荒神(読み)コウジン

デジタル大辞泉 「荒神」の意味・読み・例文・類語

こう‐じん〔クワウ‐〕【荒神】

三宝荒神」の略。
民間で、かまどの神。また、防火・農業の神。

あら‐がみ【荒神】

霊験のあらたかな神。
「かかる尊き―の氏子と生まれし身を持ちて」〈浄・天の網島

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精選版 日本国語大辞典 「荒神」の意味・読み・例文・類語

こう‐じん クヮウ‥【荒神】

[1] (「三宝荒神(さんぼうこうじん)」の略) 仏・法・僧の三宝を守るという神。怒りをあらわし、三つの顔と六つの手をもつ。修験道や日蓮宗などで、とくに信仰される。荒神様
※源平盛衰記(14C前)一「我(われ)財宝にうへたる事は、荒神(クウシン)の所為にぞ」
[2] 〘名〙
① かまどを守る神。かまどの神。民間で「三宝荒神」と混同され、火を防ぐ神として、のちには農業全般の神として、かまどの上にたなを作ってまつられる。毎月の晦日に祭事が行なわれ、一月・五月・九月はその主な祭月である。たなには松の小枝と鶏の絵馬を供え、一二月一三日に絵馬をとりかえる。荒神様。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※浮世草子・日本永代蔵(1688)二「又壱人、『掛鯛(かけだい)を六月迄、荒神(クウジン)前に置けるは』と尋ぬ」
② 近畿以西に濃厚な分布をもつ屋外の神。屋敷神、同族神、集落鎮守の場合があり、荒神講を組織して集落中で飲食する地方も多い。また転じて、かげにいて守ったり援助したりする人をもいう。荒神様。
諸国風俗問状答(19C前)備後国福山領風俗問状答「荒神と申す小神祠、村々に有之」
③ (荒神はかまどの神であるところから、かまどを使う者として) 女房の異称。荒神様。
※二篇おどけむりもんどう(1818‐30頃か)「福神にあらずして寺に大黒とはいかに。内のかかを荒神といふがごとし」
④ 牛の守護神。牛荒神。
※浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)四「手なれし牛の、子をうみけるに、荒神(コウジン)の宮めぐりもすぎて」
⑤ ((一)の顔が三面であるところから) 中央のほか左、右にも乗れるようにつくった馬のくら。または、そのくらをのせた馬。
※雑俳・柳多留‐九一(1826)「荒神があれて三人どさら落」

あら‐がみ【荒神】

〘名〙
① たけだけしく、霊験のあらたかな神。
山家集(12C後)中「波につきて磯わにいますあらがみは潮ふむ宜禰(きね)を待つにやあるらん」
② 荒々しく人にわざわいを及ぼす神。
※孟津抄(1575)一七「能因歌枕 云人の中さへる神をばあらみさき又あらみけといふ荒神也」
伊勢神宮の末社の「雨の宮風の宮」の別名。
④ かまどの神。
※諸国風俗問状答(19C前)三河国吉田領風俗問状答「さて大黒、蛭子、荒神〈竈の神の意〉には、大かたの家にて別に供ふ」

あらぶる【荒】 神(かみ)

荒々しく乱暴する神。天皇の命令に従わない神。
古事記(712)中「東の方十二道の荒夫琉神(あらブルかみ)、及(また)摩都楼波奴(まつろはぬ)人等を言向け和平(やは)せ」
草根集(1473頃)四「いぐしさすしでにあらふる神やまずなごやかならぬ瀬々の川浪」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「荒神」の意味・わかりやすい解説

荒神
こうじん

一般に屋内のいろりやかまどなど火を使う場所に火の神として祀(まつ)られる三宝(さんぼう)荒神と、屋外に祀られて屋敷神や同族神、地域の守護神として機能する地(じ)荒神とに大別される神格。祭場の形状から前者を内(うち)荒神、後者を外(そと)荒神などとよぶ所もある。いずれも験力あらたかな、荒々しく祟(たた)りやすい神と信じられている。三宝荒神は火の神という性格が顕著だが、作神としての性格も認められる。田植のときに苗を供えたり、刈り上げのときに初穂を供えるなど農耕儀礼とかかわっている。ただ、火の神として荒神とともにかまど神を併祀(へいし)する地域では、前者を火伏せの神、後者を作神と区別する傾向がみられる。火伏せや作神のほかにも、産の神、牛馬の神といった多岐にわたる内容をもつが、広く行われているのは荒神墨とよぶかまどの墨を生児の額につけて魔物除(よ)けとする風習である。九州地方では川遊びの際にこれをつけると、河童(かっぱ)に尻(しり)を抜かれないと伝えられている。一方、地荒神は中国地方を中心に、四国や北九州で祀られている。多くの場合、旧家の屋敷地や山裾(やますそ)の自然木や小祠(しょうし)を信仰の対象とするが、荒神ブロとよんで一区画の森を神聖視する地域もある。屋敷神となっている場合を屋敷荒神、株のような同族的な色彩の濃い集団によって祀られているものを株荒神、一定の地域の人々によって祀られているものをウブスナ荒神あるいはヘソノオ荒神などとよぶ。荒神信仰の拡大については山伏や法印などの民間の宗教者が大きな役割を果たしているといわれているが、中国・四国地方で盛んな荒神籠(ごも)りは荒神信仰の古態を示すものとして注目される。

