カキ(読み)かき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カキ」の意味・わかりやすい解説

カキ(柿)
かき / 柿
[学] Diospyros kaki L.f.

カキノキ科(APG分類:カキノキ科)の落葉高木。染色体数は2n=90。原生地は中国、朝鮮、日本といわれるが、初めは中国中部であったものと考えられる。幹は直立し、よく分枝し、若枝には細毛を密生する。成木の樹皮は鱗(うろこ)状に亀裂(きれつ)を生ずる。葉は互生し短い葉柄をもち、短楕円(だえん)形で先端はとがり、長さ約10センチメートル、革質で全縁、表面は平滑で光沢がある。秋に紅葉する。虫媒花で、雌花のみをつける雌株、雌花と雄花をつける雌雄同株、雌花と雄花および両性花を混生する雌雄同株、雄花のみをつける雄株とがある多形雌雄異株性を示す。花はいずれも腋生(えきせい)し、淡乳白色。雌花は短い花柄をもって単生し、花径約2センチメートル。雄花は1個ないし数個からなる集散花序につき、花径0.7~1センチメートル。いずれも緑色の4裂片の萼(がく)をもち、花冠は壺(つぼ)状で、先端は4裂し反転する。雌花には通常、退化した8本の雄しべと8裂した雌しべをつける。子房は大きく、8子室で各室1個の胚珠(はいしゅ)をもつ。雄花には11~25本、通常は16本の雄しべがあり、内外2列に配列する。開花は5月下旬から6月上旬、蜜(みつ)を分泌し芳香が強い。果実は大小さまざまで、円、楕円、扁円(へんえん)、円錐(えんすい)、長円錐形などがある。果皮は9月下旬から11月にかけて黄ないし黄赤色となり、甘柿は脱渋(だつじゅう)して甘くなるが、渋柿はなお渋い。甘柿、渋柿ともにさらに熟度が進むと、果肉は赤橙(せきとう)色を増し、肉質が軟化し、熟柿(じゅくし)となり、渋柿も甘くなる。果色はカロチンおよびリコピンによる。

[飯塚宗夫 2021年3月22日]

栽培史

カキの栽培は中国がもっとも古く、2500年前の『礼記(らいき)』に記載がある。中国中部陝西(せんせい)省を含む地方では、前漢の文学者司馬相如(しばしょうじょ)による『上林賦(じょうりんのふ)』に栽培適地が記されており、6世紀前半の農書『斉民要術(せいみんようじゅつ)』には、ひこばえの利用とマメガキを台木とした接木(つぎき)繁殖の方法が記されている。また11世紀中期の本草書『経本草(とうけいほんぞう)』には多数の品種があり、朱色の品種も記載がある。今日では、東北区、内モンゴル、チベットなど冷涼地や高地を除く多くの省で栽培されている。大別して北方系は耐寒性、耐乾燥性があり、果皮は薄く果色は淡いが、南方系は耐寒性、耐乾燥性は弱く、果皮は厚く果色は濃い。品種は200種以上あり、磨盤柿、重台柿などは生食用、牛心柿、尖柿、鏡面柿などは加工用として広く栽培され、干し柿の輸出もみられる。朝鮮での栽培は南部に多く、舎谷柿(しゃこくし)、清道柿(せいどうし)などの渋柿が名高い。ヨーロッパへは19世紀に中国から、またアメリカへは19世紀なかばに日本から導入された。ブラジルへは日本移民によって導入されたものが多く、甘柿、渋柿ともに広まっている。

 日本での栽培も古く、『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918)に加岐、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(931~938ころ)には賀岐と記されている。また『延喜式(えんぎしき)』(927)によれば、熟柿や干し柿が利用され、宮廷でも栽培された。当時のカキの実は小さかったのか升目で量られた。また甘柿、渋柿の区別はなかった。甘柿、渋柿の区別が現れるのは1300年前後の作とされる『庭訓往来(ていきんおうらい)』以降で、樹淡(きざわし)、木練(こねり)は甘柿を、かきは渋柿を意味したといわれ、熟柿や串(くし)柿も記されており、鎌倉時代には甘柿が栽培されていたことがわかる。古い品種として知られる禅寺丸(ぜんじまる)は1214年(建保2)に、現在の神奈川県川崎市柿生(かきお)の王禅寺の星宿山(せいしゅくさん)蓮蔵院(れんぞういん)の再建に際し、山中で偶然に発見され、当初は王禅寺丸とよばれたが、当時としてはよい品種で普及し、のちに禅寺丸とよばれるようになったという。室町時代の『尺素往来(せきそおうらい)』には柿と稗柿(ほしがき)および串柿の別があげられている。17世紀後半になると『雍州府志(ようしゅうふし)』に木練、五所(ごしょ)柿、筆柿、渋柿、木醂(きざわし)柿、醂柿、鈎(つるし)柿、転(ころ)柿がみえ、品種や脱渋法、干し柿乾燥法などが紹介され、また同じころの『農業全書』には木練、御所(ごしょ)柿などの品種がみえる。18世紀になると品種も増え、江戸時代、享保(きょうほう)~元文(げんぶん)期(1716~1741)にかけて、水戸藩の『御領内産物』には御所、蜂屋(はちや)、美濃、四ツ溝、妙丹などが紹介され、金沢藩の『加州物産志』には、御所、円座(えんざ)、蜂屋、八平子(はちへいじ)、妙丹、西条など45品種が記録されている。また『長防二州産物彙』は、西条、葉隠(はがくし)、祇園坊など36品種をあげている。このように、今日栽培される多数の品種は18世紀中ごろにはすでにあり、19世紀、江戸末期の『本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)』(1803)には200余品種ありとし、中国との品種の対照考察も行われている。さらに明治に入ると、1902年(明治35)に設立された農務省農事試験場園芸部は全国的に優良品種の調査と収集を行い、富有(ふゆう)、次郎、平核無(ひらたねなし)、横野(よこの)などを紹介した。さらに、大正、昭和へと進み、全国的に地方の品種が判明するにつれて品種数は増し、菊池秋雄によれば、昭和初期にはその数800~1000種と推定された。

 このような品種の特異的分化は、カキが日本の風土に適し、自然、人為を問わず実生(みしょう)個体がよく育ち、実生から実生へと代を重ねることができ、この間に農民によって選抜され、「わが家の柿こそ日本一」との誇りによって支えられてきたものと考えられ、有名品種が各地方随所に散在するのはこのためである。果樹園としての近代的栽培が始まったのは大正初期ころからで、今日、甘柿では富有、次郎を主とし、伊豆、西村早生(わせ)、花御所、水島、伽羅(から)、甘百目(あまひゃくめ)などが栽培され、渋柿では平核無、会津身不知(みしらず)、四ツ溝、甲州百目、葉隠、堂上(どうじょう)蜂屋、市田柿、横野、祇園坊など、地方特有品種の栽培が多い。なお、柿には完全甘柿と完全渋柿とがあり、両者の間に多様の変異があり、脱渋に難易の差がある。これは果実内の種子数と果肉への褐斑(かっぱん)の入りぐあいや、発育期の気温の高低(高いほうが脱渋しやすい)などにより、果肉内への渋の残留程度が異なることによる。

