触媒化学(読み)しょくばいかがく/のーべるしょうのしょくばいかがく(その他表記)catalyst chemistry

知恵蔵 「触媒化学」の解説

触媒化学(ノーベル賞の)

2007年ノーベル化学賞は、化学肥料の合成や排ガス浄化など幅広い分野で欠かせない触媒の原理を解明した、ドイツのマックス・プランク研究協会フリッツ・ハーバー研究所のゲルハルト・エルトゥル名誉教授(71)に贈られた。授賞理由は「固体表面の化学反応過程に関する研究」。エルトゥル博士は金属などの固体表面で起こる化学反応を調べるために電子分光法という表面解析法を考案した。彼が先導した表面解析技術は、触媒として働く金属表面で起きる化学反応の研究のみならず、腐食やオゾン層破壊の仕組の解明、半導体や燃料電池の製造など、多方面で活用されている。 エルトゥル博士の代表的な業績は、鉄(触媒)の表面で窒素水素がどのように反応してアンモニア〈化学肥料の原料、化学式NH(3)〉が生成するかの原理を明らかにしたこと。すなわち、上記の電子分光法を使って、まず窒素分子が鉄の表面で窒素原子2個に分かれ、その原子に水素原子が1個ずつ計3個結合してアンモニア分子に変わることを解明した。また、自動車の排ガスの浄化などに使われる白金触媒の表面で一酸化炭素が二酸化炭素〈CO(2)〉に酸化される仕組みも明らかにした。その際、紫外線照射した白金表面から飛び出てくる電子を光電子顕微鏡を用いてリアルタイムで画像化する技術を開発し、実際に白金触媒で起きている表面反応が伝わる様子を、波状の渦巻き模様などとして表現することに成功した。 なお、エルトゥル博士は1992年に「日本国際賞」を受賞している。

(市村禎二郎 東京工業大学教授 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「触媒化学」の意味・わかりやすい解説

触媒化学
しょくばいかがく
catalyst chemistry

触媒の作用を解明し,触媒の作用と触媒の物理的,化学的構造,性質との関係を研究する物理化学の一部門。 1836年 J.ベルセーリウス触媒作用を特殊な化学現象として認識したことに始り,1901年 W.オストワルトによって触媒の定義が与えられたときから科学として体系化された。触媒の作用は特定の化学反応の速度に影響を及ぼすことであるから,すぐれた触媒への探究が触媒化学の中心であり,触媒への吸着,表面積,細孔構造,結晶格子欠陥,酸性点などに関する界面物理化学的知見と反応速度論とが総合された特異な研究分野である。

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