やまとたけるのみこと)をひどく悩ました荒神などがその代表である。

[大原康男]

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世界大百科事典(旧版)内の荒振神の言及

【地霊】より

…大地に宿り,農耕をはじめ人間生活全般を支配すると信じられた霊的存在。古代において大地を基盤とする人間の営みは,その場所に宿る地霊の承認と保護を得てはじめて可能になり,そのため各季節の節目に行われる豊穣祭など地霊との交流は人々にとって最も重要な関心事であった。地霊の働きには二面性があり,人々に土地を耕させ恵みを授ける慈愛の性質と,それとは逆に地震や干ばつをひき起こす過酷な性質とが同居する。前者はみずからの肉体を傷つけて子孫を養う地母神として,後者は地霊に従わぬ人間を襲う怪物や荒ぶる神として発現する。…

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