[飯塚宗夫 2021年3月22日]

栽培

沖縄と北海道を除く日本全土で栽培できる。渋柿は東北地方でもよいが、甘柿は寒冷地では渋が残るため営利栽培は新潟と福島県までで、柑橘(かんきつ)類がよくできる地帯によいものができる。土壌は、保水力が強く停滞水のない埴土(しょくど)ないし埴壌土がよい。繁殖は接木により、寒地ではマメガキ台、暖地では共台(ともだい)(実生苗)を用いるが、マメガキ台には富有、次郎、横野などのように接木不親和の品種もあり、この場合は共台による。萌芽(ほうが)期の晩霜に弱い。「モモ、クリ三年、カキ八年」といわれるように、栽培は長年月が必要と考えられているが、一般宅地内でも、炭疽(たんそ)病やカキヘタムシなどに注意すればよくできる。炭疽病には病斑(びょうはん)部切除のほか、発芽直前に「クロン」200倍液を加えた石灰硫黄(いおう)合剤10倍液を散布する。発育中には降雨前にチオファネートメチル剤(「トップジンM」水和剤)1500倍液を散布する。これらによって、うどん粉病、黒星病なども防止できる。カキヘタムシは年2回発生するので、1回目の発生期の6月上旬と下旬、2回目の発生期の8月上旬と下旬に計4回、「スミチオン乳剤」800倍液を散布する。植え付けは品種による強弱はあるが、普通の土壌で10アール当り40本植えとし、雌雄の性質に注意し、雌花だけをつける品種には、授粉用として雄花をもつける品種を混植する。肥料は10年生圃場(ほじょう)で窒素13キログラム、リン酸9キログラム、カリ13キログラムとする。多くの品種が隔年結果性をもつので、毎年実をつけさせるには、結実しすぎないように毎年剪定(せんてい)し、強い結果枝をつくり、また、肥料不足にならないようにすることで解決できる。

 1999年(平成11)の栽培面積は約2万5000ヘクタール、そのうち富有、次郎で1万0700ヘクタール、そのほかの甘柿が2820ヘクタール、渋柿が1万1300ヘクタールとなっている。甘柿は福岡、岐阜、奈良県に、渋柿は山形、福島、和歌山県でよく栽培される。

[飯塚宗夫 2021年3月22日]

 2018年(平成30)の栽培面積は1万9100ヘクタール、そのうち和歌山県が2530ヘクタール、奈良県が1800ヘクタール、福岡県が1250ヘクタール、岐阜県が1240ヘクタールとなっている。

[編集部 2021年3月22日]

カキノキ属

カキノキ属の植物はアジア、アフリカを主とし、アメリカ大陸にも広く分布し、ユウクレア属Euclea、リッソカルパ属Lissocarpaとともにカキノキ科に属する。常緑または落葉性の高木ないし低木で、果樹のほか用材、魚毒、染料、薬用などのほか、地方ごとにさまざまな用途があり、きわめて広く利用される。果実を食用とする種類は、おもなものはカキのほか数種で、地域的には多数あるが、そのなかではメキシコ原産のブラックサポテは優れた種類である。

 用材としてはコクタンが広く知られ、約50種ある。また薬用としては、カキのへた(宿存花萼(かがく))を乾燥したものを柿蒂(してい)といい、煮汁を服用すると古来えつき(しゃっくり)に効くといわれ、特効薬とされてきた。柿渋や葉も民間薬として用いられている。

[飯塚宗夫 2021年3月22日]

 カキノキ属が属するカキノキ科EbenaceaeはAPG分類でもカキノキ科とされる。カキノキ科は、世界の熱帯・亜熱帯を中心に4属800種ほどが知られ、日本にはカキノキ属8種がみられる。

[編集部 2021年3月22日]

栄養

甘ガキの生果実中には、ブドウ糖(6%)、果糖(4%)を主とする炭水化物15.9%、タンパク質0.4%、脂質0.2%、灰分0.4%を含み、果肉100グラム中にビタミンAをカロチンとして0.12ミリグラム、B1を0.03ミリグラム、Cを70ミリグラム含み、熱量は約60キロカロリーである。

[飯塚宗夫 2021年3月22日]

脱渋

果実の渋味が感じなくなる現象を脱渋(だつじゅう)といい、甘と渋の差は脱渋の早晩による。柿果の渋味は、組織中に存在するタンニン細胞中のシブオールの可溶性に基づくといわれてきた。シブオールはポリフェノールの一種であるロイコアントシアンであると考えられ、これが果実内で可溶性の状態にあれば渋く、不溶性であれば本来果実内に蓄積されている糖類により甘い。つまり、果実の発育に伴って、甘柿ではシブオールの不溶化が比較的早くからおきるが、渋柿では熟柿(じゅくし)になるまでおきない。さわし柿は、渋柿の果実中に人為的にアセトアルデヒドなどの生成を促し、これと溶解性の渋味物質とを縮合させて不溶性にしたものである。果実内のごま(褐斑(かっぱん))はこれが酸化したものである。脱渋した果実のタンニン細胞のタンニンは、細胞内または破裂した細胞外で凝固、収縮している。

[飯塚宗夫 2021年3月22日]

さわし柿の作り方

(1)酒精脱渋法 昔は酒樽(さかだる)に清酒を用いて脱渋していたため樽抜(たるぬき)法ともいうが、今日ではビニル袋を用いている。渋柿果実20キログラムに対し、35%の酒精80ミリリットルを噴霧し、これをビニル袋に層状に詰めて密閉し、箱詰めにする。数日で脱渋し甘くなる。家庭では1果ごとにへたの部分を酒精に漬けて処理し、2個ずつへた部をあわせて新聞紙に包み、これを厚手のビニル袋内に空気を少なくして密閉し、数日室内に置くと脱渋する。焼酎(しょうちゅう)またはウイスキーを用いてもよい。

(2)温湯脱渋法 45℃の温湯に果実を浸漬(しんし)し、冷えないように注意して十数時間保つと甘くなる。

(3)炭酸ガス脱渋法 液化炭酸ガスやドライアイスなどを用いて脱渋する。

 このほか石灰乳浸漬法、火熱法などでも脱渋する。

[飯塚宗夫 2021年3月22日]