[佐々木勝]

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改訂新版 世界大百科事典 「荒神」の意味・わかりやすい解説

荒神 (こうじん)

荒神の信仰は,(1)屋内の火所にまつられ,火の神,火伏せの神の性格をもつ三宝荒神,(2)屋外にまつられ,屋敷神,同族神,部落神の性格をもつ地荒神,(3)牛馬の守護神としての荒神に大別される。東日本では,火の神としての荒神と作神としてのオカマサマを屋内に併祀する形が多い。西日本では(2)のタイプが顕著であり,集落単位でまつる荒神はウブスナ荒神と呼ばれ,作神ひいては生活全般の守護神のように考えられている。(3)のタイプは鳥取,島根,岡山県などに濃厚で,その信仰的中心は伯耆大山であったらしい。荒神信仰の3タイプが初めから併存していたわけではなく,地荒神から三宝荒神への展開が推測される。最近まで陰陽師,山伏,地神盲僧などが〈荒神祓い〉と称して,各戸の三宝荒神や土地の神を清めて回る風があった。荒神という呼称を流行させ,また複雑な荒神信仰を解説し宣伝して回ったのは,これらの民間宗教家たちであろう。
竈神(かまどがみ)
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百科事典マイペディア 「荒神」の意味・わかりやすい解説

荒神【こうじん】

たたりやすい神。三宝荒神は火の神,竈神(かまどがみ)で,毎月晦日(みそか)の祭を荒神祓(はらい)と呼び,松の小枝に胡粉(ごふん)をまぶした荒神松を供える。地荒神は屋敷神,同族神,村落神の性格をもち,中国地方では荒神森という場所の大樹や,その下の塚をまつり,藁縄(わらなわ)を蛇体(じゃたい)のように巻いたのを供える。祭日は28日。ほか牛馬の守護神としての荒神も知られる。
→関連項目家相神棚癖地さなぶり火の神屋敷神

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「荒神」の意味・わかりやすい解説

荒神
こうじん

三宝荒神ともいう。竈神 (かまどがみ) および地神のこと。地主神,山の神をもいう。激しい性格の,たたりやすい神であるのが通例。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「荒神」の解説

荒神 こうじん

民間信仰の神。
かまどなど火をつかうところに火の神としてまつられる三宝荒神と,屋敷や同族・地域をまもる地(じ)荒神,および牛馬の守護神としての荒神にわけられる。霊験あらたかな,あらあらしい神とされる。

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世界大百科事典(旧版)内の荒神の言及

【竈神】より

…【伊藤 亜人】
[日本]
 《古事記》には奥津日子神(おきつひこのかみ)と奥津比売命(おきつひめのみこと)が〈諸人(もろひと)の以ち拝(いつ)く竈の神〉とあり,また古代宮廷では内膳司に竈神が祭られていた。のちには修験者や巫女が荒神祓や竈祓を通して竈神の祭祀に関与してきた。民俗の中では,竈神は火伏の神や火の守護神であると同時に,食物や農耕の神ともされ,田植後に稲苗,収穫期に稲の初穂が供えられ,小正月には予祝として餅花が供えられた。…

【職業神】より

…だが丁場(ちようば)と呼ばれる石切場で石材採掘をする山石屋のあいだでは山の神をまつる風習があり,11月7日に丁場にぼた餅,神酒を供えてまつり一日仕事を休む。 冶金,鋳金,鍛鉄の業,すなわち鑪師(たたらし)や鋳物師(いもじ),鍛冶屋の神としてその信仰のもっともいちじるしいのは荒神,稲荷神,金屋子神(かなやごがみ)である。荒神は竈荒神,三宝荒神の名があるように一般には竈の神,火の神として信仰され,なかには別種の荒神として地神,地主神あるいは山の神として信仰される場合もあるが,鍛冶屋など火を使う職業の徒がこれを信仰することは,火の神としてまつられる荒神の性格からきたものであり,それには修験者や陰陽師などの関与もあった。…

【ニワトリ(鶏)】より

…このように鶏は神聖化されたので,鶏肉や鶏卵を食することはおろか,その飼養もしない地方がある。反対に,荒神(こうじん)は鶏を好むというので,赤子の夜泣き封じに鶏の絵馬を奉納する例もある。鶏にまつわる俗信は多く,宵鳴きを凶兆と考えたり,鶏を使って溺死人を探索したりした。…

【留守神】より

…神無月(かんなづき)(旧暦10月)には,日本中の神々が出雲の出雲大社に集まるという伝えが平安時代からあるが,そのとき留守居をするという神がある。一般には,オカマサマあるいは荒神(こうじん),恵比須,大黒,亥子(いのこ)の神を留守神としているところが多く,これらの神は,家屋に定着した家の神である点で共通する。武蔵の総社である六所明神(大国魂神社)や信濃の諏訪明神(諏訪大社)など,各地の大社には,神の本体が蛇なので出雲に行かないという伝えがある。…

※「荒神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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