改訂新版 世界大百科事典 「葛網」の意味・わかりやすい解説
葛(桂)網 (かつらあみ)
葛寄せ網などともいい,主としてタイ漁に用いられた。摂津,紀伊,瀬戸内海を中心に室町時代末期ごろから発達したのではないかとみられている。江戸時代になると筑前,長門,肥前,肥後,薩摩,尾張,江戸湾などにも普及して,その規模もかなり大きくなっていった。これは漁網のほかに振縄と称する威嚇縄具(長大な幹縄にたくさんブリ板をつり下げたもの)を用い,それで海底を引き回してタイを深処より浅瀬に追い出し,その背後から地引網をかけ回すか(地漕(じこぎ)網),浅処に浮き上がったタイを旋(まき)網で捕獲するか,あるいは敷網を入れておきその上に魚群を追い込んでとるか,地方によって漁網自体はさまざまであった。いずれにしろ規模はかなり大きくなり,江戸時代末期や明治初期の例でみると,引網であった肥後の葛網は漁船15隻,漁夫40人を必要とするものであった。また上総国君津郡で用いられていた敷網の桂網は漁船5隻,漁夫34~39人を必要としていた。
執筆者:二野瓶 徳夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報