干し柿

渋柿を堅いうちに収穫して皮をむき、天日や火力で乾燥させて甘くしたものが干し柿である。製造法によって串(くし)柿、転(ころ)柿、つるし柿などとよぶ。天日乾燥では、3~4週間乾燥したのちに取り込み、乾果をもんで柔らかくする芯(しん)切りをし、3~4日風に当てずに置く。その後さらに3~4日天日乾燥をして、また取り込む。これを2~3回繰り返すと白粉を帯びる。この乾果を稲藁(いねわら)と交互に層状に蓄えると、ブドウ糖や果糖からなる白い粉がふいてくる。空気の乾燥している福島、山梨、長野、山形県などで多くつくられる。干し柿の黒変を防ぐには硫黄(いおう)薫蒸を行うとよい。硫黄が燃えて亜硫酸ガスができ、これが果実内の水と反応して亜硫酸ができる。これによりタンニンの酸化褐変を防ぐ。硫黄は1立方メートル当り10グラム、10~20分の薫蒸でよい。むいた皮は乾燥して家畜の飼料とするほか、漬物などの甘味源とする。なお、干し柿の二次加工として徳島の巻柿、岐阜の柿羊羹(ようかん)などがある。

[飯塚宗夫 2021年3月22日]

その他の利用

柿渋は、もぎたての若い果実やマメガキをつぶして搾汁を集め、これを自然発酵させ、1~2年冷暗所で熟成させてできた上澄み液である。漆器の下塗り、渋紙に利用し、蚕座の麻網や麻製漁網などの補強に用いた。また、清酒醸造過程の清澄剤として用いられる。落下した未熟果を集め、発酵熟成させた濾液(ろえき)を柿酢(かきす)とよび、食用とする。柿材のなかで心材の黒いものを黒柿材(くろがきざい)とよび、家具に珍重される。また、材はゴルフのクラブの部品ともする。

[飯塚宗夫 2021年3月22日]

民俗

カキは古くから栽培されてきただけに実用として用いられるほか、民間信仰とかかわる多様な民俗をもっている。小正月(こしょうがつ)に各地で行われる「成木責(なりきぜ)め」でも、他の果樹のなかではカキが主たる対象となっている。問答形式をとるこの儀礼は、1人が鋸(のこぎり)や鉈(なた)を手にして果樹に向かい、「成るか成らぬか、成らねば伐(き)るぞ」と問いかけながら樹皮にすこし傷をつけ、他の1人が「成ります成ります」と答えてその傷に小豆粥(あずきがゆ)を塗るものである。すなわち、問いかけ→威嚇→誓約→報酬という手順を経てカキの実の豊穣(ほうじょう)を祈るもので、さらに敷衍(ふえん)させてイネの豊作を予祝する行事とみなすこともある。カキの豊穣性(実が多くなるという)にあやかろうと、新婚夫婦が初夜の床でカキについて問答する習俗もみられる。また、各地に流布する柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)伝説のなかには、人麻呂はカキの木の下に出現した神童で、カキの木の叉(また)から生まれたと伝えるものもある。これとは逆に、継子(ままこ)の死体をカキの木の下に埋めるという話が昔話の「継子と鳥」のなかで語られており、さらにはカキの木の下から妖怪(ようかい)が現れるといった俗信もある。こうしたことからカキは、生命を媒介する、あるいは他界と現世とを媒介する存在としてとらえられていたとも考えられ、盆や正月の食べ物、供え物として特別視されているばかりでなく、さまざまな禁忌や俗信を伴っている。なお、このような民俗のほかにも、昔話の「猿蟹合戦(さるかにがっせん)」や「茶栗柿(ちゃくりかき)」「絵姿女房」「柿十(かきとお)と十一(じゅういち)」などのなかで、カキは重要な構成要素として登場している。

[松崎憲三 2021年3月22日]



カキ(牡蠣)
かき / 牡蠣
oyster 英語
huître フランス語
Auster ドイツ語

軟体動物門二枚貝綱イタボガキ科に属する二枚貝の総称。カキ類は左殻で岩などに付着し、右殻はやや小さく膨らみも弱く、あたかも蓋(ふた)のようである。両殻片のかみ合せには明らかな鉸歯(こうし)がなく、黒い靭帯(じんたい)で結ばれている。左殻の殻頂から靭帯にかけて溝が走る。殻表は成長脈が薄片状に発達し、放射肋(ろく)や棘(とげ)状突起が生じる。殻の内側は白い種が多いが、紫色や黄褐色を帯びる種もある。軟体部は中央に貝柱(閉殻筋)が一つある。

 カキのなかにはマガキなど卵生種とイタボガキなど胎生種がある。卵生種は各個体の雌雄性が明らかで、雄から雌、さらにまた雄という性転換をする交替性の雌雄同体である。胎生種は生殖腺(せん)に卵子と精子の両方できるが、雌性に偏った個体と雄性の強い個体がある。一般に環境が不向きで成長の悪い個体や、産卵後消耗の激しいときは雄性が強くなる。肉眼的には卵巣と精巣の区別はつきにくい。産卵は、日本のマガキでは水温の高い夏を中心に行われ、水温15~30℃の範囲であるが、受精卵が孵化(ふか)してD字状の浮遊幼生になれるのは21~26℃の範囲である。受精後およそ3週間でスパットとよばれる沈着幼生となり他物に付着する。殻は1年で7センチメートル、重量60グラムぐらい、2年で10センチメートル、140グラムぐらいになる。

 種類によってすみ場所が異なり、マガキは内湾奥の塩分18~23の潮間帯の岩に付着しているが、外洋性のケガキやオハグロガキなどは塩分26~34の外洋水の影響のある岩礁にすむ。食餌(しょくじ)は珪藻(けいそう)のようなプランクトンで、外套膜(がいとうまく)の後方はハマグリ類などのように水管にはなっていないが、外套膜の一部が接着してつくられる入水孔から呼吸水とともに取り入れ、えらで濾(こ)し取る。えらを通過する海水の量は、1日平均で1時間につき0.4~1リットルという資料がある。摂餌量が消費エネルギーを上回ったときはグリコーゲンとして蓄えられる。

[奥谷喬司]

有用種

日本のみならず、ヨーロッパやアメリカでもカキ類は「海のミルク」とよばれて食用にされ、重要な種は養殖されている。

(1)マガキCrassostrea gigas 卵生種で、樺太(からふと)(サハリン)から日本全土、朝鮮半島、沿海州、中国沿岸に分布する。日本ではもっとも普通に養殖され、宮城県、広島県などが主産地で、アメリカにも種ガキが輸出されている。シカメ、ナガガキ、エゾガキなどは本種の生態型に与えられた名である。とくにナガガキは北海道の厚岸(あっけし)湖やサロマ湖に産し、殻長8センチメートル、殻高35センチメートルにもなる長大型で、殻も厚く甚だ重い。

