日本大百科全書(ニッポニカ) 「蒸留装置」の意味・わかりやすい解説
蒸留装置
じょうりゅうそうち
distillation column
蒸留、すなわち液体混合物を、その成分の揮発度(成分の蒸発のしやすさを表す尺度で、成分の分圧pと、モル分率液濃度xの比p/xをいう)の差を利用して各成分に分離する装置の総称。
蒸留は紀元前から用いられていた古い分離法であるが、初期はほとんど単蒸留で、空気冷却による器壁での部分凝縮(分縮)の効果を利用するようになったのは、紀元後数世紀を経てからである。さらに分縮を意識的に利用して、分離効果を増すため蒸留装置から出た蒸気の一部を冷却凝縮して液として戻す還流を行うようになったのは、比較的近年(19世紀初頭)であるが、この還流を行う蒸留を精留とよぶ。現在はこれが普通であるので、工業的には蒸留と精留を同義に使っている。
工業的に蒸留(精留)を行う気液接触装置として、棚(たな)段塔や充填(じゅうてん)塔が用いられる。大規模でしかも連続蒸留の場合は、だいたいにおいて棚段塔が普通で、段としては泡鐘(ほうしょう)段、多孔板などが用いられる。小規模の連続蒸留または回分蒸留には、充填塔が用いられることが多い。
塔頂からの蒸気を凝縮器で凝縮した液の一部は、還流として塔頂に戻し、残りを留出液として塔外に取り出す。また、塔底からの液の一部をリボイラーで加熱して塔底に返し、残りを缶(罐)出液として塔外に取り出す(リボイラーをとくに設けず、塔底に設けた蒸留缶で液の一部を蒸発させ、残りを缶出液として取り出してもよい)。
原料液は塔中央部から連続的に供給され連続蒸留が行われるが、原料供給部分より上を濃縮部、下を回収部という。回分蒸留の場合は、原料液を蒸留缶に仕込み、運転開始時は塔頂からの蒸気を全量凝縮させて塔頂へ戻す全還流で操作し、塔全体が定常状態に達してから還流を行いながら、留出液を取り出す。
[早川豊彦]