蠣船(読み)かきぶね

改訂新版 世界大百科事典 「蠣船」の意味・わかりやすい解説

蠣船 (かきぶね)

川岸に係留した船の内部に座敷をしつらえ,カキ料理を供する料理店。大阪,広島をはじめ瀬戸内地方,京都,和歌山などに見られる。安芸国草津村(現,広島市西区)の漁民は,元禄(1688-1704)ころから船にカキを積みこんで大坂へ回漕して販売を行っていた。たまたま1707年(宝永4)12月の大坂の大火にさいし,蠣売船の者が高麗橋西詰の高札場の高札を守った功によって,幕府から大坂の川筋における独占営業権を許され,以後カキの販売とともにカキ料理をするようになったという。はじめは草津村の船だけがこの営業を独占していたが,寛保年間(1741-44)にいたって仁保(にほ)島(現,広島市南区)の14艘の船も〈草津牡蠣株〉を得て営業するようになった。例年晩秋に来て翌春広島へ帰ったが,数十艘が同時に来航して開店し,帰航するのも同時であった。来航時は播磨の室津(むろのつ)(現兵庫県たつの市)まではばらばらにやってくるが,そこで勢ぞろいしてそのまま大坂にこぎ入るのだと《浪華百事談》は記している。現在の蠣船はだいたい1ヵ所に固定された船形の水中料亭ともいうべきもので,夏は川魚料理などを行い,年間を通して営業しているところが多い。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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