(2)スミノエガキC. ariakensis 有明(ありあけ)海を中心に華北などの内湾潮間帯にすむ。殻長9センチメートル、殻高16センチメートルぐらいになり、大形の個体は24センチメートルにもなる。マガキに比べて殻は平低で、成長肋が檜皮葺(ひわだぶ)き状になり、紫褐色である。食用としておもに有明海方面で養殖される。熊本県地方などで生産されるのは主として本種である。和名は主産地の佐賀県の住ノ江(六角川の河口部)にちなむ。ヒラガキ、サラガキの別名がある。卵生種。

(3)イタボガキOstrea denselamellosa 本州以南の日本各地から中国沿岸に分布し、マガキよりいくらか塩分の高い場所の低潮線から10メートルぐらいの深さにすみ、地物にもつくが互いにくっつきあって団塊状になる。殻は円板状で、殻表は檜皮葺状の殻皮で覆われる。内面は白い。胎生種。内湾の桁網(けたあみ)でとられる。第二次世界大戦前、養殖が試みられたが、採苗が困難なため実用とならなかった。

(4)イワガキC. nippona 陸奥(むつ)湾以南の外洋で潮間帯下の岩礁に固着している。大形なのでクツガキ、また、他のカキ類の旬(しゅん)が寒い時期なのに反して夏季に美味なのでナツガキの異名もある。卵生種。

(5)アメリカガキ(バージニアガキ)C. virginica 北アメリカ大西洋岸原産種。卵生種。

(6)オリンピアガキO. lurida 北アメリカ大西洋岸原産種。胎生種。

(7)ヨーロッパガキ(ヨーロッパヒラガキ)O. edulisヨーロッパ沿岸産。フランス南西部のアルカションなどで大規模に養殖され、フランスガキともよばれる。胎生種。

(8)ポルトガルガキC. angulata 南ヨーロッパの食用種。卵生種。

(9)オーストラリアガキSaxostrea commercialis オーストラリア東岸産。日本のケガキS. kegakiやオハグロガキS. mordaxに近い卵生種。

(10)ボンベイガキ(カンムリガキ)S. cucullata インド沿岸産。前種に近い。卵生種。

[奥谷喬司]

養殖

簡単な養殖は古くから中国(宋(そう)の時代)で行われ、ローマ時代にはナポリで地蒔式養殖(じまきしきようしょく)が行われていた記録がある。日本では、江戸初期の1670年(寛文10)ごろ安芸(あき)国草津(広島市西区)で、海中に建てたひびに付着したマガキからヒントを得て、小林五郎左衛門が養殖を始めたといわれ、1923年(大正12)に妹尾秀実(せのおひでみ)、堀重蔵(じゅうぞう)が筏式垂下養殖法(いかだしきすいかようしょくほう)を考案した。海中を浮遊する幼生が0.4ミリメートルぐらいになり他物に付着するころを見計らい、瓦(かわら)やカキやホタテガイの殻を連ねた付着器(コレクター)を海中に入れ稚貝を付着させる。付着稚貝は4~5日たつとゴマ粒のような種ガキ(スパット)になる。筏式垂下養殖は、筏が潮の干満とともに上下するためカキはつねに水中にあり、餌(えさ)をとる時間が長く成長がよい。春にスパットのついた付着器(カキの成長にあわせてホタテガイの貝殻などの間隔をあける)を海に入れると、冬季には販売可能な大きさまで成長する。種ガキの主産地は宮城県で、生産地は三陸各地や広島県、有明海などである。種ガキは北アメリカへも輸出される。マガキの場合も、ヨーロッパやアメリカの食用ガキと同様冬季がもっとも肥えていて美味で、それらの国々でよくいわれるように「Rのつかない月」(5~8月)はやせているばかりでなく、気温が高くいたみやすいので生食(なましょく)用には向かない。生食用には清潔な環境で養殖された生きのよいものがよく、市場でも生食用(酢ガキ、生ガキ用)と加熱用(フライ、土手鍋(なべ)用など)と区別されている。カキは自分の体内に入った不要物を排出する自浄作用をもつ。この作用を利用し、殺菌した海水の流水中に一昼夜程度飼って体内にあった大腸菌やその他の有毒微生物を排出させたものが「無菌ガキ」という商品名で市場に出されている。

[奥谷喬司]

栄養

無機質ではとくに鉄分や亜鉛が多く、ビタミンAもやや多く、栄養的に優れた食品である。甘味があっておいしいが、これはグリコーゲンによるものである。コレステロールはやや多いが、食べすぎなければ心配するほどの量ではない。

河野友美・大滝 緑]

料理

冬が甘味が増しておいしい。Rのつく月がよいとされるのも、この点も含まれていると思われる。鮮度が落ちやすいから新鮮なものを選ぶ必要があるが、新しいものは、貝柱の部分が半透明で、古くなるとこの部分が白濁する。貝(軟体部)全体も新しい間はこんもりとしているが、古くなるとだらりとして白っぽくなってくる。さらに鮮度が落ちると黄色みを帯びてくる。生食にするものは、かならず生食用と表示されているものを用い、期日までに食べ、すこし古くなったものは生食用でも火を通すことが必要である。殻付きのもので、完全に浄化した生食用のものもある。冷凍の生食用もある。カキの味は香りにあり、料理にはなるべく鮮度のよいものを用いる。むき身は、だいこんおろしに同量の水を加えたものの中で混ぜたのち、ざるにあけ、塩水で2~3回振り洗いするとぬめりや貝殻がきれいに落ちる。生食ではオイスターカクテルや酢ガキにする。カクテルは、氷でよく冷やした生ガキに、トマトケチャップ、レモン汁、おろしホースラディッシュ、塩、こしょう、白ワイン、タバスコなどをあわせたカクテルソースをかける。酢ガキは二杯酢やポンス(ぽん酢)を用いる。加熱調理では、フライ、コキール、土手鍋(なべ)、ベーコン焼き、汁物など幅広く使用できる。土手鍋は、鍋の周囲にみそを塗り付け、中にだしとカキ、ネギ、焼き豆腐、糸こんにゃくなどを入れ、まわりのみそを少しずつ溶かして煮ながら食べる。

[河野友美・大滝 緑]


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改訂新版 世界大百科事典 「カキ」の意味・わかりやすい解説

カキ (柿)
kaki
(Japanese)persimmon
Diospyros kaki Thunb.

果実を食用にするため広く栽培されるカキノキ科の落葉高木。東アジア温帯に固有。多くの枝を分けて広がった樹冠を作り,楕円形で鋸歯のない大型の葉をつける。高さ5~10m,若枝は灰褐色,古くなると灰黒色となり,多数の縦に走る割れ目が入る。葉は長さ4~17cm,幅4~10cmで厚みがある。初夏,新しい枝の葉のわきに1花をつける。雄花・雌花・両性花があり,株によっては雄株・雌株に見えるものもある。萼は大きく緑色で4裂する。花冠はつぼ状で先は4裂し黄白色。雄花には16本のおしべがあり,雌花には1本のめしべと8本の退化したおしべがある。果実は液質で卵形,球形などさまざまである。野生のものをヤマガキvar.sylvestris Makinoといい,葉はやや小さく毛が多く,果実は小さい。
執筆者: カキは中国中北部,朝鮮,日本で古くから栽培されている。日本へは,最近の研究では奈良時代(8世紀)に中国より渡来したとする説が有力である。中国では紀元前2世紀に栽植の記録があり,日本では《和名抄》に野生品と栽培品との区別がなされている。

品種数はすこぶる多く800以上といわれ,果実の形状も大きさも変化に富んでいるが,営利栽培に適するものは多くない。甘柿と渋柿に大別され,さらに渋の抜けかたにより,完全甘柿と不完全甘柿,完全渋柿と不完全渋柿に分けられる(表参照)。ただし不完全渋柿である平核無(ひらたねなし)にはふつう種子がないので果肉に褐斑がなく,品質が優秀で渋柿の代表品種となっている。一般に甘柿は気温が低いと渋が残るため,気候温暖な中部以南でつくられ,渋柿は耐寒性がやや強く東北方面までつくられる。接木の影響で渋柿が甘柿に変わるようなことはない。

 栽培面積は約3万ha,果実生産約25万tで,主産県は山形,新潟,愛知,岐阜,奈良,和歌山,愛媛,福岡などである。1905年の果実生産量は18万tで,日本の主要果樹生産量中1位を占めていたが,現在ではかんきつ類,リンゴ,ナシにその座をゆずっている。果実は甘みに富むが,酸味・香気に乏しく,貯蔵性,加工適性に欠け,生産収益性がやや低いことや,現代の食生活における果実への好みの変化などがその理由と考えられる。

実生だと8年くらいかかるが,ふつう接木一年生苗を植え付け,約4~6年目で結実をはじめる。台木には栽培品種のほかにヤマガキ,シナノガキ(マメガキともいう)の実生が用いられる。腐植に富むやや粘質の壌土を好む。カキには雄花がつかない品種が多いので,花粉の多い禅寺丸などの授粉樹を植えるか,人工受粉をする必要がある。一年枝の先端部,2~3芽が花芽になるので剪定(せんてい)に注意する。また摘蕾(てきらい),摘果をして毎年平均してならせるようにする。カキは樹形がかなり大きくなるので,最近は小さめに仕立てられる台木や剪定法の研究が重要課題の一つになっている。カキミガ(ヘタムシ),カイガラムシ類,イラガ,炭疽(たんそ)病,落葉病などの防除もたいせつである。特定作物の間作により病虫害を防ぐくふうもされている。

果実には糖類,ペクチン,カロチノイド,ビタミンCが多く含まれる。カキにはショ糖よりもブドウ糖や果糖の含有量が多く,甘みを上品にし,ペクチンや渋がその独特な風味をつくり出している。果色は果皮のカロチノイド色素によるが,そのうちで濃朱色のリコピンの含量は初秋の日照条件と関係が深いといわれる。

渋柿は熟柿(じゆくし)にするか人工的な渋抜きを行う。渋抜きには湯抜き法,アルコール抜き法,(炭酸)ガス抜き法,凍結法などによりさわし柿にする方法と,干し柿または串(くし)柿にする方法がある。渋みは果肉中のタンニン細胞に存在する水溶性タンニンによる。果肉中のタンニン細胞が凝固,収縮,また褐変して褐斑ができたりすると,タンニンが不溶性となり渋みを呈さなくなる。果肉の品質や甘みの点では,むしろ渋柿のほうにすぐれたものが多い。

柿渋は,未熟の小型渋柿を破砕,搾汁,発酵させて上澄みをとった,淡赤褐色半透明の液体である。特有の香りがあり,昔は傘,渋紙など防水防腐に用いられたが,現今はおもに日本酒製造時の清澄剤として重要である。また染色など美術面での利用もある。

 干し柿(ころ柿)の表面に生じる白粉は果糖とブドウ糖である。干し柿はさらに,巻き柿,柿ようかんの製造や料理にも用いられ,またドライパックやシロップ漬の缶詰にして輸出される。生果実を貯蔵するには,凍結,ポリエチレン包装冷蔵,CA貯蔵,薬剤(ジベレリン)の葉面散布による年内樹上貯蔵などの方法がある。

 カキは近年欧米でも注目されはじめ,アメリカのフロリダ,カリフォルニア両州や南アメリカ,南ヨーロッパ諸国で栽植され,研究されている。
執筆者:

シナノガキD.lotus L.は西アジア原産で,葉の裏面が灰白色,果実は小さく直径1.5cmで熟すと黄色から紫色になり,ブドウガキともいう。未熟の果実から渋を採るため栽培された。
執筆者:

木になったまま完熟させた果実は,熟柿,木ざわし,木練(こねり)などと呼び,しばしば宴会の献立に用いられた。室町期の故実書には,不用意に食べると中から汁がとび出すから注意せよといった心得が書かれている。柿を使った菓子というと現在では柿ようかんに代表されるが,かつては柿糕(かきづき)(柿餻,柿擣とも),柿煎(かきいり)などがよく行われた。前者は熟した柿,あるいは干し柿の粉末をもち米粉にまぜて蒸したもの,後者は種を抜いた干し柿の中に水で練った糝粉(しんこ)を詰めて油で揚げたものであった。柿の葉鮨(ずし)はサバの脂の上に柿の葉を置いたもの,杮鮨は〈こけらずし〉と読み,飯の上にのせる魚貝の切身が杮葺(こけらぶき)のこけら板のように薄いための称である。
執筆者:

果実の宿存萼を漢方で杮蒂(してい)という。糖類,タンニン,トリテルペノイドを含み,他の薬物と配合して嘔吐,しゃっくり,夜尿症などに用いられる。柿渋はタンニン質シブオールshibuolを含み,凍傷の塗布薬とする。また干し柿の表面の白い粉を集めたものを柿霜餅(しそうへい)と称し,鎮咳(ちんがい),去痰などに,また滋養料にする。近年,葉を茶剤とした製品がある。民間薬として高血圧症に使われ,ビタミンCを多く含む。
執筆者:

カキは栽培の歴史が古く,《和名抄》には〈赤実菓也,音市,和名賀岐〉とあり,《延喜式》にも菓子類として熟柿や干し柿があげられている。古い農家はなん本かのカキを植え,食用のほか,調味料や染料にもするなど利用価値は高かった。しかし,本格的な果樹栽培は新しく,明治の末期からである。

 カキは甘い物が乏しかった時代には貴重な果実であったため,日本人にとってはなじみが深く,呪術や俗信も多く伝えられている。串柿は正月には鏡餅とともに供えられたり,歯固めや福茶に食べられるたいせつな食物である。小正月には,カキの木に対して成木責めを行う所が多い。また,カキの実は霊魂と深い関係があるとみられ,長野県の旧東筑摩郡では,人魂は生前に住んでいた家のカキの木に来てよりつくといい,お化けもヤナギではなくカキの木の下に出現するという。人魂を意味するテンビ,テンピが熟柿をさす所もある。カキの枝は折れやすく,死と関係のある伝承が多い。カキの木から落ちると3年以内に死ぬとか重傷を負うといい,カキの結実や食べる夢を見ても葬式の知らせがあるとか重病人が死ぬといわれる。カキの木は念珠や火葬用の薪としても使われ,普通の日にカキの木をたくことは忌まれている。もしたけば,失明するとか気が狂うといい,また歯が痛んだり,7代貧乏するなどといわれ,目や歯にたたることが多い。また,嫁入りにカキの苗木を持っていき,自分が死ぬと,その木で火葬にするという地方もあった。一方,カキの花を指さすと実を結ばないとか,カキの木をゆすると翌年実がならないともいわれ,カキが神聖視されていたとみられる。キマモリといって果実を最後に一つ残す風習も成木責め同様カキに対して行われることが多く,こうすると翌年実がよくなるという。また,昔話に登場するカキの木は天や地獄など異界とこの世を結ぶ境に立っていることが多い。
執筆者:



カキ (牡蠣)
oyster

岩礁に左殻で付着するイタボガキ科の二枚貝の総称であるが,とくに食用とされる重要種マガキを指すことも多い。カキ類は付着生活のため形は一定せず,軟体の足は発達しない。殻は付着する左殻が大きく深くなり,右殻はやや小さくて,あまり膨らまない。殻表には皮がなく,成長脈が板状になっている。両殻のかみ合せには黒い靱帯があるが,歯はないか,はなはだ弱い。軟体の中央には大きい後閉殻筋(貝柱)があり,外套(がいとう)膜の中のえらは大きい。雌雄同体であるが雌性の強いものと雄性の強いものとがあり,雌雄性の割合はそのときの条件で決定される。産卵後や環境が悪い場合は雄性が強くなる。イタボガキなど卵胎生の種類では,雌雄の卵子と精子が同じ生殖腺内でできるが,マガキなど卵生の種類では卵子と精子が交代してつくられる。後者は見かけ上雌雄の別があるように見えるので,かつては雌雄異体と思われていた。生殖腺は雌性,雄性のいずれが強いものでも白いので,みな雄のように思われ牡蠣と書くという。

世界的にカキの養殖は盛んであるが,それに用いられるおもな種は次のとおりである。(1)マガキCrassostrea gigas(英名Japanese oyster)サハリンから日本,台湾,朝鮮南部,中国からマレーにかけ広く分布し,日本で養殖するのは主としてこの種である。シカメ,ナガガキ,エゾガキと称するものはこの種の一型である。卵生。産卵は22~25℃が適温で,水中に産み出された卵はベリジャー幼生となるが,20日前後で付着生活に入る。成長は1年で7cm,重量60gくらい,2年で10cm,140gくらいになるが,その後はあまり大きくならない。養殖は古くから中国で行われ,またヨーロッパでも前1世紀にナポリで行われていた記録がある。日本でも簡単な養殖は行われていたらしいが,1673年(延宝1)安芸国草津で小林五郎左衛門がアサリやハマグリを囲った篊(ひび)にマガキが多数付着して成長したのにヒントを得て,養殖を始めたのが最初の記録である。1923年に妹尾秀実,堀重蔵がいかだによる垂下養殖法を考案し,養殖技術が著しく進歩した。内湾の海水温が24~25℃になる5~8月が産卵期。海中を遊泳している幼生が0.4mmくらいに成長すると岩などに定着し始める。このときに,カキ殻やホタテ殻を連ねたコレクター(付着器)を海中に入れ稚貝を付着させ採苗する。付着した稚貝の成長は速く4~5日でゴマ粒くらいになる。これが種ガキである。これをいかだ式垂下養殖するのであるが,この方法では種ガキがつねに水中にあって餌を食べるので,干潮時に露出する岩についているものより成長が速い。春に種ガキを垂下すると冬には収穫できる大きさになる。種ガキは宮城県が主産地で,養殖は広島県,有明海,宮城県などで盛んである。北アメリカでもマガキの養殖をしているが,水温が低く採苗ができないので,毎年宮城県などから種ガキを輸出している。(2)スミノエガキC.ariakensisマガキに近似した種で有明海で養殖される。卵生。(3)アメリカガキC.virginica(英名American oyster)北アメリカ東岸からブラジルまで分布し,マガキに似ている。卵生。(4)ポルトガルガキC.angulata(英名Portuguese oyster)南ヨーロッパ,地中海に分布しアメリカガキと非常に似ている。卵生。(5)オーストラリアガキSaccostrea commercialis(英名Australian oyster)オーストラリアのおもに東岸に分布する。日本のオハグロガキに近い種。卵生。(6)ボンベイガキS.cucullata(英名Bombay oyster)インドなどの熱帯地方に分布する。卵生。(7)ヨーロッパガキOstrea edulis(英名European oyster)イギリス,フランスに多く,日本のイタボガキO.denselamellosaに似ている。海底の小石に付着する。胎生。(8)オリンピアガキO.lurida(英名Olympia oyster)アメリカ西岸に分布し,味がもっともよいといわれる。胎生。

 日本ではこのほかイタボガキ,オハグロガキ,ケガキ,イワガキなどを採取して食用にするが養殖はしていない。
執筆者:

貝塚からの出土例を見ると,縄文期の日本人が食べた貝の中で,ハマグリに次いで多かったのがカキであった。《延喜式》には伊勢からの貢納物のうちに〈蠣,礒蠣〉と見える。礒蠣は〈アラカキ〉と読まれているが,礒を冠していることから,あるいは殻付きの生ガキだったかも知れない。近世前期には,吸物,酢ガキ,串焼き,殻焼き,杉焼きなどがよく行われた料理で,産地としては三河,尾張,伊勢,江戸などが知られていた。後期になると,〈畿内に食する物,皆芸州広島の産なり,尤名品とす〉(《日本山海名産図会》)といわれるほど,広島の養殖カキの声価は高まっていた。ちなみに杉焼きというのは,杉箱の底に塩をのりで厚く塗りつけて火にかけ,箱の中にみそを溶かして魚鳥野菜を煮るもので,いま行われているカキの土手焼き(土手なべとも)はこれを簡便化した料理ともいえる。
蠣船
執筆者:

大プリニウス《博物誌》によれば,カキは古くから養殖され,セルギウス・オラタが前1世紀にバイアエ湾(ナポリ湾の一部)に〈カキの池〉をつくったのが始まりという。古来,カキは春から夏に食べるべきでないとされたらしく,〈月の名にrがつかない月(5~8月)にはカキを食べるな〉というイギリスのことわざがある。中世の動物寓意譚では高貴な獅子や鷲とは逆に,最下等の卑しい生物として描かれ,下賤の意味にもなった。また,バビロニア神話では世界をカキの形になぞらえている。英語の成句に〈カキのように無口なas dumb as an oyster〉〈カキのように口が固いas close as an oyster〉とあるように,寡黙なことのシンボルともされる。
執筆者:


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食の医学館 「カキ」の解説

カキ

《栄養と働き》


 魚介類を生で食べることが少ない欧米でも、カキは別で、古くから生食されています。
 日本で食用とするカキは、マガキ、スミノエガキ、イタボガキ、イワガキなどですが、広く出回っているのは養殖したマガキです。養殖の産地は広島、宮城、岡山、岩手など。
○栄養成分としての働き
 カキは「海のミルク」として知られ、スタミナ不足の解消、病後・産後の回復、母乳の分泌(ぶんぴつ)などに効果があるといわれてきました。実際、カキはミネラルやうまみ成分をたっぷり含んでいます。
 うまみの素は、タウリンやグリコーゲンをはじめとしてアラニン、グリシンなどのアミノ酸によるもの。なかでもタウリンは、血中コレステロール値を減少させたり、血圧を正常に下げる作用をするので、高血圧によって引き起こされる脳卒中(のうそっちゅう)、心臓病などの予防に役立ちます。
 ミネラルのなかで格段に多いのは、亜鉛(あえん)と銅。亜鉛は、発育を促進し、傷の回復を早め、味覚を正常に保つ働きがあります。
 銅は、鉄を利用してヘモグロビンの合成を助け、貧血を予防したり、ビタミンCの利用を助けるといった作用があります。
〈ビタミンB12と葉酸が貧血予防に有効〉
 ビタミンでは、ビタミンB2とB12の含有量が目につきます。B2は細胞の再生やエネルギーの代謝をうながしたり、健康な皮膚や髪などをつくり、成長を促進します。また過酸化脂質の分解を助けます。B12は、葉酸(ようさん)と協力しあって赤血球の産生に働いたり、神経細胞のたんぱく質や脂質、核酸の合成を助け、神経系を正常に働かせます。
 カキは葉酸も多く含んでいます。葉酸は貧血を予防し、健全な発育をうながすほか、遺伝子情報を保存し、そのとおりに指令をだすところなので、妊娠中や授乳中はとくに摂取しましょう。カキは、鉄、銅、亜鉛、ビタミンB12、葉酸と、貧血防止に必要な栄養素をあわせもった優秀な食材なのです。
○漢方的な働き
 漢方薬膳(やくぜん)では殻(から)を牡蠣(ぼれい)といい、不眠症、動悸(どうき)、精神不安の治療に頻繁に用います。カルシウムをふんだんに含んだ身にも、同様の効果があります。
 そのほか、美肌、貧血予防にもよく用いられます。

《調理のポイント》


 欧米では、Rがつかない月(5月~8月)はカキを食べない習慣があります。日本でも「桜が散ったら食べるな」といいます。その時期になると産卵して味が落ちるうえ、中毒を起こしやすくなるからです。うまみが増すのは11月~3月。しかし例外もあり、丸みをおびたイワガキは夏が旬(しゅん)。能登、三陸、厚岸、有明海などでとれるイワガキが有名です。
 カキを堪能するなら殻つきの生で購入したいものですが、「生食用」と書いてあるむき身の場合は、つやがあり、身が膨らんで丸く盛り上がり、縁の黒みが鮮やかなものを選びましょう。
 カキは調理する前に、ダイコンおろしか濃い食塩水で、汚れやぬめりを落とします。レモン汁を振りかけ、生で食べるほか、酢ガキ、鍋もの、カキどうふ、カキめし、フライ、焼きもの、バター焼きにしてもおいしくいただけます。ただし、熱をとおしすぎると身がかたくなり、風味も飛ぶので、注意してください。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カキ」の意味・わかりやすい解説

カキ
oyster

軟体動物門二枚貝綱イタボガキ科に属する貝の種類の総称であるが,特に食用ガキをさす。固着生活のため殻は形が一定しないが,左殻で地物に固着して移動することはできない。右殻はふた状で,左殻よりも小さくふくらみも弱い。両殻は殻頂部の黒い靭帯で結ばれている。殻表には成長脈が多少板状 (棘状になることもある) に発達し,また放射肋ができることもある。軟体は,大きな後閉殻筋 (貝柱) が中央付近にあり,前閉殻筋を欠く。足は小さい。雌雄同体であるが,マガキ,アメリカガキ,ポルトガルガキ,スミノエガキなどの卵生種は,個体によって雌雄が明らかで雌雄異体のようにみえるが,1個体で性転換して雌が雄になり,また逆に雄が雌になるという交代性雌雄同体である。イタボガキ,ヨーロッパガキ,オリンピアガキなどの卵胎生種では,体内で卵が受精,孵化して幼生で産出される。生殖腺には雌雄両性があるが,雌性または雄性の強い個体などいろいろの段階のものがあり,産卵後や,環境が悪かったりすると雄性が強くなる。なお,生殖腺は雌雄とも白いので,すべて雄 (牡) と思い,漢字で「牡蠣」と書くようになった。温・熱帯海域の潮間帯や浅海の岩礫底にすむが,種によって低塩分 (マガキなど) から高塩分 (イタボガキ,ケガキなど) のところまでさまざまである。食物はプランクトンが主である。世界的に養殖も盛んで,ベリジャーが付着生活に入る時期 (体長 0.4mmぐらい) にカキやホタテガイの殻を重ねたコレクター (付着器) を海中に入れ,そこに付着した稚貝を保護,飼育する。4~5日間でゴマ粒ほどの大きさになるが,これを種苗 (種ガキ) といい,環境のよい海の筏 (いかだ) につるして養殖をする。日本での主産地は宮城県,広島県および有明海。

カキ(柿)
カキ
Diospyros kaki; persimmon

カキノキ科の落葉高木。中国原産であるが,古くから栽培され,品種はきわめて多い。高さ3~9m。よく枝分れする。7~15cmぐらいの楕円形の葉は明るい緑色で互生する。雌花と雄花があり,雌雄同株であるがかたよって生じることが多い。6~7月頃,浅い鐘状の花が咲く。4枚ある萼片は緑色,花冠は白色で壺状,上部が4裂する。雄花は小さく3個ぐらい集る。おしべは 16本。雌花は大きく単生し,1本のめしべと未発達の8本のおしべをもつ。果実の形は品種によってさまざまで,茶色の扁平な種子は透明な胚乳をもつ。東アジア各地で栽培されるが,甘柿は日本独特のもの。富有柿,御所柿,次郎柿などが代表的である。渋柿は広く各地に植えられ,身不知 (みしらず) ,蜂屋など多くの品種がある。さわし柿にしたり,干し柿にして食べる。干し柿のほかに保存用としては樽に詰めた樽柿,塩漬の柿などがある。また,この木を火葬の燃料に使ったところから,いろり火には使用しないならわしがある。材は家具や細工に用いる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「カキ」の意味・わかりやすい解説

カキ(牡蠣)【カキ】

イタボガキ科の二枚貝の総称であるが,マガキを指すことも多い。左殻は大きくて深く,岩に付着し,右殻はやや小さく,ふくらみは弱い。形は付着生活のため一定しない。殻表の成長脈は板状に発達してあらい。かみ合せは短く黒い靭帯があり,歯はないか,はなはだ弱い。軟体は中央に大きい貝柱(後閉殻筋)があり,足は発達しない。日本近海には約25種,なかでもマガキは古くから食用にされ,殻の表面は多数の薄板が重なり,濃紫色の放射状色帯が走る。内湾の比較的塩分の少ない潮間帯の岩礫(がんれき)に付着,産卵期は5〜8月。日本全土に分布。ベリジャー幼生をホタテガイ等の採苗用貝殻に付着させ採苗し,それを養殖する。また種苗を米国に輸出。スミノエガキの殻はマガキに似て有明海に多い。ケガキは殻表にとげがあり,北海道南部以南の外洋の岩礁につく。以上の種は卵生で,同一個体に雌雄性が交替に現れる。イタボガキは殻表に細かいひだをもち,内湾の浅い海底の石に付着する。卵胎生で雌雄同体。一般に栄養価が高く,酢ガキ,カキ鍋などで美味。旬(しゅん)は冬季。〔養殖〕 幼貝の付着した採苗用貝殻を適当な間隔で針金に連結し,竹の筏(いかだ)からつるして育てる筏式垂下養殖が最も普通であるが,他に筏の代りに浮きだるを縄でつないだものを用いる延縄(はえなわ)式,海中に杭(くい)を打って横木を並べたものを用いる簡易垂下式,ある程度育てた幼貝を海底にまいて育てる地撒(じまき)養殖,海中に木や竹を立て幼貝を付着させてそのまま育てるそだひび養殖もある。主産地は広島,宮城で,宮城は種苗の産額も多い。

カキ(柿)【カキ】

本州〜九州,中国に自生するカキノキ科の落葉高木。古くから果樹として栽培される。葉は広楕円形で,長さ7〜17cm,花は淡黄色で5〜6月に咲く。甘ガキと渋ガキに大別され,幼果期にはともに渋いが,前者は成熟期に渋が抜ける。甘ガキは関東以西に良品を産し,富有,次郎,御所などが代表的品種。渋ガキは比較的広く分布し,代表的品種は平核無(ひらたねなし)など,おもに干柿とする。渋抜きには,果実全体にアルコールを噴霧し密封する方法が一般的。近縁のマメガキ(シナノガキとも)は古く中国から渡来したといわれ,果実は径約1.5cmと小さい。柿渋をとるため,栽培された。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

普及版 字通 「カキ」の読み・字形・画数・意味

【家】かき

家の父祖の名を(い)む。〔礼記、曲礼上〕君にては私無し。〔〕臣、君に言ふときは家を辟けざるを謂ふ。、二無ければなり。

字通「家」の項目を見る


【花】か(くわ)き

草花。〔梁書、徐勉伝〕但だ培(ほうろう)の山を爲(つく)り、石を聚め果を移し、雜(まじ)ふるにを以てし、以て休沐(きうもく)(官吏の休暇)を(たの)しましめ、用(もつ)て性靈を託さざる能はず。

字通「花」の項目を見る


期】かき

時。

字通「」の項目を見る


嬉】かき

楽しむ。

字通「」の項目を見る


【嘉】かき

よい花木。

字通「嘉」の項目を見る


【訶】かき

そしる。

字通「訶」の項目を見る


【禾】かき

穀草。

字通「禾」の項目を見る


【荷】かき

隠士。

字通「荷」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

栄養・生化学辞典 「カキ」の解説

カキ

 カキ目の二枚貝で,広く世界的に食用になっている.マガキ(giant Pacific oyster, Japanese oyster)[Crassostrea gigas],スミノエガキ[C. ariakensis],イワガキ[C. nippona],イタボガキ[Ostrea denselamellosa],ヨーロッパヒラガキ(European flat oyster)[O. eudlis]などいくつかの種を食用にする.

カキ

 [Diospyros kaki].カキノキ目カキノキ科カキノキ属に属する.果実.ビタミンAに富む.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のカキの言及

【成木責め】より

…果樹に霊を認めてそれを威嚇し,豊産を約束させる呪法。小正月に行われ,木責め,木まつり,ナレナレなどともいわれる。全国に広い分布をもつが,果樹といってもほとんどは柿の木に対するものである。まず2人一組になって果樹に向かい,1人が〈成るか成らぬか,成らねば切るぞ〉と唱えながら鎌や斧,なたなどで樹皮に少し傷をつけ,もう1人が果樹になったつもりで〈成り申す,成り申す〉などと答えると,傷の所に小正月の小豆粥が少し塗られるというのが一般的な形式で,おとなも子どもも参加する。…

【魚貝毒】より

…近縁種のエゾボラモドキの唾液腺にもテトラミンがある。
[ホタテガイなど]
 ホタテガイ,アカザラガイ,カキなどが時に有毒化する。これは,餌のプランクトンに有毒物質をつくる種類があり,その毒を中腸腺に蓄積するためである。…

※「カキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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